第220話 マルタの嵐(3)
「まずは、リビアのトリポリからですね。その次にベンガジ(バンガージー)のイタリア軍を撃滅します」
この当時、アフリカのリビアはイタリアの植民地で、各種物資の供給源となっていた。その為、トリポリとベンガジを攻略し、イタリア本土への資源供給を完全に遮断する作戦が立案されたのだ。
「トリポリとベンガジには、それほどの戦力は駐屯していません。まずは、航空機による空襲で、イタリア軍航空基地を叩きます。そして、港湾施設の壊滅ですね」
ここで、イギリス海軍サマヴィル提督は小沢の目を見てニヤリと口角を上げる。今回の作戦で、イギリス艦隊の港湾施設壊滅にかける情熱は並々ならぬものがあったのだ。
「戦艦5隻による艦砲射撃を行います」
1940年3月25日
イタリア海軍カヴァニャーリ提督は海軍参謀達と、今後の作戦方針について会議を行っていた。
「頼りにしていた潜水艦艦隊が、まったく戦果を上げられないのは想定外だな」
イタリア海軍は、潜水艦戦力を重点的に増強してきた。これは、カヴァニャーリ提督が中心になって推進してきた戦略で、先見の明があったと言える。100隻以上の潜水艦を保持しているのは、この時点に於いてソ連、ドイツ、イタリアの三カ国だけということにも現れている。
「日本の対潜能力は相当優れていると思われます。おそらく、あのオートジャイロで海上から探索しているのでしょう」
「しかし、どうやって探索をしているというのだ?深度が20メートルくらいなら上空から見れば確認できるが、40メートル以上だと目視は出来まい」
「これは、おそらくですが磁気によって探知しているか、もしくは、ソナーを投下して聴音しているかだと思います」
「そうか。磁気によって探索されるのであれば、エンジンを止めていても見つかってしまうということか」
「事実上、潜水艦による作戦行動は完全に封じ込められているといって良いでしょう」
「では、どうやって英日艦隊を排除する?放っておけば、リビアのトリポリやイタリア本土が攻撃されかねんぞ」
「英日艦隊は、現在マルタ島沖に停泊していますが、シチリア島の航空基地から約200kmなので、十分に航空攻撃ができます。しかし、主力のSM.79攻撃機は700機用意できますが、日本の対空能力は非常に高い事がわかっています。イギリス海峡では、数百機のドイツ軍機が撃墜されて、日本の損害は軽微だったとの情報があるので、我が軍も相当の損害を覚悟しなければならないでしょう」
ファウルネス島沖海戦では、ドイツ軍の損害について、日英独ともに正確な情報を発表していない。ドイツからはイタリアに対して、日本軍の防空能力は非常に高いので、イギリス本土への上陸作戦は延期するとの連絡があった。損害機数についての情報は無かったが、現地イタリア諜報員からは、ドイツ軍は数百機の損害を被ったようだとの報告がなされていた。
「SM.79攻撃機を700機と、その護衛にMC.200戦闘機400機を付けることはできる。それと同時に、全戦艦と巡洋艦をもっての総攻撃を提案したい」
カヴァニャーリ提督は、机上の地図を睨みながら参謀達に提案した。その表情は苦渋に満ちており、地図上のマルタ島沖を凝視していた。
「しかし提督。万が一、それで大損害を被ってしまっては、海軍の立て直しは出来ません」
「されど、英日艦隊を放っておけば、リビアからの海上輸送は完全にストップしてしまう。本土攻撃も懸念される状況だ。しかし、戦力を小出しにしていては、日本艦隊の能力を考えると各個撃破されてしまうのが関の山だろう。ドイツは否定しているが、先のファウルネス島沖海戦で戦艦グナイゼナウとシャルンホルストは撃沈されていると思われる。ならば、ここは全力で対応するしかあるまい」
カヴァニャーリ提督は、日本艦隊は潜水艦に任せておけば問題ないと判断してしまったことを激しく悔やんでいた。日本艦隊がイギリス艦隊と合流するまでに、大規模な水上艦艇と航空機による攻撃を仕掛けることが出来ていれば、状況はもう少し良かったのではないかと。しかし、日本艦隊が地中海に到着した時期には、イタリア艦隊は陸軍のギリシャ攻略の支援をしていて、それほどの戦力を回すことが出来なかったのも事実だ。
“ドイツはイギリス攻略に失敗するし、陸軍はギリシャごときに敗退する。開戦前はドゥーチェをはじめとしてみんな楽観視していたではないか。まさか、こんな事になるとは・・・”
カヴァニャーリは内心かなり後悔をしていたが、自分自身熱心なファシストで、それまでムッソリーニに心酔していたことを思うと、それもこれも自分の不明のせいだと考える。
「イギリスの空母2隻と日本の超大型空母1隻には、200機以上の航空機が格納されているはずだ。巡洋艦と駆逐艦には、ありったけの対空銃座を増設しろ。これで艦隊防空を強化する。なんとしても、戦艦を英日艦隊まで20km以内に送り込む。連中は損害が出れば、必ずイギリス本島に戻るはずだ。少しでも損害を与えることができれば、当面は地中海の制海権を取り戻すことが出来る」
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