第232話 マルタの嵐(15)

『イタリア・アフリカ艦隊全滅!!』『トリポリ・ベンガジ壊滅!!まさにソドムとゴモラ』『イタリアに兵無し!ムッソリーニは亡命を画策か?』『チャーチル首相が宣言!次はローマを火の海に!』『連合国は無条件降伏をイタリアに要求か!?』『イタリアの死傷者11万人以上!降伏も秒読み!』


1940年4月14日


 イギリスと日本の各新聞には、このような見出しが踊っていた。そして、真っ二つに折れて沈み行くイタリア駆逐艦や、激しく燃え上がっているトリポリの写真が掲載されている。


 写真は、日本軍が撮影しロンドンとスイスの日本大使館に送信した物を新聞社に提供した物だ。そしてこの新聞情報は、中立国のスイス経由でイタリアにもたらされた。


 ――――


「これは事実なのか!?どうなんだ!カヴァニャーリ提督!」


 ムッソリーニの執務室にもたらされた報告書には、写真こそなかったが、新聞に掲載された写真は本物の可能性が高いという分析が添付されていた。


「はい、ドゥーチェ(総統の意)。英日艦隊はベンガジ沖を離れてマルタ島近辺まで戻っているという情報があります。おそらく、トリポリとベンガジを攻撃して補給のため帰投しているのかと。足の長い爆撃機を偵察に向かわせているので、本日夕方には何かしらの情報がもたらされるでしょう」


 シチリア島から離陸した偵察機はことごとく行方不明になっていたので、イタリア本土からギリシャの海岸沿いに、日英艦隊を避けてSM.79爆撃機を偵察に向かわせている。この爆撃機は航続距離は最大2,600kmあるので、無給油でベンガジまでの往復ができる。


「もしこの新聞報道が正しければ、なんたる失態だ!それに、デイリー・ミラー紙にはお前がクーデターを計画していると書いてあるそうじゃ無いか!これはどういうことだ!」


「ドゥーチェ。それは敵の欺瞞情報です。ドゥーチェが亡命を検討していると報道してるのと同じで、我が軍の内部崩壊を狙ったものです。惑わされてはなりません」


 そして、その日の午後に無線通信が回復し、トリポリとベンガジの生存者から実際の惨状を聴くことになる。


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 イタリア海軍は、就役したばかりの戦艦リットリオとローマを主力とした艦隊をターラント湾に展開させていた。英日の次の目標はおそらく、軍港都市のターラントだろう。であれば、ターラント湾で待ち伏せするのがベストだと考えられた。ここなら、陸上基地からの航空支援を受けることが出来るからだ。


 イタリア海軍は、かき集められるだけの艦艇を集め、日英艦隊に決戦を挑もうとしていた。


 イタリア艦隊

 戦艦 リットリオ 

 戦艦 ローマ

 戦艦 コンテ・ディ・カブール

 戦艦 ジュリオ・チェザーレ

 戦艦 カイオ・ドゥイリオ

 戦艦 アンドレア・ドーリア


 重巡 トレント

 重巡 トリエステ

 重巡 ボルツァーノ

 重巡 ザラ

 重巡 フィウメ

 重巡 ゴリツィア

 重巡 ポーラ


 軽巡 11隻

 駆逐艦 18隻

 潜水艦 52隻

 その他、海防艦、水雷艇多数


「これだけの戦力があれば、英日艦隊と互角以上にたたかえるはずだ」


 カヴァニャーリ提督は、イタリア艦隊の編成表を見ながら英日艦隊との海戦をシミュレートする。敵の戦艦か空母に損害を与えることが出来れば、修理や補給のために一度イギリス本国へ帰還するだろう。トリポリとベンガジはやられてしまったが、英日艦隊に損害を与えることが出来れば、実質イタリアの勝ちだ。


 英日艦隊は、空母を除けば合計35隻の艦隊だ。戦艦の数も5隻と、イタリア軍とほぼ同等。巡洋艦や駆逐艦の数では我が軍が圧倒している。排水量800トン以下の水雷艇も50隻以上用意することが出来た。この水雷艇と駆逐艦を全速で突撃させて一斉に魚雷を放てば、必ず損害を与えることができる。水雷艇には4本の45センチ魚雷を搭載できるので、50隻なら200発の魚雷だ。射程も10kmあるので、駆逐艦と共に突撃させれば、いくら何でも全部防ぎきることは出来ないだろう。日本艦隊は、500kmもの遠距離から攻撃が出来るという情報もあるが、そんな事は潜水艦か航空機を用いなければ出来るはずなど無い。万が一そんな超兵器があったとしても、水雷艇を含めて100隻以上の大艦隊を防ぎきる事など不可能だ。


 カヴァニャーリ提督は、英日艦隊に対してだんだんと勝てるような気になっていた。


 ――――


 一度マルタ島沖まで戻ってきた日英艦隊は、兵の休息と補給を行っていた。


「イタリア海軍は、ターラント湾に集結しているようだな」


「はい、小沢司令。戦艦6、重巡7、軽巡その他の小型艦艇を合わせて100隻以上の大艦隊です。イタリアは、全力で我々を出迎えてくれるようですな」


 小沢は、参謀達とターラント壊滅作戦“ケチャップ作戦”の最終確認をしていた。ターラント湾に展開するイタリア艦隊を、“一隻残らず”撃破し、ターラント軍港とその周辺の工場を完全に破壊する作戦だ。近代的な建造物やインフラを全て破壊し、ターラントの都市としての機能を原始時代にまで戻す。


「ムッソリーニの希望通り、ターラントをローマ帝国時代にまで戻してやろうじゃないか」


「小沢司令。イギリス艦隊から通信です。サマヴィル司令がお会いしたいとの事ですが、いかがされますか?」


「サマヴィル司令が?わかった。瑞鳳でお待ちしていると返答しろ」


 作戦は既に決まっており、急ぎ打ち合わせをするようなことはないはずだ。何かトラブルでもあったのだろうか?大した内容でなければ良いのだがと、小沢は思う。


 ――――


「小沢司令。お時間を頂戴して申し訳ない。実は、折り入って頼みたいことがあるのです」


「サマヴィル司令。頼みたいこととは“ケチャップ作戦”についてですか?」


「ええ、その、我々も戦艦5隻を揃えてきておるので、できれば、いや、是非とも・・・・・イタリア戦艦と艦隊決戦をしたいのです!」


「・・・・え?」

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