第174話 観戦武官(2)
「こちらが戦闘指揮所です」
案内された部屋には、艦橋よりも多数の大型ディスプレイが並べられていた。そしてかなり広い。
30人くらいの兵士が椅子に座ってディスプレイを見ている。そして、ディスプレイには艦橋で見たものと同じような海図が表示されていた。
「こちらも、レーダー画面ですか?艦橋にあったものより、かなり広範囲の様ですが」
「はい、赤城と加賀には、それぞれ哨戒機を3機ずつ搭載しております。その内、少なくとも一機を常に上空に上げて哨戒任務に就かせており、その哨戒機からのレーダー情報を表示しています。哨戒機は高度11,000mを飛行しており、天候や、相手の高度にもよりますが最大500km程度の索敵半径があります」
500kmだと!?これだけの索敵範囲があれば、偵察機で敵艦隊を探す必要も無い。艦隊決戦になったとしても、これなら確実に先制攻撃を仕掛けることが出来る。これでは、どんなことをしても日本艦隊に勝利することは叶わないのでは無いか?
我がイギリスでも、航空機搭載型のレーダーは研究されている。しかし、それは夜間戦闘機用のレーダーであり、探知距離はせいぜい2,000m程度だ。とてもではないが、索敵レーダーを航空機に搭載できるほどの小型化は出来ていない。
「航空機に索敵レーダーを搭載できるのですね。しかし、良くそこまで小型化できましたね」
「そうですね。技術的なことは良くわからないのですが、そこは軍機に関わる事なので理解している人間も少ないのです。我々も使うことは出来ますが、一部の技術要員以外中身はわかりません」
イギリスでも、大型機に搭載できるくらいにまでレーダーを小型化できれば、防空体制はより強固なものとなる。やはり、電子機器は小型化が重要だとジョンソンは再認識した。その為には、真空管の小型化が欠かせない。現在研究中の真空管は直径10mmだが、もう一段階小さくする必要がありそうだ。
しかし、レーダーで敵を確認するだけなら30人も必要ないだろう。これだけの人数が必要な業務とはいったいなんだろうと考えるがわからない。
「レーダーの確認だけでこれだけの人員が必要なのですか?」
「そうですね。レーダー等で戦場の状況を把握し、哨戒機とも協力して担当する小隊に対し指示を出すのです。燃料や残弾もわかるようになっていて、最適な戦闘ができるようにサポートするのが仕事になります」
「そこまでリアルタイムに把握できるのですか?」
「ええ、情報は最大の武器だと考えていますから」
日本は技術だけでは無く、こういった運用までこんなに進んでいるのかと驚愕する。最前線で戦う兵士達を、これだけの体制でバックアップして戦力の最大化を図っている。日本軍のノウハウを吸収することが出来れば、我がイギリス軍はさらに強大になれる。
「では、格納庫を案内します」
――――
「こちらが九九式艦上戦闘機です。設計図とエンジンはお渡ししたとおりです」
「改めて見ると、すごいカラーリングですね・・・」
そこには、赤と白のダズル迷彩に塗装された九九式艦上戦闘機が駐機してあった。
「ええ、まあ味方からの誤射を恐れてのことなので」
山口はちょっと恥ずかしそうな表情を見せる。航空隊の現場から出た提案だったが、このカラーリングはやはりどうかと思っていた。
「日本がガスタービンエンジン(ターボプロップエンジン)を実用化していたのは驚きでした。我が国でも現在開発中でしたが、先を越されてしまいましたね。開発チームが本当に悔しがっていましたよ。」
「ははは、そうでしたか。それは申し訳ないことをしましたね」
「しかし、エンジンを供与して頂いたので、これで英国のガスタービンエンジン技術が進歩します。それに、我が国ではガスタービンエンジンでプロペラを回すのでは無く、ジェット噴流によって推進するジェットエンジンというものを開発しています。このガスタービンエンジンの技術を組み合わせれば、早晩高出力のジェットエンジンが実用化出来ることでしょう。そのエンジンを搭載した戦闘機は、音速を超えることが予測されているのですよ」
イギリスでは遠心圧縮式のジェットエンジンの実用化が近かった。ガスタービンエンジンをプロペラの駆動に使うという発想しか出来なかった日本と違い、噴流を直接推進力に使う方式を採用しているイギリスの方が、この分野では一歩進んでいるとジョンソンは誇らしく思った。この一点だけは日本に勝ることが出来た。なんとか英国紳士のプライドを維持することが出来たのだ。
「そ、そうですか。音速を超えるのはすごいですね。完成したら是非とも披露して頂きたいものです」
山口は、数年前の自分を思い出していた。空母大鳳で、音速の2倍近くの速度を出すことができ、高度20,000m以上に達することの出来る戦闘機を見せつけられた時の衝撃は忘れられない。そしてその戦闘機は九七式戦闘攻撃機として、制式化されている。
実戦では夜間のウラジオストク空襲に使われただけなので、その存在はまだ秘匿されている。しかし、もうすぐその勇姿を世界に見せつける日が来る。その時、世界は衝撃に震えることだろう。山口は、その様子を想像して顔がにやけてしまった。
「山口少将、どうかされましたか?」
「あ、いえ、何でもないですよ」
英国に開示して良いのは、このヨーロッパに派遣された艦隊の戦力だけと指示を受けているので、日本のジェット戦闘機については言及できない。
“宇宙軍の高城大佐もこんなふうに思っていたんだろうな”
「諸元表にあった対空ミサイルを見せて頂いてもよろしいですか?」
「はい、こちらが対空ミサイルです」
そう言って、台車に乗せられた数本のロケット弾を指さした。
そこには、全長3.67m、直径20cmほどの物体が置いてある。
「このミサイルが、敵機に向かっていくのですね?命中率はどのくらいですか?」
「ダンケルクでの戦闘では、概ね90%程度の命中率でしたね。ほぼ想定通りの性能です」
ジョンソンは90%の命中率と聞いて固唾を飲み込む。7年前黒海で見た対空砲や高角砲は命中率が100%だったが、あれはせいぜい射程数キロ程度だ。しかし、このロケットは確か射程が50km以上と記載していたはずだ。
「諸元表では射程は50kmとありましたが、その距離で発射して命中率が90%と言うことですか?ちょっとにわかには信じられないのですが・・」
「そうですね。仕組みについては機密情報なので言えないのですが、我が軍にはその能力があると認識して、共同作戦にあたってもらいたいと思います。ジョンソン大佐も明後日の日英合同作戦会議には参加されるんですよね?我が艦隊の能力を正確に把握して頂いて、その上で最良の作戦を立てることにしましょう」
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