第217話 第四次日英同盟

1940年3月21日


 イギリス ロンドン ビッグベン(イギリス国会議事堂)


「それでは、賛成多数により本案は可決されました。続いて、第四次日英同盟批准の採決に入ります」


 1939年11月19日に提示されていた、日本からの植民地に関する要求に対応する法案の可決がされた。


 続いて、1940年2月11日に締結されていた、第四次日英同盟批准の採決が実施される。


 ※日本側の第四次日英同盟批准の条件が、イギリスの植民地解放等になっていた。


 イギリス国会に於いて可決された法案は、概ね以下の通りだった。


 ・パレスチナへのユダヤ人移住の中止。将来的には、ウラジオストク周辺に、日本の協力を得てユダヤ人の独立国家を建国する。

 ・人種差別の完全な撤廃

 ・海外植民地の5年以内の独立

 ・海外植民地の独立後、英仏政府は本国予算の7%を今後20年間、毎年、旧植民地の経済支援の為に無利子での借款に充てる事。償還は20年以上とする。ただし、旧植民地が希望しない場合を除く

 ・植民地から兵を募る場合は本国の平均賃金の1.1倍を支給し、戦死や戦傷をした場合、本国兵と同等の恩給と遺族年金を支給する

 ・植民地から食料を購入する場合は、飢餓輸出にならないよう、現地の食糧事情を十分に勘案する


 ソ連への参戦は、現状の国力を鑑みて日本からの要求を取り下げてもらった。また、植民地へ投資した資本と借款については、放棄ではなく植民地への借款への一元化が図られることになった。これは、資本や借款の放棄は国内世論の理解を得ることが出来ないであろうことと、日本も朝鮮を独立させたときに、同じように借款への組み替えを行ったことを前例にあげたのだ。


 そして、交渉の結果、日英は合意に達する。フランスとも、少し遅れてほぼ同じ内容で合意に達した。


 ――――


 バッキンガム宮殿


「ウインストン(チャーチルのファーストネーム)、日英同盟が復活して安心したよ。君も政界工作で大変だったんじゃないのか?」


「はい、国王陛下。ハリファックス子爵らからは相当攻撃をされましたが、国王陛下のお力で、なんとかここまで来ることが出来ました」


「これで、我が軍を強化できれば、英国本土防衛は叶ったようなものだ。あとは、大陸のドイツをどうするかだが、その辺りはどうなのかね?ウインストン」


「はい。日本やフランスは、ナチスを殲滅して民主的な親仏日政権の樹立を目指しているようですが、現実的にそこまで出来るかどうかは微妙な所ですな。新大陸(アメリカ)が参戦してくれれば良いのですが、どうにも、ルーズベルトは中国利権にご執心のようで、欧州戦争には無関心なのですよ。一応、ドイツには経済制裁を課してはいますが」


 中国大陸では、アメリカの支援を受けた蒋介石率いる中華民国が、漢民族居住地域のほとんどを掌握していた。毛沢東率いる共産党軍は、中国北部の延安を中心に抗戦を続けているが、日ソ戦争の煽りでソ連からの支援も不足がちになっており、厳しい戦いを強いられていた。


 ルーズベルトとしては、中国共産党軍を殲滅して後顧の憂い無く、中華民国への経済進出を進めたいと思っていたのだが、ここで、国内世論が毛沢東側へ傾く事態が発生する。


 それが、エドガー・スノーの書いた「中国の赤い星」だ。


 これは、毛沢東がそれまで拠点にしていた南部の広州から、中華民国軍の追撃を逃れて北部の都市延安まで“逃げる”過程、いわゆる“長征”を、毛沢東の英雄譚を中心に書かれた半フィクション書籍だ。


 この「中国の赤い星」がアメリカでベストセラーになってしまう。そして、それを読んだ多くのアメリカ知識層が共産主義に傾倒してしまったのだ。


 アメリカ国民は、基本的に正義の味方を気取ることが多く、紛争当事者の弱い方へシンパシーを持つことがある。


 史実では、日中戦争での中国側へ共感する国民が一定程度を占めたことなどがあげられる。


 そして、この国共内戦においては、「中国の赤い星」が国民世論を焚きつけてしまったのだ。


 その為、ルーズベルトはその対応などで、さらに難しい舵取りを迫られることとなっていた。


「ナチスを崩壊させるためには、ドイツ国内で革命が起きるか、もしくは地上戦でベルリンを陥とすしかないと思いますが、これをしようと思うと我が英国軍も甚大な損害を被るでしょう。国民世論がそれを許容するかどうかが問題です」


「そうだな。しかしウインストン、もし、先の欧州大戦の時のように火種を残してしまうと、また20年後に大戦ということにはならないだろうか?日本は協力を惜しまないと言ってきているのだろう?その為の植民地解放なのだから」


「はい、陛下。日本からは戦車や各種装備品の現物供与、そして、比較的短時間で生産可能な技術供与が提示されておりますが、地上軍の中心は英仏軍になります。我が国にフランス軍人が14万人亡命してきておりますので、これをフランス解放の先鋒にする予定ですが、必要な戦力は120万と見積もられております。アメリカの参戦が無い限り、100万人以上を我がイギリスから出すしかありません。戦略研の試算では、フランス上陸後、最初の1年間での我が軍の死傷者は50万人を越えるとの報告があります。しかも、日本からの要求で、植民地兵の動員が少なくなる見込みです」


「そうか。しかし、日本からの支援が無ければ、そもそも大陸への再上陸も不可能であったことを思うと、致し方あるまい。ここは、出来るだけ日本の協力を引き出してもらいたい」


 チャーチルは、生粋の帝国主義者で人種差別主義者でもある。本来なら日本からの提案など一蹴したいところだったが、この情勢下では無視が出来なかったのだ。


 “くそっ!新大陸の拝金主義者どもめ!あいつらが欧州に関心を示さないからこんなことになる!”


※史実では、日本がアメリカに対して開戦さえしなければ、アメリカは欧州に派兵しなかったのではないかとも言われている。それほどまでに、アメリカ人にとって欧州での戦争は興味の無いことだった


 チャーチルは非協力的なアメリカに対して、心の中で悪態をつくが、アメリカにとって欧州はもう魅力的な市場では無いと言うことだとも思う。そして、極東では中国や日本といった、それまで亜人だと思っていた連中の国家が隆盛しつつある現状に、チャーチルは忸怩たる思いをいだいていた。


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