第250話 シベリア決戦(5)
ソ連兵達は、各々小銃や手榴弾を持って日露軍戦車部隊に突撃を敢行する。中には何も手にしていない兵士も居る。彼らは、死んだ味方兵の持っている武器を回収して突撃する事を前提にしているので、武器を持たされてはいなかったのだ。
周りでは次々に爆発が起こり、その度に数人から十数人のソ連兵が吹き飛ぶ。さらに、日露軍からは機銃掃射も始まり、すさまじい勢いで味方が斃れていった。しかし、誰もその突撃を止めようとはしない。立ち止まったり逃げようとすれば、督戦隊の弾丸が後ろから飛んでくるのだ。
そして、何人かのソ連兵が日露軍の装甲車にたどり着くことが出来た。ソ連兵は装甲車の上に這い上がろうとするが、その時装甲車の擲弾筒から何かが発射され、それは30メートルくらい上空で炸裂した。その炸裂した弾から飛んできた無数の破片によって、装甲車に取り付いたソ連兵は皆重傷を負って動けなくなってしまう。
日露軍の戦車と装甲車は、ソ連兵の死体を踏みつけながら進軍する。戦場はソ連兵の死体で埋め尽くされており、もう地面を見ることが出来ないほどだ。
――――
1940年7月2日午前3時
ソ連軍地下陣地を爆撃した九七式戦闘攻撃機は一度帰投し、再度バンカーバスターを装備して飛び立つ。今度はオムスク後方に位置するソ連軍滑走路を穴だらけにして無力化することが目的だ。
九七式戦闘攻撃機とU2偵察機および哨戒機は、ソ連軍の対空砲を避けて大きく迂回し滑走路に近づく。そして次々に滑走路に向かってバンカーバスターを投下していった。
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「日露軍の爆撃だ!高射砲、何をしている!応戦だ!」
攻撃を受けた滑走路脇から、120mm高射砲が射撃を開始する。しかし、最高到達高度17,000mを誇るこの高射砲でも、九七式戦闘攻撃機を捉えることは出来なかった。
「被害報告をしろ!滑走路はどうなった!?」
「航空機にはほとんど被害はありませんが、滑走路が穴だらけです!離着陸は不可能です!」
「くそったれ!すぐに修復にかかれ!ギリギリでいい!何としても夜明けまでに300mの滑走距離を確保するんだ!」
300mあれば、航空機は何とか離陸が出来る。しかし、その距離では着陸は不可能だ。それでも、夜明けまでにはなんとか離陸できるようにしてオムスクの友軍を支援しなければならない。航空兵にとっては片道切符となるが、最後は機を捨てて脱出すれば良いことだ。何としても日露軍の突破を許してはならない。
――――
ソ連のオムスク北方方面軍の歩兵は、日露軍の攻撃の前に蹂躙されつつあった。日露軍の戦車隊は、動けなくなったソ連兵を踏みつぶしながら進軍する。日露軍はこの対ソ連戦に於いて、捕虜をとることをしていなかった。
ソ連兵は、どんな状況になっても降伏をしなかった。そして、戦闘が終わって負傷したソ連兵を救助しようとした日本兵が何人も犠牲になったのだ。
瀕死の重傷を負って動けないと思われたソ連兵も、最後の力を振り絞って手榴弾のピンを抜き日本兵と共に自爆をする。このような惨劇が繰り返され、ついに、救助することを諦めた。
本来なら、動けなくなった敵兵は救助し捕虜として扱わなければならないのだが、そんなことをしていたら味方に損害が出てしまう。なので、重傷を負ったソ連兵に対しては、“放置”という対応をとらざるを得なかったのだ。
戦闘開始から4時間が経過し、オムスク北方ソ連軍の掃討もほぼ終わりに近づきつつあった。
「オムスク北方のソ連軍の撃退に成功した!このままソ連軍中央の後ろに回り込むぞ!」
日本軍は工兵部隊を前面に押し出し、イルチェイシュ川に浮体橋を架けていく。川幅は100mくらいある大きな川だが、この時期のイルチェイシュ川は流れが穏やかだ。日本軍工兵部隊によって、あっという間に何本もの浮体橋が敷設された。
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「北方方面軍が突破されたようです!日露軍の戦車および車両1,000両以上がイルチェイシュ川を越えてきます!」
「くそっ!中央軍の第三・第四・第五戦隊を北に回せ!何としても食い止めろ!榴弾砲の支援砲撃も開始だ!」
総司令のロコソフスキーは部隊の移動と榴弾砲(高射砲も含む)の支援砲撃を命令した。日露軍が突破してきたと言うことは、友軍は壊滅したと考えて間違いない。北方司令部とは有線電話が敷設されているが、連絡が途絶えて既に1時間が経過している。中央軍から戦力を移動させると、ここが手薄になってしまうため本来はやりたくない。しかし、北方が食い破られて後方に回り込まれたら持ちこたえることは出来ないだろう。ソ連軍の布陣は、東からの攻撃に対応するように敷かれている。西側から攻められては混乱は必至だ。
――――
「400mの滑走路を確保できました!離陸可能です!」
「よし、すぐに離陸開始だ!少しでも日露軍の足を止めるんだ!」
丁度夜明け頃、穴だらけだった滑走路の一部を修復し400mの滑走距離を確保することができた。着陸は難しいが離陸だけならなんとかなる。燃料も出来るだけ少なくし短距離で離陸できるようにして、片道切符を握らされた航空機が次々に離陸していった。
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