第159話 チタ反攻(2)

第152話に「開戦(2)」を追加しました。原稿を単純に飛ばしていました。そちらもぜひお読み下さい!


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「56機が撃墜されただと・・・」


 幸い、隊長機にはロケット弾は当たらなかった。ロケットを放った敵機は反転して逃げている。おそらく、この高性能なロケット兵器は数が少ないのだろう。


 “しかし、何という兵器だ。ロケットが目標に向かって進路を変えるなど、ありえん。この情報を何としても方面軍に伝えなければ・・・”


 隊長は決断する。


『22番機、帰投シ日本軍ノ脅威ヲ伝エヨ』


 無線が使えないので、発光信号で22番機に伝えた。そして、残りの11機で爆撃を敢行することにした。


 “もう、帰還することはできないかもな・・・”


 もし、さっきのロケット兵器が地上からも襲ってくるようなら、もうソ連軍に出来ることは無い。しかし、ロケットは比較的大きく見えたので、空挺部隊で運用できるサイズでは無いような気がする。地上にあのロケットが無いように祈った。


 ――――


「シュローダーよりチタ守備隊へ。敵機、56機を撃墜。1機が反転して帰投する模様。残り11機がチタへ向けて侵攻中」


「チタ守備隊よりシュローダーへ。11機ならなんとかなる。ご苦労だった」


 敵はおそらく滑走路と駅施設の破壊が目的だろう。チタ守備隊は、この二つの拠点に絞って防御命令を出した。


 ――――


 SB爆撃機から、チタの駅と空港が見えてきた。


 現在の処、高射砲などによる反撃は無い。


「やはり、空挺部隊だけというのは間違いじゃ無かったな」


 対空防御が無いのであれば、11機でもなんとか爆撃に成功できる。もしかすると生きて帰れるかも知れない。ほんの少し、光明が差したような気がした。


「直下より発砲炎!ロケット弾です!」


 機首の銃手が叫ぶ。


「なんだと!地上からも撃てるのか!迎撃しろ!何としても撃ち落とせ!」


 機首の銃座からでは俯角が取れず、もうロケットに機銃弾をあてることは出来ない。後部下方銃座がロケット弾に向かって発砲を開始する。しかし、おそらく直径は10cm程度だろう。こんな小さい的へ機銃弾が当たるはずも無かった。


 そしてそのロケットは、11番機のエンジンに命中した。さっきのロケットよりかなり威力は小さいようで、11番機はエンジンをやられても、まだ飛行出来ている。


 しかし、11番機は目標までたどり着けないことを悟ると、弾倉を開いて爆弾の投下を始めた。爆弾の落下地点に、少しでも日本兵がいることを願って。


 友軍機は次々と撃墜されていく。上空からでは日本兵がどこに居るのか全く見えない。


 ――――


「敵機まで3,500です」


「よし、携帯地対空誘導弾発射!」


 日本陸軍の兵士が担いでいるのは、宇宙軍によって開発された、歩兵携帯式地対空ミサイルだ。自衛隊の91式携帯式地対空誘導弾とほぼ同じ性能を持っている。


 この時代の航空機はジェトエンジンでは無いため、赤外線誘導ミサイルは命中精度が悪くなる。そこで、このミサイルには赤外線・可視光イメージ誘導が併用されている。これにより、敵機のどの方向からでも攻撃が出来るのだ。


 チタ市街地の建物の陰から対空誘導弾を発射する。兵士の肩から発射されたミサイルはマッハ1.8まで加速され敵機に向かっていく。


 難点は、射程が4,500mほどと短いことだ。しかし幸いにも、3,000mくらいの高度で侵入してきてくれた。おそらく爆撃精度と対空砲火対策との妥協点だろう。


 ソ連爆撃機はミサイルに向けて機銃を撃ち始めた。しかし、直径80mmのミサイルに当たるはずも無い。


 ミサイルは次々に命中していくが、炸薬量が少ないため、命中してもまだ飛んでいる機体がある。


 そして、撃ち漏らした敵を二斉射目が襲う。


 ――――


 ソ連爆撃機隊の隊長機は爆弾を投下して高度を上げた。他の数機もそれに従い、高度を上げる。


 もうチタ駅まではたどり着けない。それならば日本軍の頭の上に爆弾を投下して何としても帰投する。この情報を本部に伝えなければならない。


 ――――


 イルクーツク東部方面軍司令部


「爆撃機隊が全滅だと!一体何が起こったんだ!」


 イルクーツクへは、隊長機と22番機の二機だけが生還できた。


「はい、敵の爆撃機と思われる機体からロケット弾が発射され、56機が撃墜されました」


「対空ロケット弾がそんなに当たるはず無いだろう!回避行動は取らなかったのか!?」


「はい、回避行動を取ったのですが、そのロケットは我々を追いかけてきたのです」


「バカな!ロケットが追いかけてくるはず無いだろう!人でも乗っていたのか?」


「人が乗っていたかどうかはわかりませんが・・・・、もしかすると無線誘導なのかもしれません。例えば、発射母機から双眼鏡で見ながら誘導するとか・・・」


 今回は爆撃機だけの部隊だったが、例え戦闘機がいたとしても20,000m先からロケット弾で攻撃されれば対応のしようが無い。


「さらに、チタ市街まで到達できたのですが、地上から同じように誘導ロケットが発射され、残りの爆撃機が撃墜されました。最初のロケットよりかなり小型だったので、歩兵でも持ち運びが出来るのかもしれません」


 そういえば何年か前の報告で、有線誘導による爆弾を日本軍が開発しているかも知れないという物があった。それが進化して無線誘導になったとしたら・・・・・


 ”事実ならまずいな。しかし、そんな高性能な兵器なら数を揃えるのは難しいのでは無いか?事実、今回も56機は撃墜されたが、そこで敵は引き返している。数がそれほど無い証拠だ。それに、地上からは小型のロケットだけと言うことは、高度を取れば防げるのか?”


「戦力の小出しはダメだな。イルクーツクを要塞化して数を揃えなければ」


 イルクーツクからの報告を受けて、共産党は”大動員”を実施した。開戦当時500万人だった兵力は、数ヶ月で3,000万人規模にふくれあがる。


 また、軍需工場の増設を行い、航空機や戦車の大増産を行った。軍需産業の裾野は広い。合計で4,000万人以上もの労働力が動員されることとなった。

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