第185話 バトル・オブ・ブリテン(11)
ジョンソン大佐は目の前で繰り広げられる光景を、何故か現実感の無いまま見ていた。
数分前、遙か彼方の敵大編隊が爆竹の連続爆発のようにはじけ飛んでいた。そして、その爆竹の煙から出てきた残りの敵機は、今、目の前で次々に撃ち落とされている。止まっているハエをたたき落とすよりも簡単そうだった。
2.5秒で1発の発射速度なら、1分間で24発の発射ができる。それが20門ということは、1分間で480発だ。敵は1,600機残ってはいるが、それが完全に同時攻撃をしてくるわけでは無い。大隊ごとに数十秒から数分の時間差で攻撃を仕掛けてくる。127mm砲は、近づいてくる敵を順番に撃ち落としていた。
ジョンソン大佐は知らないが、この127mm砲は、音速で飛来する直径25cmのミサイルを迎撃する能力があるのだ。それに比べて、時速300kmで翼幅が10m以上もある爆撃機を撃ち落とす事など造作も無い事だった。
そして運良く127mm砲の攻撃をかいくぐった敵機も、距離3,000mくらいの所で35mm機関砲によって葬られている。日本軍の防御は完璧だった。
300mほど隣を航行している駆逐艦の127mm砲をよく見ると、一発発射する度に少しずつ砲塔が旋回し、砲身の角度も変化している。そして、その動きは信じられないくらい速い。ジョンソンは、こんな動きをする“モノ”を今まで見た事が無かった。そうだ、やはり何もかも現実的じゃ無いのだ。
いやいや。これは現実だ。この信じられないような、非現実的な光景を山口艦隊は現実にやっているのだ。
ジョンソン大佐は深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、山口に質問をする。
「あの127mm砲弾には、近接信管が入っているのですか?」
「近接信管ですか?そうですね・・それは、まだ言う事が出来ないのです」
「それは、軍機という事ですか?しかし、言えないということは、近接信管が入っていると言っているようなものですよ」
「ははは、まあ、そうですね。貴国や米国でも研究されているはずです。貴国でも、おそらく数年以内には実用化出来ると思いますよ。おっ?ちょっと失礼」
山口のインカムに、CDCから通信が入ったようだ。
「山口司令。敵機が退却していきます。残存機数は約300です。それと、哨戒機がドイツ艦隊を発見しました。北東に400kmです」
「よし、敵機が有効射程を出るまで、このまま攻撃を続けろ。ドイツ艦隊の規模はわかるか?」
「戦艦と思われる大型艦が2隻、巡洋艦および駆逐艦が36隻、その他、小型艦が正確な数はわかりませんが、かなり多数です」
司令部からは、ブルンスビュッテルに停泊する艦隊があるとの情報が来ていたが、これがその艦隊だろう。
おそらく、戦艦シャルンホルストとグナイゼナウを中心とした艦隊だ。航空機によって日本艦隊を葬った後、戦艦と航空機の援護の中、強襲揚陸を行う作戦だったのだろう。400kmと距離があるのは、日本軍の雷撃機を警戒しての事か。
「よし!次の相手は戦艦だ!」
――――
「航空攻撃隊との通信はまだ回復しないのか?」
「はい、艦長。西部方面軍司令部でも把握できていないようです。おそらく、日本軍による電波妨害では無いかと・・」
戦艦シャルンホルストの艦橋で、チェーザー艦長は副長からの報告を聞く。
アシカ作戦の第一段階では、3,100機の航空隊によって日本艦隊とイギリス沿岸の航空基地を壊滅させ、第二段階で、我が艦隊の支援を受けながら上陸用舟艇で強襲揚陸を敢行するはずだった。
「航空隊の攻撃が成功したのかどうかわからなければ、動きようが無いな。司令部からの指示は無いのか?」
「はい、艦長。司令部からは、いつでも出撃が出来るようにしておけとだけです」
日本軍に攻撃を仕掛けている航空隊とは通信が出来なくなっている。ブルンスビュッテルの基地とは、かなり雑音が激しいが通信が出来ているところをみると、故障では無くやはり妨害電波のようだ。
「念のため、敵の航空攻撃に備えてレーダー監視を怠るな」
シャルンホルストのレーダーは、かろうじて動作をしているようだ。しかし、これもノイズだらけで十分な判別は出来ていない。だが、レーダー手は、敵が編隊で来てくれたなら、おそらく探知できるだろうと考えていた。
※史実では、地上設置型のレーダーは実用化しているが、艦船へのレーダーは装備されていない。しかし、この世界線では開発が早く進み、シャルンホルストへ対空レーダーが装備されている。
――――
「対戦艦巡航ミサイル発射!」
山口多聞はインカムに向かって指示を出す。
随伴している重巡4隻から、合計8発の巡航ミサイルが発射された。
「山口少将。ドイツ軍の戦艦が来ているのですか?」
「ええ、ここから北東に400km海域です。ほぼ停船しているという事なので、こちらの様子を伺っているのでしょう」
「今発射したミサイルは、対戦艦巡航ミサイルと言っていましたが、開示頂いた兵器の一覧には無かったようですが・・」
「お、それは失礼しました。まあ、どうせすぐわかる事なのですが、あれは、対戦艦用に開発をされた巡航ミサイルです。射程は、まあ、今は500km以上とだけ言っておきましょう」
「しゃ、射程が500km以上ですか!?そんなに遠くの戦艦に命中させる事が出来るのですか!?」
山口は射程500km以上と言ったが、実際には1,500kmの射程がある。ただし、1,500km先だと、衛星や潜水艦からの位置情報を得られたとしても、途中までは慣性航行での飛行になるので、敵が位置を変えると見失ってしまう可能性がある。確実に命中させるなら、哨戒機のレーダーが届く範囲となる。
この対戦艦巡航ミサイルは、この世界に数十隻存在する“戦艦”を撃沈させるためだけに開発された特殊なミサイルだ。
長門・陸奥などの戦艦の全廃が決まった際に、海軍は「敵の戦艦を撃沈する手段が無くなる!」と強硬に反対をした。その代案として宇宙軍が提示したのが、この対戦艦巡航ミサイルだ。
このミサイルは、発射して敵戦艦に近づくまでは、時速900kmで海面すれすれを飛行していく。そして、敵戦艦をアクティブレーダーで捕捉すると、距離10,000m付近で弾頭部分が切り離され、弾頭だけロケットモーターで加速しながら、マッハ4.2で舷側喫水線付近に命中をする。
弾頭の先端部は直径40mmのタングステン合金の“槍”になっており、その後ろに炸薬量450kgの本体が繋がっている。この弾頭は、最大900mmの装甲を撃ち抜き、その向こうに450kgの炸薬を押し込んだ後に大爆発を起こすのだ。
ただし、ミサイル本体がかなり大型化したため、装備できるのは重巡のみだ。それも、専用のVLSに二発のみの搭載である。
ミサイル自体の数は少ないが、それ以上にこの世界に存在する戦艦も少ないので十分という判断だった。
東の方向に飛んでいく巡航ミサイルを見ながらジョンソンは思う。
“日本が戦艦を全廃したのは維持する人員と国力の問題では無く、日本にとって戦艦というもの自体が、すでに役に立たない過去の遺物になっていた為なのでは無いか?”
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます