第246話 シベリア決戦(1)
1940年6月
日本帝国陸軍第一方面軍(シベリア方面軍)は、イルクーツクを陥落させた後、シベリア鉄道沿いに順次攻略を進めていた。
ソ連軍はオムスクを決戦の地と定め、イルクーツクからオムスクまでの都市では遅滞戦闘に徹することにした。各要所には5万程度の防衛軍を駐屯させ、特殊な任務を帯びた兵士以外、最後の一兵になるまで戦わせたのだ。降伏も撤退も許さず、文字通り必死の戦闘、つまり“必ず死ぬ”戦闘を行わせた。
特殊な“任務”とは、日本軍の情報を持ち帰ることを最優先とする任務のことだ。未だ実態のつかめない日本軍の装備や戦力を調査し、モスクワに持ち帰る。できれば、破壊や鹵獲した日本軍の兵器を持ち帰ることが任務として与えられた。そして、彼らはある程度の情報を持ち帰ることに成功していたのだ。
こういったソ連軍の“必死”の遅滞戦闘によって日本軍はかなりの損害を出してしまう。しかし、日本軍はソ連軍を排除しつつ、予定より一ヶ月遅れでなんとかオムスクまで50kmの地点に進軍することが出来ていた。
「ソ連軍の様子はどうだ?」
「はい、梅津司令。統合幕僚本部と偵察機による情報によれば、兵員250万以上、戦車8,000両以上、野砲・高射砲は60,000、航空機は7,000機を越えるようです。さらに後方からは続々と補給部隊が到着しています」
「相変わらずすさまじい数だな。しかし、ここを突破しない限りモスクワを落とすことは出来ん。やるしかないな」
※史実の“クルスクの戦い”では、ソ連軍は250万人の兵力と戦車7,500両、航空機3,500機を投入している。これは延べ数ではなく実数なので、ソ連の動員力がどれほどすさまじいかが良くわかる。
日本陸軍はイルクーツク攻略の後から、後方のソ連軍補給部隊に対しての攻撃を始めていたが、爆撃機の損害が目立ってきていた。日本陸軍は、12,000m上空から爆撃を行ったが、それに対してソ連軍は新型高射砲によって応戦してきたのだ。
このソ連軍新型高射砲は60口径120mmで、最大射高は17,000m以上を誇る。射角48度で発射した場合の最大射程は30,000mにもおよぶ驚異的な高射砲だ。これは、1932年の日本軍によるウクライナ支援の際、飛行艇が10,000m以上上空を飛んでいたことが確認されたため開発をしていたのだ。1939年末から順次配備が開始され、このオムスクには13,000門が集中配備されている。
ソ連軍補給部隊の爆撃を行った日本軍機は、数百門から千門以上の高射砲による集中砲火を浴びてしまった。たとえソ連軍に近接信管の技術が無かったとしても、数の暴力の前に損害を免れることは出来なかったのだ。
また、航空機を発見しにくい夜間には、ソ連軍補給部隊は森林の中に隠れて索敵から逃れるようになっていた。そして、前線の部隊は塹壕だけではなく、長大なトンネルを掘ってオムスクの巨大要塞化を完了していた。
航空機からの爆撃は損害が無視できなくなったため、現在はほぼ中止されていた。それに、トンネルの中に隠れられては爆撃の効果もそれほど期待できない。
史実でも、硫黄島の戦いでは要塞化した日本軍陣地の攻略にアメリカ軍は多大な損害を出している。十分な準備をして待ち構えている要塞を攻略するのは至難の技なのだ。
さらにソ連軍戦車や装甲車には、車体の上面に1mくらいの隙間を空けて金網をかぶせるという改造が施されていた。日本軍には、小型の成形炸薬弾を多数内包した航空爆弾かロケット砲が存在することが確認されていた為、その対策を施したのだ。
――――
「新型の120mm高射砲は威力を発揮しているようだな」
「はい、ロコソフスキー司令。12,000mを侵入してくる敵に対しても十分に効果を発揮しています。やはり、高射砲の大量投入と集中運用は成功ですね」
「これで、空からの攻撃はかなり防ぐことが出来ている。あとは、敵の長射程ロケット砲対策がうまく行けば良いが」
「今までの戦訓から、敵のロケットは上空数十メートルで大量の擲弾をばらまくことがわかっています。高射砲や野砲にも10mm防楯を装備したのでかなり効果を発揮すると思われます」
今回の作戦は、日露軍をオムスクの平原に誘い込み包囲殲滅する作戦だ。なので、高射砲と野砲は設置したあとは基本動かすことはない。その為、砲を半分程度隠せる壕を掘った上で、兵士を守るための10mm防楯を兵士の頭の高さに設置している。これで擲弾による攻撃は十分に防げるだろう。
「ここを突破されれば、ウラル山脈まで進軍されてしまう。何としてもヤツらを撃滅せねばな」
――――
1940年7月1日
増援のロシア軍21万が布陣を完了し、総攻撃の準備が整った。このオムスクには日露軍61万人、ソ連軍250万人が集結している。今まさに、人類史上空前絶後の大戦車戦が開始されようとしていた。
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