第208話 宇700型 vs Uボート
時は少し遡る
1939年12月10日
イギリス アラン島沖のクライド湾に、宇700型潜水艦5隻と潜水母艦が到着した。欧州派遣艦隊に少し遅れて出発したことと、潜水艦なので秘匿行動を取っていたため到着まで時間がかかったのだ。
到着の歓待行事などは行われない。潜水艦は、その存在自体を秘匿することに価値があるのだ。そして、このクライド湾を日本海軍潜水艦部隊の補給基地として活動を開始する事になる。
「敵潜を確認。3時の方向、距離40km」
ファウルネス島沖海戦以来、ドイツ海軍水上艦は港にこもったまま出てこなくなっている。しかし、それに反比例するように、ドイツ潜水艦Uボートの活動は活発になっていた。
1939年12月の時点で、Uボートの数は600隻と推測されている。半数は沿岸用の小型潜水艦だが、それでも北海の全域を作戦範囲にする程度のことは十分出来る。そして、ドイツ軍は無制限潜水艦作戦を実行し、海に浮かぶ船を片端から攻撃していたのだ。
これにより、欧州の海上輸送がほぼストップする事態になった。また、アメリカからイギリスへの石油タンカーも、被害を恐れて運行数が少なくなり、慢性的な石油不足に陥っていた。
その為、まず、日本海軍は北海からUボートを駆逐し、ドイツ艦隊をバルト海に閉じ込めることにした。
――――
「のんきに充電中か。敵潜水艦の諸元入力完了後、一番魚雷発射だ。外すなよ」
艦長の鱶町(ふかまち)中佐は魚雷発射の命令を出す。欧州に来る途中に遭遇した敵潜水艦は、護衛の駆逐艦が全て排除してくれた。その為、今回の出撃がこの宇702潜水艦にとって欧州方面での初陣となる。
イギリスには誤射の可能性があるので、現在北海での潜水艦活動を中止してもらっている。そして、順次潜水艦や水上艦艇の「音紋」の採取を進めていた。
「一番、注水開始・・・・・発射!」
魚雷は発射された後、しばらくは有線誘導で敵潜水艦に向かって進む。そして、魚雷のアクティブソナーで探知できるまで接近した後に、自動追尾になるのだ。
――――
「魚雷が接近してきます!6時の方向、雷数1、速度40ノット、距離は不明ですが、音の大きさからすると5km以上はありそうです!」
「魚雷だと!すぐに潜航だ!しかし、本数が1本で距離が5kmだと?どういうつもりだ?」
このドイツ軍UボートVII型潜水艦は、わずか25秒で全没できる高性能な船だ。夜間に浮上して充電をしていたのだが、魚雷の接近に気づき急速潜行をする。
距離5km以上もあるたった一本の魚雷が当たるはずなど無いと思いながらも、船長のヴィンター中佐は得も言われぬ不安に襲われる。
「日本艦隊が来てから、Uボートの損失が急に増えている。先の会戦ではかなりの損害を出したという噂も聞いた。もしかして、たった一本の魚雷でも当てることが出来るのだとしたら・・・」
ドイツでは、戦艦シャルンホルストとグナイゼナウが撃沈されたことは公開されていない。軍の幹部以外は、実際にどの程度の被害があったのかを知らないのだ。ただ、日本軍の武器は強力なので注意するようにと通達があっただけだ。
「魚雷、依然近づいてきます!」
Uボートの艦内に緊張が走る。既に深度は40mに達している。そして、元々の位置より500mは移動した。これで、たった一本の魚雷が命中することなどあり得ない。あり得ないと皆思っているのだが、それでも、闇夜で暗殺者に付け狙われているような恐怖感に襲われる。
ドーン!
後部エンジン付近に命中した魚雷は、Uボートの内部で270kgのRDXを炸裂させた。その爆発はすさまじく、隔壁の全てを一瞬で破壊し潜水艦内部を地獄に変えた。
乗員のほとんどは、最初の衝撃の後、何が起こったか正確に理解する時間も無く意識を手放してしまう。
こうしてドイツ海軍は、1940年1月までに完全にバルト海に閉じ込められてしまったのだ。
――――
「ドイツ海軍の動きは封じたが、イタリアがエジプトに進軍する兆候がある。スエズ運河を抑えたいらしいな」
山口多聞は海軍参謀と次の作戦についての打ち合わせをしている。
「ドイツからの要請でしょう。膠着した欧州戦線から北アフリカへ、イギリスと我が日本の戦力を分散させたいのだと思います」
「しかし、我が艦隊が地中海に移動したらイギリス本土が狙われるだろうな。宇700潜水艦だけで、地中海の制海権を奪取できるか?」
「ある程度は出来るでしょうが、補給が追いつくかどうか・・・。それに潜水母艦が、航空機による飽和攻撃を受けたら防ぎきれませんな」
「宇700は500m以上潜航できるが、その深度に対応した爆雷を開発されると安全とは言えないか。イギリスの駆逐艦で、レーダー統制射撃を実用化したやつがあっただろう。あれを随伴してもらってはどうだろう?」
「大急ぎで改装をしているようですが、まだ6隻しか完了してないそうです。あてにはなりません」
「ここはやはり、本国から大鳳型を回してもらうしかないか」
山口多聞は、現状を鑑み本国に増援を打診するのだった。
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