第158話 チタ反攻(1)

 モグゾンにいたソ連軍部隊は、線路を破壊しながらイルクーツクを目指していた。


 当初は1kmごとに爆弾を仕掛けて、順次爆破をしながら西進したが、イルクーツクまでの距離600kmを考慮すると、とてもでは無いが時間がかかりすぎることが判明する。


 そこで、線路の下に丈夫な鉄骨を差し込み、それを、三連結した機関車で引っ張りながらイルクーツクを目指した。これにより、1日で200kmの線路を完全破壊することに成功する。


 線路破壊は想定の範囲内であったが、ここまで完全に、しかも素早く破壊されたことは、日本軍にとって大きな誤算だった。


 ――――


 チタ近郊の滑走路を、日本陸軍空挺隊員が全力で修繕している。


「急げ!あと3時間以内になんとしても滑走路を使えるようにするんだ!」


 滑走路への夜間空襲とその後の制圧作戦で、滑走路自体にそれほどの損傷は無いが、航空機や格納庫の破片がかなり散らばっている。


 重機が無いので、全て人力による修繕作業だ。少しでも金属破片が残っていて、それが着陸の航空機のタイヤに刺さってしまえば、大事故に繋がりかねない。


 このチタは、フルンボイル飛行場から500km以上離れているので、常に戦闘機を上空に待機させることも出来ない。哨戒機と陸軍九八式重爆8機が上空警戒に当たってはいるが、一刻も早く滑走路を使えるようにしなければならない。航空機が着陸できるようにしなければ、チタの空挺師団が空襲によって損害を被る可能性があるのだ。


 ――――


 ソ連軍のSB爆撃機68機が、チタを目指している。


「戦闘機の援護が無いのはつらいですね、隊長」


「そうだな。イルクーツクから500km離れてるからな。戦闘機の航続距離じゃ帰還ができない」


 ソ連軍のI16戦闘機の航続距離は500km、新型のMig-3でも800kmほどしか無いため、戦闘機の護衛を付けることができなかった。


「まあ、日本軍もまだ空挺部隊だけということだから、心配はいらんだろう。チタも清帝国から500km離れているから戦闘機も来れまい。駅の施設と滑走路に爆弾を落として帰投するぞ」


 ――――


「シュローダー(哨戒機のコールサイン)よりチタ守備隊へ。ソ連軍爆撃機68機が接近中。戦闘機の随伴は無い」


「チタ守備隊よりシュローダーへ。了解した。出来るだけ撃ち落としてくれ。撃ち漏らしはこちらでなんとかする」


 ――――


「あと100kmでチタだ。第一中隊は駅を、第二中隊は滑走路を爆撃する。間違えるな!」


「隊長。前方に航空機です。距離約30,000mです」


 双眼鏡で前方を見ていた機首の銃手が、航空機発見の報告をする。


「大型機のようだな。輸送機か爆撃機か?こちらに向かってきているな」


 おそらく、日本の輸送機か爆撃機だろう。戦闘機が間に合わないので、爆撃機の銃座で防戦をするつもりだろうと思う。


「敵機だ!対空機銃、準備をしろ!」


 対空銃座に準備を促す。敵の銃座がどの程度かはわからないが、目視できる機数は10機程度だ。こちらは68機の大編隊。十分に戦える。


 敵機との距離がどんどん縮まる。そして20,000m程度になった時に、双眼鏡で日本軍機を監視していた銃手が叫ぶ。


「敵機から発砲炎です!」


「なんだと?距離が遠すぎるぞ。ロケットか何かか?」


 ソ連陸軍で開発しているロケット兵器は、射程が10,000mほどあると聞く。しかし、それを空で使ったとしても、とても当たるとは思えない。


「敵大型機は反転して逃げていきます。発射されたのはロケットのようです!こちらに近づいてきます!」


 日本軍の航空機からは、一機当たり8発ほどのロケットが発射されたようだ。そしてそれは、みるみる近づいてくる。


「こんな距離をロケットが飛ぶことが出来るのか?全機回避行動を取れ!」


 全機に命令を出すが、どうやら無線が繋がっていないようだ。日本軍は無線を無力化できる可能性があるとブリーフィングで注意があったが、この事か。


 無線は通じなかったが、全機、ロケット弾に警戒して回避行動を取った。


「こんな遠距離でロケット弾が当たるわけは無いだろう。日本軍め、一体何を考えている?煙幕か何かで目くらましとかか?」


 ソ連爆撃機隊は散開し、ロケットの軌道から位置をずらした。


「隊長!敵ロケットが進路を変えます!あ、あ、3番機に!」


 副操縦士がそう叫んだ瞬間に、左前方を飛行していた3番機にロケットが命中し爆発した。そして友軍機が次々と爆発炎上していく。


「な、なんてこったぁ!」


 近づいてきたロケットは、ものすごい速度で味方機に激突する。そして大爆発を起こした。そこそこの大きさがあったので目視することが出来たが、速度は機銃の曳光弾と同じくらいに思えた。銃弾と同じ速度で追いかけてくるロケットなど、既に理解の範疇を大きく超えている。


 68機いた味方爆撃機は、ほんの一瞬の間に12機にまで減らされてしまった。

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