第209話 小沢艦隊出撃!

1940年2月9日


 宇宙軍本部


「イタリアの目標は、ギリシャのクレタ島・イギリス領マルタ島、そしてスエズ運河か」


「ああ、戦略的にはその三カ所のはずだが、アルバニアから越境してのギリシャ侵攻も考えられるな」


 高城蒼龍は前世の知識で、イタリアがアルバニアを越えてギリシャに侵攻したことを知っている。しかしその事実は、蒼龍にとってどうにも不合理に思えて仕方が無かった。


 ※アルバニアは、1939年4月にイタリアの侵略を受けて降伏していた


「ギリシャ全土の占領をするかね?ギリシャは中立を表明しているし、戦略的にはあまり意味がないと思うんだが」


「ギリシャは山岳地帯も多いし、機甲師団は動きにくい。しかも、占領できたとしても、その維持のために軍を駐留させなければならないから、普通ならクレタ島のみの占領で停戦なり講和なりをすると思うが、相手はあのドゥーチェだからな・・・・。ヒトラーの電撃戦を見て、自分でもあの程度はできると思ってるんじゃないかな?」


 ※ドゥーチェ イタリアの独裁者ムッソリーニが自分に対する尊称として使用した。“指導者”“総統”などの意


「新ローマ帝国の復興ってやつか・・・。ヒトラーも第三帝国を名乗ってるし、ファシストってなに考えてるんだろうね」


「中二病全開だな。そう考えると、最も多くの人間を殺した病気の一つとも考えられるのか・・・」


 21世紀では、中二病と言えば“アレ”な病気なのだが、20世紀前半に於いては数億人を殺してしまうような“死に至る病”なのだと再認識させられる。中二病を治癒する薬は無いものかと、わりと本気で考えてしまう。


 まあ、そうはいっても自分自身“帝国宇宙軍”という中二病な軍隊を組織したのだが。


「いずれにしても、今艤装中の戦艦ヴェネトとリットリオの就役を待ってから動くんじゃないかな?3月ごろには就役するみたいだしね」


「就役前の今沈めるわけにはいかないのか?」


「出来なくは無いけど、沿岸で沈めてもサルベージされて復帰するかも知れないからね。沖に出てから沈めるのが良いと思うよ。まあ、本音ではイタリア海軍くらいイギリスに任せたいんだけどね」


「イギリス海軍は、Uボートとイタリア潜水艦を怖がって地中海での作戦は限定的にしかしてないからな。マルタ島はイタリア本土からの空襲が激しくなったら持ちこたえられないんじゃないのか?」


「マルタ島を失うわけにはいかないな。それに、万が一スエズ運河が戦場にでもなったら、欧州支援にも支障がでるしね」


「最終的には統合幕僚本部の判断だけど、宇宙軍としては大鳳型空母打撃群の派遣に賛成と言うことでよいかな?」


「ああ、地中海の制海制空権は絶対に失うわけにはいかないからな」


 現在、大鳳型空母は5隻が完成し、空母打撃群として作戦能力を獲得している。どの艦隊を派遣しても、問題ないレベルまで練度は向上している。


 大鳳型空母 全長333m 排水量10万トンのスーパーキャリア

 ・一番艦 大鳳

 ・二番艦 龍鳳

 ・三番艦 瑞鳳

 ・四番艦 祥鳳

 ・五番艦 鳳翔


 ――――


 統合幕僚本部


「山口司令から要請のあった大鳳型空母打撃群派遣の件だが、海軍としては瑞鳳を派遣したいと思っている」


 山本五十六は、満面の笑みを浮かべながら発言をする。全長333mの超巨大空母を欧州に派遣し、イギリスの度肝を抜いてやりたかったのだ。


 こうして、瑞鳳を旗艦とする空母打撃群の派遣が決定され、司令官には小沢治三郎中将が任じられることになった。


 ――――


「小沢君、よろしく頼むよ!山口君はドイツ軍機を3,000機も撃墜している。山口君に負けないように、是非ともイタリアを降伏に追い込んで欲しい!君なら出来るよ!」


 山本五十六は小沢中将の手を両手で握り激励する。


 小沢の笑顔はどことなく固い。内心、“イタリアを降伏って言い過ぎだろ”と思っていた。しかし、山口艦隊の戦果を聞いて自分も戦ってみたいと思っていたのも間違いない。世界最大の空母に最新鋭ジェット戦闘機を擁するこの艦隊は無敵。イタリアを長靴に押し込めることが目的のため、海上にいるイタリア艦艇全てが標的だ。また、地中海にはUボートが多く潜んでいるという情報もある。気を抜くことは出来ないが、敵艦の全てを撃沈するつもりで小沢は任務に当たる。


 空母瑞鳳は、九七式戦闘攻撃機“隼”30機、九九式艦上戦闘機72機、その他哨戒機・回転翼機等29機を搭載し、地中海に向けて出航した。


 小沢艦隊

 ・空母 瑞鳳

 ・重巡 2隻

 ・軽巡 8隻

 ・その他補給艦等


 ただし、九七式戦闘攻撃機は夜間出撃のみが許可されている。統合幕僚本部の方針で、できうる限り秘匿することが決定されているのだ。


 ――――


「しかし、デカいな。艦載機をいったい何機積めるんだ?」


 呉鎮守府で補給をした小沢艦隊が、瀬戸内海を航行している。そこには世界中のスパイが集い、艦隊の情報を収集していた。


「大きければ、多くの航空機を積めるが、4万トン級空母二隻の方が安くて運用もし易いんじゃないのか?あんな巨大な空母を作る意味が解らん」


「将来航空機が大型化することを考慮しているって話だぜ。まあ、そのあたりはお偉いさんが考えることだからな。俺たちは情報を送ることが仕事だ」


 各国の注目を集めながら、小沢艦隊は欧州を目指す。

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