第218話 マルタの嵐(1)
地中海に到着した小沢艦隊は、早速作戦行動に入っていた。
「本日一八○○までの戦果報告です。国籍不明潜水艦7隻撃沈、イタリア駆逐艦2隻撃沈、イタリア船籍の貨物船11隻拿捕。臨検を拒否して銃撃をして来た貨物船1隻を撃沈しています」
空母瑞鳳の艦橋で、士官が小沢司令に戦果報告をする。地中海に入って一週間、マルタ島からジブラルタル海峡までの海域を、重点的に対潜哨戒活動を行った結果、49隻の潜水艦を撃沈することが出来ていた。
そして1940年3月26日、イギリス艦隊がジブラルタル海峡に到着する。
戦艦ネルソンを旗艦とし、ロドニー、ヤマグチ(旧長門)、トーゴー(旧陸奥)、フッドの合計戦艦5隻、空母アーク・ロイヤルとカレイジャスの空母2隻、そして、随伴艦として巡洋艦駆逐艦16隻の大艦隊だ。
当時世界最大の16インチ(41センチ)砲を搭載した戦艦、いわゆるビッグ7の内4隻が含まれている。山口艦隊がイギリス近海の制海権・制空権を抑えているので、イギリス海軍も遠慮無く地中海に艦隊を投入することにしたのだ。
「16インチ砲搭載艦が4隻は壮観だな」
旗艦ネルソンの艦橋で、司令のジェームズ・サマヴィル提督がつぶやく。前方にはジブラルタル海峡からマルタ島まで護衛をしてくれる、日本海軍の大淀型巡洋艦3隻が待機している。
「トーマス艦長。日本の大淀型巡洋艦は、何度見てもやはり不気味だな。何を考えているかわからない面構えだ」
「サマヴィル司令。“不気味”に感じられますか?」
「ああ、不気味というか無味乾燥というか・・・。軍艦という物には、その国の色や匂いが現れると思うんだよ。英国の軍艦には英国の色が、ドイツの軍艦にはドイツの色がある。しかし、あの大淀型は、今までの日本の色や匂いを全く感じ取ることが出来ない。アメリカやフランスの色でもない。なんというか、全く別の世界から来たような不気味さだな」
「サマヴィル司令。日本の巡洋艦「湧別」から通信です」
日本の大淀型巡洋艦「湧別(ゆうべつ)」から通信が入る。大淀型3隻で、イギリス艦隊の前方と左右を護衛するとのことだ。
「日本艦隊の護衛に感謝する」
司令のサマヴィルは、日本艦隊に謝礼を述べる。相手の艦長は流ちょうな英語を話していたし、礼儀正しい話し方をしている。
“いままでは、有色人種は劣等種だと思っていたが、その認識はもう古いと言うことか・・”
英国政府は日本からの要求をほとんど受諾したと聞いている。数年以内には植民地の全てを手放し、“日の沈まぬ帝国”から“日の沈んだ帝国”になるのだ。イギリス本国だけの人口は5,000万人ほどしかいない。今まで、植民地から資源をただ同然で手に入れることが出来ていたが、それも難しくなる。そして、本国の税収の三分の一は植民地経営関連からの税収だ。それが今後は見込めなくなるのだ。この欧州大戦が終了した後は、ロイヤルネイビーから戦艦の全てと空母のほとんどを退役させることが検討されているらしい。もう、そんな戦力を維持できないということか。もちろん、日本からの技術供与があれば、より少数で高い戦力を保持することは出来るのだろうが、人生のほとんどをロイヤルネイビーに捧げてきた身としては、やはりさみしいものがある。
“最後のご奉公というやつか・・・”
サマヴィルは、ドイツとイタリアをたたきのめし、欧州に於いてイギリスの敵になる勢力の完全排除を誓うのであった。
――――
「イギリス艦隊は、どこを狙うつもりだ?」
ムッソリーニはドメニコ・カヴァニャーリ海軍提督に問いかける。
「はい、ドゥーチェ(総統の意)。イギリス艦隊の狙いは、まずは、マルタ島とスエズ運河の防衛でしょう。さらに、トリポリとターラントへの攻撃を意図しているのかもしれません」
「そうか。我が軍の対応はどうなっておる」
「はい、潜水艦にて防御ラインを敷いておりますが、その・・・、日本艦隊によってかなりの損害を出しているようで・・・・」
カヴァニャーリ提督は、少しうつむき加減でムッソリーニに返答する。明らかに、潜水艦艦隊がまずい事になっているとうかがうことができた。
「どういうことだ?正確な報告をしろ、カヴァニャーリ提督」
ムッソリーニはカヴァニャーリに対して不快感を込めた口調で問いただした。3月1日に侵攻を開始したギリシャ戦線では、ほとんど戦果を上げることが出来ないまま、アルバニア領内まで押し返されてしまっている。さらに、その過程で投入した1,000両近くの戦車も失った。そして、海軍でも不愉快なことが起こっているというのか?
「はい、ドゥーチェ。潜水艦41隻と連絡が途絶えております。おそらく、日本軍によって撃沈された物と思われます」
「41隻だと!?この短期間でか!?我が海軍が保有している潜水艦の三分の一が失われたというのか!?」
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