第175話 バトル・オブ・ブリテン(1)
「アシカ作戦の準備はどうなっている?」
※アシカ作戦とは、イギリス上陸作戦のこと
ヒトラーは、レーダー海軍元帥・ブラウヒッチュ陸軍元帥・ゲーリング空軍元帥とイギリス攻略に関する会議を行っていた。
「はい、総統。まずは、航空攻撃によって日本軍の空母艦隊を撃滅します。その後、イギリス沿岸の陣地を爆撃し、戦力を奪った後に一気呵成に上陸作戦を実行致します」
「しかし、ゲーリング元帥。先のダンケルクでは、500機近い損害を出しているのだろう?何か対策はあるのか?」
「はい、総統。先日の空戦では、約300機がロケット弾によって撃墜されました。そして、残りは戦闘機による空中戦に於いてです。これは、日本軍は、一度に使えるロケット弾が300発までであると分析致しました。そして、空戦で一方的に負けたのは、日本軍機の高度が圧倒的に高かった為であります。Bf109は11,000mまで上昇できるので、この高度から日本軍機に攻撃を仕掛けます」
「日本軍のロケットが最大300発というのは間違いないのかね?」
「はい、総統。ダンケルク以降、小規模の航空攻撃を日本艦隊に仕掛けましたが、その際は、全て空中戦での戦闘であり、ロケットの使用は確認できておりません。つまり、あのロケット弾は高価であり数が少ないか、もしくは全て使い尽くしている可能性があります。一気に3,000機をもって攻撃を仕掛ければ、撃滅出来ない艦隊などありはしません」
史実でも、ドイツがアシカ作戦の前哨戦であるバトル・オブ・ブリテンに投入した航空機は、合計3,646機(延べ数では無い)であり、準備さえ整えば、一度に3,000機での攻撃は不可能では無かった。
「制空権を奪取した後、戦艦シャルンホルスト・グナイゼナウを中心とした艦隊を持って、上陸船団を護衛しつつ上陸を敢行致します」
こうして、アシカ作戦の実行が決定された。
――――
山口多聞は、ジョンソン大佐と同じ車でロンドン郊外にある、イギリス空軍統合作戦本部へと向かっていた。
「そういえば、ジョンソン大佐は、黒海で宇宙軍の作った駆逐艦に乗船されたそうですね」
「ええ、ご存じでしたか。あの駆逐艦の性能に驚愕して、我がイギリスでも同等のものを開発出来るよう尽力したのですよ。対空火器や主砲に関してはかなり近い物が開発出来たと思っていたのですが、まだまだ足下にも及びませんでしたね」
「いやいや、我が軍のほとんどの兵器は宇宙軍で開発された物なので、海軍としてはお恥ずかしい限りなのですよ。戦闘指揮所の運用も宇宙軍からの情報で構築したのです」
「そうなんですね。そういえば、7年前の黒海で宇宙軍のカズミ・アマノ少尉とお会いしましたよ。アマノ少尉とは1924年のマン島レースで初めてお会いして、それ以来の仲なんですよ」
「ほほう。あの安馬野大尉とお知り合いでしたか」
「ええ、まあ、永遠のライバルみたいなものですね。マン島のレースでは私と彼女は熾烈なトップ争いをしたんですよ。今は大尉ですか。それにしても、退役はされてないんですね。それではご結婚もまだ?」
「いえ、天野大尉は宇宙軍の高城大佐とご結婚されましたよ。結婚後も軍役に就かれています」
「そ、そうでしたか。それでは、ご主人は相当なM・・、あ、相当な人格者の方なんですね」
「そうですね。人格者かどうかは知りませんが、優秀な人間です。新兵器のほとんどを彼が主導して開発をしたと聞いています」
高城蒼龍・・・確かMI6の報告書にも名前があったはず。天皇と幼なじみであり、天皇の意思決定にも重要な情報を提供しているとされる人物だ。そんな黒幕が、あのカズミ・アマノの夫となっていたとは・・・。
「しかし、結婚しても軍籍にいるのですね。日本は女性の活躍がすごいんですね」
「まあ、快く思っていない勢力もありますが、ここ10年くらいで女性の社会進出は進みましたよ。陸海軍には女性の軍人はいませんが、宇宙軍はほとんどが女性兵士ですからね。出産した後も、軍人として働いている女性兵士もいますよ」
イギリスでも欧州大戦で労働力が不足したため、女性の社会進出が急激に進んだという経緯がある。それでも、軍隊に女性兵士は居ないし、まして、出産した後も軍隊で働けるなど想像できなかった。
――――
日英合同作戦会議
日本からは、山口少将、草鹿艦長・若杉参謀が出席していた。
※通訳士官も同席
イギリスからはオーキンレック陸軍大将、ラムゼー海軍大将、ダウディング空軍大将と参謀が10名程度の参加だ。
「山口少将、ドイツ軍機の封じ込めに感謝します。懸念されたイギリス本土への空襲が無いのは、山口艦隊のおかげです」
「お役に立てて光栄です」
「では早速ですが、今後三ヶ月間の作戦計画についての案をご覧下さい」
司会の海軍参謀がペーパーを配る。山口らに配られた資料は日本語の注釈が付いた物だ。
「なるほど。今後三ヶ月間は積極的な攻勢に出ることは無く、防御に徹すると言うことですね」
「はい、山口少将。その通りです。現状、反攻上陸作戦を行うだけの陸上戦力はありません。まずは、このドーバー海峡を絶対防衛ラインとして、なんとしても防ぎきります。そして、インドにて植民地兵の訓練を行っておりますので、戦力が整うのを待って反攻上陸作戦を行います」
「それは、どれくらい先の予定ですか?」
「はっきりしたことは言えません。しかし、最短でも1年半はかかると考えております」
「となると、三ヶ月以降もこの状態が続く可能性が高いということですね」
「その可能性は高いと思います。ただ、我が軍と日本軍が協力すれば、十分防ぎきることができると考えます」
山口は、日本軍を評価してくれるのは嬉しいが、日本と2万キロも離れているので補給がままならない。空対空ミサイルに至っては、ダンケルクで300発以上を使用したので残りは700発しかなく、全力出撃2回分だ。補給船が向かっているが、到着まであと2週間かかる。
「しかし、我が軍のミサイルには限りがあります。もし、ドイツが3,000機の航空機で飽和攻撃を仕掛けてくれば、とてもではありませんが防ぎきることは出来ないでしょう。ここは、フランス北部とベルギーにあるドイツ軍航空基地を攻撃し、敵航空兵力の漸減を図った方がよろしいのではないですか?」
山口がイギリス軍の方針に対して異を唱える。イギリスはおそらく、日本軍の消耗を危惧しているのだろう。ドイツ軍基地に近づいて高射砲で迎撃されれば、完全に損害をゼロにする事は出来ない。それが繰り返されれば、こちらが漸減されてしまう。
しかし、やはり3,000機の航空機による飽和攻撃はされたくないというのが本音だ。万が一、空母赤城・加賀が撃沈されるようなことがあれば、九九式艦上戦闘機も十分な運用が出来なくなってしまう。
山口は、イギリスの方針に一抹の不安を覚えるのであった。
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