第230話 マルタの嵐(13)

「北の方向に航空機です!距離40km、機数50以上!敵機の可能性有り!」


「今度は間違えるなよ!戦闘機を全機迎撃に上げろ!対空砲は撃つな!50機程度が相手なら、100機のG.50で対応出来る!相手を確認してから攻撃をしろ!」


 基地司令の命令を受けて、スタンバイしていた100機のG.50戦闘機が次々に離陸をしていく。今度は誤射をしないように、相手を確認してからの攻撃が厳命された。無線が使えない以上、何らかの要因で帰投してきている友軍機の可能性は否定できないのだ。


 ――――


「よし、残りの戦闘機も離陸してくれたな。51番機から70番機、ミサイル全弾発射!」


 哨戒機から空対空ミサイルの発射が命令された。4本の空対空ミサイルを抱えた九九式艦上戦闘機20機から、合計80発のミサイルが発射される。そして、九九式艦上戦闘機隊は左右二手に分かれて、イタリア軍戦闘機隊から少し距離をとった。


 ――――


「前方の未確認機は二手に分かれました!何か、ロケットのような物を発射したようです!未確認機の数は70機に増えています!」


 航空基地で双眼鏡を覗いている観測員が叫ぶ。ロケットを発射して二手に分かれたのであれば、間違いなく日本軍機か英軍機だろう。


 しかし、あんな距離でロケット弾を撃って、果たして当たるものだろうか?攻撃以外の何かの意図があるのではないかと訝しむ。


「先発の戦闘機隊は、迎撃に失敗したようだな。敵機が近づいてきたら対空射撃だ!今度は誤射をするなよ!」


 ロケット弾は白い噴射煙を出しながら進んでくるので、双眼鏡で見ていればその軌道がよく見えた。そして、観測員は不思議なことに気づく。


 多数のロケット弾が発射されたのだが、発射された後、そのロケット弾はまっすぐではなく、軌道を変えながらバラバラに進んでいる。そしてそれは、一発一発が味方の戦闘機に接近してきているようだった。


「そ、そんな・・、まさか・・・」


 観測員は、自らの背筋に冷たい汗が流れ出したことを感じた。日本軍の戦闘能力が非常に高い事は、事前のブリーフィング等で知らされている。しかし、ドイツ軍からは日本にどのような武器があるのかという情報は、ほとんど入ってきてはいなかった。


 ドイツ軍が大損害を被ったという“噂”は耳にしていた。だが、実際に日本軍と戦闘を行ったドイツ軍は、その損害をひた隠しにし、日本軍に誘導ロケット弾がある事をイタリアに伝えていなかった。これは、日本軍の攻撃を防ぎようがないと知ってしまうと、イタリア軍の士気が低下するのではないかと危惧した為だ。


 そして、双眼鏡で追いかけていたロケット弾は、迷うことなく味方のG.50に命中した。


「ゆ、友軍機が次々に撃墜されています!ロケット弾攻撃で爆発しています!」


 双眼鏡を持っている観測員は、その信じがたい光景にわなわなと震え出す。敵機がロケット弾を発射した位置は、かなりの遠方だった。それにも関わらず、次々に命中して味方の戦闘機が撃墜されていく。


「どういうことだ!何が起こっている!?」


「誘導弾です!発射されたロケットは、味方戦闘機に向かって進路を変えて命中しています!」


「なんだと!そんな、バカな!」


 出撃した100機の戦闘機隊は、あっという間に20数機にまで減らされてしまった。そして、回避行動を取って散開したG.50戦闘機は、一機、また一機と九九式艦上戦闘機の機銃掃射によって撃墜されていく。


 双眼鏡でその様子を見ていたイタリア軍の兵士達は、だれも言葉を発することが出来ず、ただただ震えながら見守っているだけだった。


 明らかに、敵の戦闘機の速度はG.50戦闘機を圧倒的に上回っていた。ロケット弾による攻撃から生き残った友軍機が、上空から襲いかかる敵機に為す術も無く撃墜されていく。本当にこれは現実なのだろうか?悪い夢でも見ているんじゃないだろか?基地にいるイタリア兵達は、皆、夢であって欲しいと願う。


 ――――


「全機の撃墜を確認。九九式艦上戦闘機隊は基地から距離を取って、高度3,200mまで上昇せよ」


 哨戒機から、九九式艦上戦闘機隊に指示が出る。あと10分ほどでソードフィッシュ91機がこの空域に到達し、高度2,500mから爆撃を行う。このイタリア軍航空基地には、まだ200機ほどの攻撃機が駐機してある。ソードフィッシュ隊は、このイタリア軍攻撃機と航空基地施設の破壊を行うのだ。


 ――――


「北から新たな航空機!複葉機です!おそらく、イギリス軍の爆撃機だと思われます!」


 呆然と味方機が撃墜される様を見守っていた管制塔の中に、観測員の叫び声が響いた。司令や参謀達も、その大声によって現実に引き戻された。


 戦闘機隊が全滅されたとしても、まだ攻撃機隊が残っているし、基地の機能は無傷だ。我々には、まだやるべき事がある。


「複葉機だと!イギリス軍のソードフィッシュか!?」


 複葉機であれば、間違いなく友軍機ではない。おそらく、イギリス軍のソードフィッシュだろう。これなら、誤射の恐れはなく迎撃できるはずだ。


「対空砲と高射砲で迎撃だ!一機も近づけさせるな!」


 ――――


「イタリア軍戦闘機隊は全機排除した。あとは貴軍にお任せする。健闘を祈る」


「日本軍の支援に感謝する。あとは我々が片付ける」


 イギリス軍ソードフィッシュ隊を率いるユージン・エズモンド少佐は、日本軍に謝意を述べる。ソードフィッシュは、パイロット・爆撃手・後部銃座射手の3名が定員だが、今回の出撃に当たっては、パイロットと爆撃手の2名の搭乗になっている。後部銃座の機銃も外され軽量化が図られていた。これは、日本軍戦闘機の支援を完全に信頼してのことだった。


 本来、魚雷を搭載して対艦攻撃を行うように設計されているソードフィッシュだが、500ポンド爆弾を2発搭載することもできる。


「全機、敵基地に攻撃開始!日本軍が戦闘機隊を片付けてくれたが、基地の対空砲はまだ生きている!気を抜くな!」


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