第207話 堀越二郎
1940年1月31日
岐阜県各務原飛行場
ターボプロップエンジンの九九式戦闘機/艦上戦闘機とジェットエンジンの九七式戦闘攻撃機の間を埋めるべく、この各務原飛行場では新型機のテスト飛行が行われていた。
「堀越さん、旋回試験で9.5Gを達成しましたよ!設計通りの強度が出ていますね!」
簡易天幕の下で、手元のパソコンを見ながら曽根嘉年が嬉しそうに声を上げる。
「曽根君、このまま最高速試験に移るぞ!奥山君に出したいだけ出せ!と伝えてくれ!」
――――
宇宙軍では、ターボプロップエンジンの九九式戦闘機とジェットエンジンの九七式戦闘攻撃機のハイローミックスで十分と考えていたが、陸海軍では、その間を埋める戦闘機を欲していたのだ。
九九式戦闘機でも最高速度は800km/hと、この当時の戦闘機に比べて200km/h以上高速だ。しかし、各国の戦闘機も急激に高性能化が進んでおり、また、プロペラ機では最大速度はどう頑張っても900km/hが限度だと予測されていたので、1,100km/h程度の速度が出せて、製造も簡単で安価なジェット戦闘機が必要だった。
もちろん、九七式戦闘攻撃機は非常に高性能だが、いかんせん、値段が高すぎる。そして、数も揃えることが出来ない。さらに、最高機密扱いにされているため作戦での運用が制限されているのだ。どんなに高性能な兵器があっても、使えないのでは意味が無い。その為、陸海軍は合同で、ジェットエンジン搭載の軽量戦闘機開発に乗り出した。
軍からの要求は概ね以下の通りだった。
・エンジン 宇宙軍が開発中の、予定推力2,500kgfの小型エンジンを2基搭載
・最高速度 1,050km/h以上
・航続距離 内部燃料タンクで2,000km 増槽ありで3,000km以上
・武装 ブローニングM2 4丁 弾数 250発/丁以上
・500kg爆弾2発 もしくは航空魚雷1発
※航空魚雷は、途中で対艦ミサイル1発に変更
1935年の12月に、この要求仕様は中島飛行機と三菱に提示されたが、中島は宇宙軍と合同で爆撃機や輸送機の開発をしているため対応できないと辞退。三菱が設計に当たることとなった。
そして、設計主務者には堀越二郎が抜擢される。
しかし、三菱にも堀越にも軽量ジェット戦闘機の知見などは全く無く、宇宙軍に設計の協力を依頼した。そして、宇宙軍からは、“人員を回すことは難しいが参考資料を送る“と返答があった。この時期、宇宙軍も各種兵器の開発で手一杯だったのだ。
そして送られてきたのが、いくつかの設計図だった。
その設計図は、機体の外観と、内部のフレームやリブの形状を図面にしたものだった。接合部分や可動部分の詳細な図面はなく、かなり大雑把な物だったが、その中の一つを見た堀越は雷に打たれたような衝撃を受けた。
「これだ!この機体をベースに設計をしよう!」
堀越のハートを射貫いた設計図は、F-4ファントムⅡの物だった。
この設計図は、高城蒼龍が前世で読んだ「世界の軍用機史」に載っていたものなので、それほど詳細なものではないし、寸法などの記載も無い。しかし、堀越はF-4ファントムⅡの翼の形状に目を奪われた。
そこには、逆ガル形状の主翼があったのだ。
「素晴らしい!これが求めていた逆ガルウイングだ!」
そして、堀越はすぐさま設計に取りかかる。
まず、搭載されるエンジンの推力で、速度が1,050km/h以上、1,000kgの爆装が可能なサイズと重量を算出する。次に航続距離を満たすための燃料搭載を考慮して設計されたのが、以下の仕様だ。
・全長 14.10m
・全幅 9.90m
・翼形状 逆ガル・デルタ翼
・最高速 1,050km/h以上
・空虚重量 4,300kg
・最大離陸重量 10,000kg
・爆装 最大3,000kg
爆装については要求では1,000kgだったのだが、設計を進めていくうちに3,000kgまで搭載できることがわかったのだ。これは陸海軍にとって嬉しい誤算だった。
こうして外観形状はF-4ファントムⅡを一回り小さくしたような機体で、性能的にはA-4スカイホーク攻撃機に近い戦闘攻撃機が完成する。
――――
「宇宙軍の技術を参考にしたとは言え、我々だけでこれだけの機体が完成したのは素晴らしいことだ!」
この機体の完成に、陸海軍は大喜びをする。九九式戦闘機/艦上戦闘機でも、欧州方面やシベリア方面で圧倒的な戦果を上げている。
しかし、どうしても欲しかったのだ。自分たちで自由に使えるジェット戦闘機が!
そして、この機体は「海軍零式艦上戦闘攻撃機“烈風”/陸軍零式戦闘攻撃機“疾風”」として制式化された。
陸軍と海軍で名称が違うのだが、機体のペイント以外全く同じ物だ。陸軍機にも着艦フックが付いているし、主翼も折りたためる。しかし、双方どうしても自分たちだけの名称が欲しかった。ここだけは絶対に譲れなかったのだ。
ただし、残念な事に通称はどちらも「ゼロ戦」の呼称が定着してしまう。
九九式戦闘機の生産ラインはすぐさま「ゼロ戦」の生産に置き換わり、大量生産がされることとなった。
そして世界は、「ゼロ戦」の出現に驚愕することになる。
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