第215話 古きローマ帝国の血を継ぐ者

1940年2月15日


 イタリアの潜水艦デルフィーノが、ギリシャの巡洋艦を魚雷攻撃した。そして、1本の魚雷が命中し爆沈することとなった。


 この攻撃に対し、ギリシャ政府はイタリアとの関係悪化を避けるために、“国籍不明の潜水艦からの攻撃”と発表する。


 そして、このギリシャの発表を“弱腰”と判断したムッソリーニは、アルバニア経由でギリシャ侵攻を命じるのであった。


1940年3月1日


 イタリア陸軍セバスティアーノ・ヴィスコンティ・プラスカ将軍率いる7個師団11万名がギリシャへの侵攻を開始した。


 3月に入り、気温も少し上がってきたことが作戦開始を後押ししたのだ。


 イタリア軍は国境の検問所を突破し、街道沿いに南を目指した。イタリア軍の侵攻に対して、戦車もほとんど無く準備も出来ていなかったギリシャ軍は、抵抗らしい抵抗が出来ないまま、後退を余儀なくされた。そして、開戦より5日で、イタリアは国境から30km地点まで進軍する快進撃を見せたのだが、それもすぐに頓挫してしまう。


 アレクサンドロス・パパゴス将軍率いるギリシャ軍は、まず幹線道路や橋の破壊を行った。ギリシャ北部は急峻な山岳地帯が多く、幹線道路のいくつかは深い谷を這うように作られている。その谷を爆破し、幹線道路を崖崩れで埋めたのだ。そして、地形を活かした伏兵やゲリラ戦術を使ってイタリア軍を苦しめる。


 イタリア軍は、通れなくなった幹線道路を迂回するために、細い山道へ入っていく。しかし、ギリシャ北部は険しい山岳地帯が多く、幹線道路以外は小型車両ですら通過できない道が多かったのだ。それにも関わらず、イタリアは詳しい地図や情報を用意すること無く、迂回路に入ってしまった。


 戦車を捨て、車両を捨て、イタリア軍は分解した野砲を担ぎながら山道を歩く。細長く伸びきった戦列に対して、ギリシャ軍は崖の上から射撃を加えたり爆弾を落としたりと、イタリア軍の最もいやがる攻撃を続けていった。


 さらに、イタリア軍に不幸が襲いかかる。イタリア軍に強制編入させられていた、アルバニア人が反乱を起こしたのだ。


 そもそもアルバニアは、1年前にイタリアによって不法占領されているのだ。それにも関わらず、その現地人をイタリア軍に組み込んだ。こんな状態でアルバニア人がイタリアに対して忠誠を持てるはずは無く、イタリア不利と判断して反乱を起こすことになる。


「国境まで押し返されただと!プラスカ将軍は何をやっているんだ!罷免だ!あの無能をすぐに呼び戻せ!」


 ムッソリーニは側近達に怒鳴り散らしていた。ギリシャなど大した装備は無く、3週間で占領してみせると言ったのはプラスカではなかったか?聞き心地の良いことだけ並べて、実力の伴っていない味方ほど有害なものは無いと、ムッソリーニは思うのであった。


 プラスカ将軍は罷免され、ウバルド・ソッドゥ陸軍大将が司令官に任命された。しかし、この罷免のゴタゴタで、組織的な動きの出来なかったイタリア軍は、ギリシャ軍にアルバニアに攻め込まれ、国境線から50kmも後退してしまったのだ。


1940年3月17日


 宇宙軍本部


「イタリア軍、やられっぱなしだね・・・・」


 高城(たかしろ)蒼龍は地図に書き込まれた、イタリア軍とギリシャ軍の戦力配置を見ながらつぶやく。


「ああ、イタリア軍がこんなにも弱かったなんて、驚きだよ。高城くんの言ったとおりだね」


 森川中佐は、肩をすくめながら呆れたように言った。


「ああ、弱い弱いと思ってたけど、こんなにも弱かったなんて・・・」


「ギリシャ軍には、戦車や航空機もほとんど無かったんだろ?イタリア軍って、ギリシャ侵攻に1,000両の戦車を投入してなかったっけ?それ、どうなったの?」


「行方不明」


「えっ?」


「行方不明だよ。いくらかはギリシャ軍によって撃破されてるけど、ほとんどが行方不明なんだ。おそらく、山道で動けなくなって捨てたんだと思う」


 高城蒼龍は、心底あきれはてたという表情を見せた。


「ギリシャ軍の装備って、前の欧州大戦の時とそんなに変わってないんだよね。小銃と野砲が主な武器。そのギリシャ軍に対して、戦車1,000両用意したイタリアが手も足も出ない何て、誰がそんな事を思う?それに、1年前に占領したアルバニア軍から徴兵するなんて、なに考えてるんだろうね。そんなの反乱起こすに決まってるじゃないか。これ、イタリアを押さえ込むんじゃ無くて、自由にさせてた方が、ドイツにとってお荷物になるんじゃないの?」


 三宅中佐も苦笑いを浮かべながら皮肉を言う。


 史実でもイタリアは、ギリシャや北アフリカに大軍を送ったが、ことごとく撃退されて、それを助けるためにドイツ軍が援軍を出すと言うことが繰り返された。この事によって、ドイツ軍の兵力が削られていったのも事実である。


「とはいえ、イタリアを自由にさせておくと、あっちこっちで戦闘が起こって、国連軍側にも死者が出るから放置も出来ないよ。それに、地中海の潜水艦は一掃したいしね。まあ、小沢艦隊の初陣・・・というか、実弾演習の相手にもならないかもね・・・」


 宇宙軍の一同は、小沢艦隊だけで本当にイタリアを、降伏に追い込むことが出来るのでは無いかと思えてきた。


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