第240話 ソ連の戦車とドイツの空の魔王

1940年3月


 ウクライナにあるハリコフ機関車工場 (現在は戦車を製造している)


「改良型T34の生産も軌道に乗ってきたか。しかし、砲塔がこんなにも変わってしまっては、同じ戦車とは思えないな、同志コーシュキン」


「はい。少々不格好になってしまったので、同志スターリンの覚えは悪かったようですが、性能は圧倒的に向上しています」


 1939年8月のノモンハンにおいて、ソ連軍は日本軍の九七式中戦車改の鹵獲に成功していた。さらに、イルクーツク攻防戦での日本軍新型戦車との交戦記録や清帝国(満洲)に潜伏させているスパイからの情報によって、さらに巨大な戦車を日本は実戦投入していることは間違いなかった。ソ連軍はこれらの情報によって脅威を感じ、日本軍兵器の高性能化に対応する為、T34の改良作業が急ピッチで行われていたのだ。


 そして、ここにT34-85が完成する。


 日本軍の九七式中戦車に搭載されているディーゼルエンジンは、V型8気筒13Lの小排気量ながら400馬力以上を出せる高性能なエンジンだった。そして、ソ連軍はこの鹵獲したエンジンを12気筒化し、さらにシリンダー口径も拡大して26Lとし650馬力を出すことに成功したのだ。


 さらに、エンジン自体が小型化したために、エンジンルームに大量の消火剤を設置することが出来、またエンジンルームと操縦室を区切る隔壁も頑強にする事ができた。そして、砲塔の後部を延長し、そこに砲弾を多数格納できるようにして砲塔内部と区切る隔壁も追加した。


 また、砲塔の外側には35mmの防弾鋼板を30度の角度で追加溶接している。この追加装甲が、見た目を不格好にしている最大要因だった。正面から見ると、車体の上に“傘”をさしているような形に見えてしまう。しかし、これらの改良によって戦車兵の生存性は著しく向上した。


 もちろん、攻撃力の向上も実施された。砲塔には85mm高射砲を転用した主砲を乗せることに成功し、破壊力・命中精度共に著しく向上している。この戦車砲は初速790m/sを誇り1,000mでの貫徹力は110mmもあるのだ。


「しかし、日本軍の新型戦車の主砲は100mm以上あると予想されているが、対応出来るのか?」


「はい。スパイから送られて来た写真からですと、かなり大柄な戦車です。あの大きさなら重量は60トン以上になりシベリアの泥濘湿地では動きが取れないと思われます。もし、軽量に仕上げているとすれば、必然的に装甲は薄くなり、このT34-85の敵ではなくなります。それでも、100mmの戦車砲は脅威ですが、現在我が軍もT34に100mm砲を積む駆逐戦車の開発を行っております。こちらは夏頃には量産化が見込まれていますので、日本軍がどれほど強力でも、これなら十分に押し返すことが出来ます」


「日本軍はイルクーツクを陥落させた後、そこに集結を図っていると推測される。雪が溶けるのを待って、西への進軍を再開するだろう。なんとしても、日本軍の侵攻を抑えなければな」


 ――――


1940年4月 ドイツ ミュンヘン郊外


 一機のJu87シュトゥーカが急降下を始めた。そして、その機の主翼に取り付けられている37mmFlak 18機関砲が火を噴き、次の瞬間地上にあった装甲車両は粉々に砕け散っていた。


 装甲車両を粉砕したJu87は急激に機首を上げて上昇に転じる。そしてすさまじい勢いで上空2,000m付近まであっという間に上昇してしまった。


 そして、何度か急旋回や急降下を繰り返した後滑走路に着陸してくる。


 整備兵が脚立を持って駆け寄るが、パイロットはそれよりも早くコクピットから出て主翼に立ち、そして地上にジャンプして降りてしまった。


「どうだい?ルーデル大尉。君の要望通りの37mm機関砲だ。これで、イタリアに上陸してくるであろう英日軍を蹴散らすことはできそうか?」


「はい、ウーデット中将。この改良型Ju87を持ってすれば、地上部隊など1キロも前進させませんよ」


 鹵獲した日本軍のターボプロップエンジンのコピーが完成し、すぐさま量産体制に入った。ターボプロップエンジンは、V12ガソリンエンジンに比べると部品点数も少なく、遥かに小型軽量だ。オリジナルの耐熱合金の組成も解析でき、量産型でもかなりの高温に耐えることが出来るようになった。ドイツの科学力と工業力を持ってすれば、既にある物の解析と大量生産は難しくないのだ。オリジナルの日本軍エンジンと比べると多少出力は下がるが、今までとは比べものにならない性能のエンジンが完成した。ドイツ軍航空機のエンジンは、急速にターボプロップエンジンに置き換わっていった。


 そしてこのJu87も2,400馬力を発生するターボプロップエンジンに換装され、最高速度も550km/hに達していた。大幅な高速化が実現した為、後部銃座を廃止してそこに燃料タンクを増設。航続距離は2,800kmにも及ぶ高性能化を果たしている。


 さらに、史実では37mm1門あたり12発しか搭載できなかったが、エンジンパワーに余裕が出来た為1門辺り72発のベルト給弾に改造された。


「今まで鈍牛だったJu87がまるでサラブレッドの様です。主翼面積が増えているので旋回性能が抜群に良くなっています。それに、やはりエンジンパワーが2倍以上になったのが大きいですね。今までは5,000mまで上昇するのに15分以上かかっていましたが、この新型なら10分以下ですよ」


「しかし、英日軍の対空能力は非常に高いから油断をするなよ。戦技研から通達があったように、極低空で山の影を飛行して近づくようにしないとな。そして、まず最初に対空砲や対空ロケット部隊を叩くんだ。君にはその作戦を専門に行える部隊の育成をして欲しい。我が大ドイツの防衛は、君の働きにかかっているんだよ、ルーデル」


 ルーデルは、ウーデット中将の組織した第三急降下爆撃航空団に所属していた。そして、そこでメキメキと実力を開花させ、現在では航空団の中でもっとも技量の高いパイロットとされていた。


 そして、ウーデットはルーデルの提案した37mm機関砲装備の急降下爆撃機に可能性を認め、急遽開発をおこなったのだ。


 もうすぐ、メッサーシュミット社で開発中のジェット戦闘機も実用化される。これが揃えばヨーロッパ本土の防衛は完璧だとウーデットは思っていた。


 そして、ルーデル達はイタリア支援に派遣されることになる。

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