第237話 ターラント沖海戦(5)

1940年4月24日午前2時50分


 イタリア空軍


「駆逐艦と水雷艇が全滅か・・・。しかし、艦隊決戦を仕掛けるとはな・・」


 カヴァニャーリ提督とイギリスのサマヴィル司令の通信を聞いていたイタリア空軍参謀たちが、善後策について協議していた。


「だが、元々夜明け直前に艦隊は前進して、総攻撃を仕掛ける予定だったのだから作戦通りとも言えるが・・」


「カヴァニャーリ提督が何も言ってこなかったのは、無線傍受を心配してのことだろう。ならば、予定通り艦隊の攻撃に合わせて陸上基地から支援を行うということだ。艦隊を見殺しには出来んよ。それに、ご丁寧に座標まで指定してきている。敵のレーダーに探知されないよう、海面ギリギリを飛ぶように指示を出せ。幸い今日は満月だから、海面にぶつかることはないだろう」


 イタリア空軍元帥のイタロ・バルボは、作戦通り艦隊行動に合わせて航空支援を行うことを決断する。イタリア艦隊が全滅してしまえばリビアからの資源輸入は途絶え、もう戦争を続けることは出来ない。イタリア艦隊を見捨てるという選択肢は存在しなかった。


 そして、その命令は無線傍受を警戒して、すべて有線電話にて各基地に伝達された。


1940年4月24日午前4時


「イタリア本土の空軍基地から、多数の航空機が離陸しています。距離からすると、丁度夜明け頃にイギリス戦艦部隊と会敵します。かなり低空を飛行しているようです」


 上空に滞空させている哨戒機から連絡が入る。高度12,000mから索敵をしているので、半径250km以内の航空機を見逃さずに探知できる。日本軍哨戒機のルックダウン能力は非常に高い。低空飛行をしたからといって、隠れることなどできないのだ。


「まあ、座標を指定したのだから当然航空支援もあるか。ここから艦対空ミサイルでの迎撃は遠いな。九九式艦上戦闘機に対空ミサイル装備で迎撃に上がらせろ。攻撃機を優先してたたき落とせ!」


 ――――


1940年4月24日午前5時


 SM.79攻撃機220機と、護衛のC.200/C.202混成戦闘機隊230機は、低空で南を目指していた。この時代のイタリア軍機には、夜間での対艦攻撃能力は無い。なので、イギリス艦隊と夜明け頃に会敵するように離陸をしたのだが、月明かりがあるとは言え夜間の低空飛行はやはり怖かった。それでも無事飛行を続けもうすぐ太陽が出てくる時間になり、辺りもかなり明るくなってきた。一安心と行きたいところだが、明るくなったと言うことは、敵からも発見されやすくなると言うことだ。警戒を怠ってはいけないと皆気を引き締める。


「前方に光る物が見えます!数は、、多数です!増えています!」


 前方を注視していた副操縦士が、多数の光る物体を発見して叫んだ。パイロットもその光りを確認するが、かなり小さく遠いようだ。


「あれがブリーフィングで言っていた日本軍の誘導弾か!敵に発見された!全機回避行動を取れ!それと、レーダー欺瞞アルミ箔を投下だ!」


 隊長機は無線で全機に連絡をした。自機も僚機との衝突に気をつけながら回避行動を取る。しかし、極低空で飛行している為、上昇するくらいしか回避する手立てはない。


 ドーン!ドーン!ドーン!


 前方に発見した小さな光りは、大きさこそほとんど変わらないのだがすさまじい速度で近づいてきた。そして、周りの僚機が次々に爆発を起こしていく。


「無線が通じません!基地との通信もダメです!」


 レーダー欺瞞アルミ箔を投下したのが低空だった為、ほとんどその効果を発揮することは出来なかった。また、SM.79攻撃機は、全木製なので本来はレーダーに写りにくい。しかし、全幅が20mもあり2発の魚雷と三発のエンジンを搭載している大型機なので、高性能な日本軍レーダーの前では丸裸だったのだ。


 そして、瞬時にして200機以上のSM.79攻撃機が撃墜された。残っているのは数機のSM.79と戦闘機230機だ。戦闘機の数は多数あるが、機銃弾では敵の艦船に打撃を与えることなど出来ない。イタリア軍航空隊は、合理的な判断を下さざるを得なかった。


 攻撃機を失ったイタリア航空隊は、作戦の継続を諦めイタリア本土に退却をしていった。


 ――――


「航空機の支援は来そうに無いな・・・」


 当初の作戦では、艦隊行動に合わせて地上基地から航空支援がされる予定だった。雷撃装備をしたSM.79攻撃機220機が支援に来てくれれば、かなりの戦力にはなるはずだ。艦隊決戦とは言ったが、航空機の支援をしないとも言っていない。無線の傍受を嫌って確認はしていないが、空軍元帥のイタロ・バルボなら必ず航空支援をよこすと思っていた。


「もしかして、英日艦隊によって既に葬られているのだろうか?」


 無線が使えない以上、それを確かめる手段はない。来ない物を当てにしても仕方が無いので、カヴァニャーリは主砲の撃ち合いで決着を付ける覚悟を決めた。


「ライミー(イギリス人の蔑称)どもも、主砲での撃ち合いの約束は守るだろう。何としても水平線上でイギリス艦隊を見つけるんだ!敵戦艦のマストが見えたら、距離は約30kmのはずだろう!主砲の仰角を距離30kmに合わせておけ!発見と同時に攻撃を開始するぞ!」


 ローマとリットリオの主砲は射程44,600mを誇るが、観測機が使えず敵が見えないのであれば意味は無い。目視できる30km以内に近づかなければならないが、そうなると、旧型戦艦や重巡の主砲の射程距離に入る。旧型戦艦も、当初の30.5センチ砲から32センチ砲に換装され、射程距離も伸びている。重巡も20センチ砲を搭載しているので、至近弾を山ほど浴びせれば、目くらましにもなるだろう。


「敵はレーダーを使えるとしても、正確に測距をするためには測距儀によって確認するしかあるまい。今のところ、敵の観測機も見えていないしな。となれば、条件はそれほど変わらないはずだ!」


 カヴァニャーリは敵と条件はさほど変わりはしないと、艦橋の将兵を鼓舞する。あとは練度だが、このローマとリットリオに乗艦している兵は、他の戦艦で訓練を積んだ熟練の水兵ばかりだ。この新型戦艦での習熟は一ヶ月ほどだが、もう十分に使いこなせているとカヴァニャーリは考えていた。


「発見次第、全艦攻撃を開始だ!戦艦と重巡の主砲の合計は100門を越えている!命中率が1%だとしても、初撃で一発は当たるはずだ!恐れるな!」


 と、その時だった。


 ドーン!ドーン!ドーン!


 戦艦ローマの右舷方向400mを航行していた重巡トレントの周りで、すさまじい数の水柱が上がった。水柱の高さは戦艦ローマのマストの2倍近くもある。そんな巨大な水柱がトレントを囲んだのだ。そして、その水柱の中央で何回か大きな爆発が起こり、黒い煙が高さ200mほどもあるキノコ雲を作った。そして、水柱が消えると、そこには艦の中央付近で真っ二つに折れて沈み行く重巡トレントの姿があったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る