第245話 フランクリン・デラノ・ルーズベルト

「大統領。AEU(アジア経済連合)の脅威は、我がアメリカにとっても放ってはおけなくなっています。ここ1年は金属製品関連の輸出が伸びており、総合的には黒字ですが一部の産業では壊滅的な打撃を被っております」


 AEU(アジア経済連合)との貿易に関しては、ここ1年くらいは総合的に黒字が続いている。アメリカは武器の輸出には制限をかけているが、部品単位ではその審査は甘かった。実際、日本軍の戦車や車両に使われる転輪や履帯、さらに防弾鋼板などの鉄材の輸出が激増している。


 しかしその反面、日本やロシアからの繊維製品の流入によって米国の繊維産業は壊滅的な打撃を受けていた。日本とロシアは非常に安価でデザインと機能性の良い服を大量生産し、米国市場を席巻していたのだ。


「たしかにな。孫達が着ている服はどれもこれも安くてデザインが良い。そして、ほとんどが日本とロシアで製造されているらしいな」


「はい、大統領。アメリカの繊維産業は壊滅状態です。南部で大量に生産される綿花は、そのまま日本とロシアに輸出され、そして繊維や服飾になって戻ってくるのです。今では、“GAB”“H&N”“COCHIN”などロシアの有名ブランドが若者の間では人気なのですよ」


「我が国の若者には困った者だな。愛国心のかけらもないのか?」


「大統領。ちなみに、今お召しになっているスーツはどちらのものでしょう?テーラーメイドですか?」


「人前に出るときはテーラーメイドだが、執務だけの時は吊るしのスーツだよ。今日のスーツは“ポロ・ラルグオーフェンス”のものだ。古き良きトラディショナルなアメリカデザインをするブランドだよ。仕立ても良いし、とても気に入っている」


「大統領・・・。それ、ロシアのブランドです・・・」


「な、なんだと!デザイナーのラルグオーフェンスはアメリカ人じゃないか!そんなはずはあるまい!」


「デザイナーはそうなのですが、会社の資本はロシア資本です。それほどまでにAEUの経済侵略は進んでいるのですよ」


 ルーズベルトの顔がみるみる青ざめていく。自身が気に入っていたブランドがまさかロシアの支配下にあったとは。元々体の弱いルーズベルトは、あまりの衝撃で吐息が荒くなってしまう。


「はぁはぁ、しかし、繊維製品には40%の関税をかけているにも関わらずアメリカ市場を席巻しているのだ。これ以上はどうすることもできまい」


「大統領。自国産業防衛のための緊急大統領勅令があります。繊維製品に対する関税を100%以上に引き上げましょう。自国産業を守る為と宣伝すれば支持率も上がります。そして、露日が報復関税をかけようとしても我が国から輸出している物は、現在連中がしている戦争に不可欠な製品ばかりなので、対抗のしようがありません」



「なるほどな。これなら支持率向上も期待できるか。しかし、物理的にAEUを解体とはどういうことだ?」


「はい、大統領。最終的には戦争も辞さないと脅しをかけるのです。先の欧州大戦に参戦するきっかけとなった事件を思い出して下さい。ドイツに撃沈されたルシタニア号では、たった128人の米国人犠牲だったのですよ」


 1915年5月7日に、イギリス船籍の大型旅客船ルシタニア号がドイツのUボートに撃沈され、128人の米国人が犠牲になる事件が発生する。この事件のために対ドイツ感情は悪化し、さらにその後発覚したツィンメルマン電報事件が決定的となって、アメリカは先の欧州大戦(第一次世界大戦)において対ドイツ戦争に参戦することとなった。


「しかし、別に日本から攻撃などされていないではないか?まさか?」


「はい、大統領。露日製品の関税を上げれば、連中は激しく抗議するでしょう。そして対米感情は悪化します。そこで、我が国が警戒をしないとならないのが、ソ連難民を支援している国際赤十字への攻撃です。ソ連のシベリアにおける戦闘で民間人の難民がかなり発生しております。基本的には日本とロシアが保護しておりますが、その支援に、国際赤十字も参加しており、アメリカからも支援物資が届けられております。太平洋とオホーツク海ではソ連の潜水艦は駆逐されているので、赤十字の船に護衛はありません。その非武装の支援船が、日本の潜水艦によって攻撃される可能性が危惧されますな」


「ルシタニア号の再来というわけか。しかし、露日と戦争になってしまって我が国が勝てるのか?連中の兵器はすさまじく高性能なのだろう?」


「はい、大統領。400kmで敵艦を撃沈できる対艦ロケットや、100kmの距離で航空機を撃墜できる対空ロケットの情報があります。ただし、AEUの防衛地域は広いのです。領域の全てをカバーできるはずはありません。その対策については、陸軍のアーノルド中将から様々な提案がされています。カーチス・ルメイ大佐という優秀な若手が居るようで、今度いくつかのプランを持ってくるそうです」


「そうか。いずれにしても今後の世界は我が国が指導し平和と繁栄に導かねばならぬ。その為に出来ることは全てしようではないか。それが神が我々に与えた“ミッション”なのだからな」

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