第176話 バトル・オブ・ブリテン(2)
「ドイツの航空戦力が集結しつつあるな」
宇宙軍本部では、高城蒼龍と白次中佐が衛星写真を見ながら対策会議を行っていた。
「確認できるだけで2,600機だ。フランス北部とベルギーの滑走路はどこも満員御礼だな」
「Bf109戦闘機が1,000機にJu87急降下爆撃機が700機、その他が900機か。目標は山口艦隊だろうな。どう思う?全軍で飽和攻撃を仕掛けてくると思うか?」
「ダンケルクで500機近い損害を出しているからな。ドイツ軍も同じくらいの戦力じゃ全滅させられるのがわかっているだろう。ここは、2,600機以上での飽和攻撃だろうな。それに、沿岸には歩兵師団に上陸用舟艇も見える。山口艦隊の撃滅と同時に上陸を企ててるんじゃ無いか?」
「しかし、こんな攻撃が続けば補給が追いつかないな。工場もフル稼働だが生産力には限界がある」
「とはいえ、敵さんはこっちの都合など知ったこっちゃ無いか」
「イギリス上陸作戦の発動だろうな・・・。山口艦隊に連絡だ」
――――
「ドイツ軍機2,600機以上による飽和攻撃か・・・。それに大量の上陸部隊も集結とはな」
山口多聞は、統合幕僚本部からの電信を見てつぶやく。
※開戦に伴い、大本営の下に統合幕僚本部が設置されている。
「山口少将。やはり、我々だけでも先制攻撃をしかけた方が良いのでは無いでしょうか?」
「そうだな。しかし、英軍との共同作戦でもある。我々が英軍の意向を無視する訳にもいくまい。それに、やはり敵の高射砲は脅威だよ」
「しかし、2,600機以上で同時に攻撃を仕掛けられたらまずいですな。完全に防ぎきれない可能性があります」
「そこは巡洋艦隊を信じるしかあるまい。現時点より赤城・加賀を中心に密集陣形だ。それと、英軍にも連絡を頼む」
山口艦隊はテムズ川の河口から東に50km地点で、方円密集陣を展開することにした。
――――
「2,600機のドイツ軍機が集結だと!?それに上陸用舟艇もか!?」
チャーチルが地下の臨時首相官邸執務室で、苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。
「これだけの敵機を防げるのか?スピットファイアもまだ700機くらいしか無いんだろう!」
「首相閣下。これだけの戦力が同時に攻撃を仕掛けてきたなら、防ぎきることは不可能でしょう。しかし、もし敵が山口艦隊を集中的に狙ってくれたとしたら、勝機はあるかも知れません」
「山口艦隊に大部分を任せて、残りを我が空軍で対処すると言うことか?しかし、この攻撃で山口艦隊が大損害を受けたら、この次、もうイギリスを守ることはできんぞ!」
「しかし、山口艦隊を避難させては、このロンドンは火の海になるでしょう。そして、ドイツの上陸部隊が押し寄せてきたなら、我が軍に防ぐ手立てはありません」
「くそっ!このままではヨーロッパの全てがあのチョビ髭に支配されてしまうぞ!新大陸(アメリカ)はこの現状をわかっているのか!?」
チャーチルはドイツとの開戦以来、アメリカのルーズベルト大統領に対して軍事協力と参戦を要請してきたが、ルーズベルトは中国での利権拡大にご執心でヨーロッパには関心が無いようだった。かろうじて、カナダ経由でP40戦闘機を送るとの返事があっただけだ。
※アメリカは、戦闘機を輸出する際船での移送を禁じる法律を成立させた。その為、表向きカナダに売却したことにして、カナダがイギリスに送るという方法を採ったのだ。
――――
1939年11月16日
「諸君!ついに我が第三帝国がヨーロッパの全てを支配するときが来たのだ!我ら優良種であるドイツ民族が劣等種たるアングロサクソンやスラブを駆逐し、このヨーロッパに真の平和と発展をもたらそうではないか!」
ついに“アシカ作戦(イギリス上陸作戦)”が決行された。開始の日は、合理的な作戦判断では無く、ヒトラーの“御託宣”によるものだ。ヒトラーはなにより自分自身の直感を信じている。そして、その直感は自分自身の心の深いところからわき上がってくるのだ。
――――
「ドイツ軍に動きです!フランス北部とベルギーの空港から大量の航空機が離陸しています!」
「ついに始まったか。九九式艦上戦闘機は対空ミサイル装備で全て上がらせろ!イギリス軍にも連絡だ!」
山口多聞は全艦に指示を出す。敵は2,600機以上の大編隊だ。日本軍に緊張が走る。
兵士達はすぐに持ち場に着いた。今こそ磨いてきた練度を示す時が来たのだ。ダンケルクでは戦闘機隊だけで撃退できたが、今回は全部防ぎきることは出来ない。必ず、この艦隊に到達する敵機があるだろう。そうなれば、我々砲術科の腕の見せ所だ。照準は全てコンピューター化されてはいるが、弾薬の補給は我々の仕事だ。127mm速射砲は22発を撃つと次の22発マガジンが自動装填される。そして、22発を打ち終えるまで約1分の間に、次のマガジンと交換しなければならない。そこに遅れが出てしまうと攻撃密度の低下を招いてしまう。艦隊の命運は、我々の腕にかかっているのだ。
――――
「ついにドイツ軍が来たか!空軍に連絡だ!すぐに戦闘機を上がらせろ!」
「お待ち下さい、首相閣下。山口司令からは、日本艦隊から半径150km以内には近づかないようにとの事です」
「なんだと!ダンケルクの時は500機ほどだったが今度は2,600機以上だぞ!それすら防ぎきることが出来るというのか!?」
「それはわかりませんが、撃ち漏らした敵機の対処を頼みたいとのことです」
――――
刻一刻とドイツ軍が近づいてくる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます