第239話 ターラント沖海戦(7)
日本の大淀型巡洋艦から放たれたミサイルは、戦艦ロドニーの上空1,500mほどの所で爆発した。そしてその直後、ロドニーの近くに水柱が複数発生する。
「!?ま、まさか!敵の主砲弾をミサイルで撃ち落としたというのか?」
戦艦ロドニーの上空で爆発が起こり、その直後に水柱が上がったと言うことは、ロドニーを直撃する砲弾だけを撃ち落としたとしか思えなかった。音速の2倍近い速度で落ちてくる、たった直径40cmほどの砲弾を撃墜するなど常識ではあり得ない。サマヴィルの40年に及ぶ海軍キャリアが“そんなことは不可能だ”と言っている。だが、それが現実に目の前で起こっているのだ。
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大淀型巡洋艦に搭載されている対空ミサイルは、マッハ3で飛来する直径40cmのミサイルを撃ち落とす能力がある。なので、直径38cm、速度もマッハ2未満の砲弾を撃ち落とすことなど造作も無いことだった。また主砲の127mm速射砲も、音速を超える速度のミサイルを撃ち落とす能力がある。
「無事撃ち落とせたな。しかし、命中弾が続くようなら対空ミサイルも品切れになるぞ」
大淀型巡洋艦“高津”のCICで、艦長の勝田大佐はつぶやく。戦艦部隊の護衛の任務を受けてはいるが、搭載しているミサイルにも限りがある。使い果たすと127mm速射砲での迎撃になるが、マッハ2の砲弾を撃ち落とせるかどうかは微妙な所だった。自艦に近づいてくる目標なら照準は付けやすい。しかし、近傍の艦に向かっている目標は、相対的座標の動きが大きく命中精度が下がるのだ。
「早くイタリア艦隊を片付けてくれよ」
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「命中したかどうかはわからないのか!」
イタリア艦隊からでは、イギリス艦隊を目視することが出来ていない。全力で近づいているはずなのに、全く見えてこないのだ。
水平線より向こうの敵に対しては、航空機による着弾観測が必須だがその行動を完全に抑えられている。これでは、照準が合っているのかどうかわからない。敵の発砲煙から場所と動きを予測して、主砲を撃つしかなかった。
突然左舷側700m付近を航行していた戦艦リットリオの周りに水柱が上がり、激しい爆発音と衝撃波に襲われた。戦艦ローマの艦橋にいる将兵たちは、その衝撃に声を上げてしまう。
「うぉぉっ!リットリオ被弾!」
リットリオは2番砲塔の脇にある副砲と艦橋の中央付近から激しく煙を上げていた。そして、射撃管制室がやられたのか、主砲の発砲が止まってしまった。
「くそったれ!リットリオもやられたか!」
そしてリットリオの爆発から1分40秒後、戦艦ローマに複数の直撃弾が撃ち込まれた。イギリス艦隊の41センチ砲弾はローマの艦橋天蓋を突き破り、提督のカヴァニャーリ以下、艦隊指揮を執る参謀全員を消滅させてしまったのだ。
そして残りの艦全て、イギリス艦隊の砲撃によって大破、もしくは轟沈の運命をたどった。
――――
「イタリア艦隊、完全に沈黙しました!轟沈8、大破5です!」
「よし、我が艦隊の完全勝利だな。まだ勝利の美酒に酔うのは早いぞ!これよりターラントを目指す!」
司令のサマヴィルは、そうは言ったものの艦隊決戦を大勝した興奮を隠す事が出来なかった。これだけの大戦果はトラファルガー海戦以来の快挙だ。そのトラファルガー海戦での武勲によって、ネルソン提督は伝説的な英雄として尊敬を集めている。そして、そのネルソン提督の偉業を塗り替えたのはこの私サマヴィルだ。きっとイギリスの歴史に永遠に刻まれるであろう事を思うと、恍惚にも似た感情がわき上がってきた。
「くくくっ」
「サマヴィル司令、どうかされましたか?」
「あ、いや、何でも無い」
――――
イタリア艦隊を全滅させた後、日英艦隊はイタリア本土の軍港都市ターラントに向かう。そして16時、ターラントに対して無慈悲な砲撃が始まった。
ターラントを防衛する沿岸砲台は事前に、日本軍の攻撃によって沈黙させられている。イタリア空軍の航空機も到着する前に全機撃墜された。
もはやイタリアには日英艦隊を止めるすべはなかったのだ。
ターラントに対する砲撃は1時間以上に及んだ。そして、港湾施設や石油備蓄施設など、ありとあらゆる軍関連施設は破壊され、発生した火災は二日間に渡って燃え続けた。
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そしてその夜、空母瑞鳳から30機の九七式戦闘攻撃機が爆装をして飛び立っていった。
作戦目的は、イタリア全土の発電所や送電線の破壊だ。九七式戦闘攻撃機は夜間精密爆撃によって、イタリア全土の火力発電所や水力発電所を次々に破壊していった。爆弾を投下した後は、一度空母に帰投し、再度爆装をしてから飛び立つ。朝までに各機3回出撃し、イタリアの発電能力の90%を奪うことに成功した。
ムッソリーニが提唱する“新ローマ帝国”の復興にふさわしい、電気のない2000年前のローマ帝国に戻してやったのだ。
――――
「艦隊が全滅しターラントは壊滅、しかも発電所のほとんどを破壊されたというのか!」
翌朝早朝、防空壕から出てきたムッソリーニは側近たちを怒鳴り散らしていた。
政府主要施設や軍の施設は、小規模な自家発電設備がある。なので、構内電話や照明は使用できるが、その他の場所ではほぼ完全に電力が止まっている。
どうやって調べたのか、大規模な工場の敷地内にある工場専用の発電設備も爆撃されており、現時点に於いてイタリアの工場稼働率は限りなくゼロに近かった。
そしてその日以降、ほぼ毎夜日本軍による空襲が行われ、工場や軍施設、主要な橋が次々に破壊されていく。
イタリアの国民生活は混乱を見せ始め、日英軍の攻撃に対して何ら対策を取ることの出来ない政府に不満を募らせるのであった。
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