第216話 小沢艦隊到着
1940年3月18日
空母瑞鳳を旗艦とした小沢空母打撃群が、スエズ運河を航行していた。
※この当時のスエズ運河は、何度かの改修を経て大型艦の航行が出来るようになっている。現在の姿よりは狭い。
運河には、小沢艦隊の姿を一目見ようと大勢の見物客が押し寄せていた。そして、その中には当然ドイツ・ソ連・アメリカ・イタリアの諜報員も多数混ざっている。
運河を管理するイギリス軍は、小沢艦隊に工作員が近づかないように警戒をしていたが、長大な運河の全てを完全に警備することなど出来ず、群衆や諜報員の接近を許してしまっていた。夜間の通航も検討されたが、それはそれで、破壊工作員の発見が難しいという理由で却下されていたのだ。
「すさまじいデカさだな。いったい、何機搭載してるんだ?」
「さあな。本国では、200機以上と分析しているが、実際はどうだろうな。しかし、あのエレベーターを見てみろよ。幅20mはあるんじゃ無いか?」
イタリアの諜報員は、その巨大さに恐怖を禁じ得ない。この小沢艦隊は、地中海でイタリア海軍の封じ込めを行うと分析されている。場合によっては、イタリア本土への空襲もあるのでは無いかと警戒していたのだ。
この当時、全長313.8m、排水量84,000トンという超巨大客船「ノルマンディー号」(フランス船籍)が存在していたが、各国の諜報員も見慣れているというわけでも無く、やはり全長333mの空母は巨大に映っていた。
「随伴している巡洋艦もすごいな。イギリス海峡では、あの巡洋艦の主砲で、数百機のドイツ軍機が撃墜されたらしいぞ。しかし、なんて姿だ。あれは本当に軍艦なのか?」
日本海軍の大淀型巡洋艦の写真は、山口艦隊がスエズを通過するときにも撮影されて、世界中の新聞に掲載されていた。宇宙軍で開発された大淀型巡洋艦は、そのほとんどが平面で構成されていて、外からでは127mm単装砲と35mm対空砲しか見えない。とてもドイツ軍機を何百機も撃墜できそうには思えないのだが、実際にそれだけの戦果を出しているのだから命中率がとんでもないのだろう。
写真では見たことがあったが、それでも実際に見てみると、何とも言えない違和感に襲われる。本当にあれで良いのか?と。
イタリアの諜報員がそんな事を話していると、空母瑞鳳のエレベーターがせり上がり、そこから大型のオートジャイロが出現した。そして、すぐに飛び立っていった。さらに、その他の巡洋艦からもオートジャイロが発艦していく。
「おい!オートジャイロだ!ちゃんと写真に撮っておけよ!」
各国の諜報員達は色めき立ってシャッターを押した。
――――
「哨戒ヘリ、発艦完了しました」
空母瑞鳳の艦橋で、小沢司令が報告を受ける。
スエズ運河の出口で待ち構えているであろう、ドイツとイタリアの潜水艦を殲滅するためだ。各国には既に警告を出しているので、スエズ運河の出口より150km以内に存在する潜水艦は、警告無しに撃沈することになっている。
「さて、いったい何隻お客さんがきていることやら」
現在、山口艦隊の働きによってドイツ海軍はバルト海に封じ込められている。しかし、それよりも前に活動していたドイツ軍潜水艦Uボート60隻近くが、イタリアを補給基地として地中海と大西洋で活動していた。さらに、イタリア海軍も130隻もの潜水艦を保有していたのだ。
これらの潜水艦が、現在どこに潜んでいるかはわからない。大西洋で通商破壊に従事している潜水艦もあるので、おそらく半分くらいが地中海に存在するのだろうと予測している。
しばらくすると、哨戒ヘリから潜水艦発見の連絡が入り始めた。
発見できた潜水艦は8隻。国籍は不明だ。
「警告無しでかまわん。発見した潜水艦をすべて撃沈せよ」
小沢は哨戒ヘリに命令を出す。命令を受けた哨戒ヘリは、不明潜水艦の上に対潜爆弾を投下した。対潜魚雷も搭載しているが、対潜爆弾で処理できれば安上がりのため、通常は対潜爆弾を使うことになっている。
「8隻か・・、我々の出迎えとしては、少々物足りないかな?田中少佐」
小沢はいつも通りの渋い表情で、参謀の田中少佐に話しかける。
「はい、小沢司令。まあ、まずは小手調べのつもりなのでしょう。もちろん、報告の時間を与えることなどしませんが」
地中海に入ったら、敵潜水艦を撃沈しつつマルタ島の安全を確保する。これが第一段階。そして、マルタ島の安全を確保した後に、マルタ島からジブラルタルまでのシーレーン確保を行い、イギリス海軍がマルタ島まで安全に航海できるようにすることが第二段階だ。
「しかし、イギリス艦隊の露払いをさせられているようで、あまり良い気分はしませんな。エジプト近海の安全確保くらいは、イギリスにしてもらいたいものです」
田中参謀が、スエズ運河に押し寄せている群衆を見ながらつぶやく。
「まあ、良いでは無いか。それぞれに役割があるのだよ。それに、今回の日英合同作戦では、戦艦長門や陸奥の勇姿を拝めるしな。ああ、今はアドミラル・ヤマグチとトーゴーか」
今回の地中海作戦では、敵潜水艦を排除した後にイギリス艦隊と合同でマルタ島とクレタ島の防衛を行う。さらに、イタリアの軍港ターラントに対しての攻撃が可能であれば実施される予定だ。
地中海の制海権を掌握し、リビアからイタリアへの物資輸送を遮断して、イタリア軍を長靴の中に完全に押さえ込む。じわじわとイタリアの首を絞め、そして降伏に追い込むのだ。
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