第145話 第二次世界大戦勃発(2)
1939年9月5日
「とうとう、ドイツと戦争になりましたね」
宇藤大尉達は、あれから毎朝早朝、槇村大尉達と一緒にランニングをするようになっていた。
“高城大佐の言っていたとおりになってしまったわ”
ノモンハンへの出陣に際して、高城蒼龍はドイツ・ソ連と全面的な戦争になるかもしれないので、十分に気を引き締めて任務に当たるようにと訓示を述べていた。
「そうですね。この戦争が早期に終結すれば良いのですが・・・」
一週間も一緒にランニングをしていると、隊員同士もかなり打ち解けてきた。陸軍のパイロット達は、意外と紳士的な人たちばかりだ。槇村大尉は、宇藤大尉の人柄のおかげなのだろうと思った。宇藤大尉は隊員達の面倒見も良く、物腰も柔らかで皆から尊敬を集めている。
「海軍さんは空母を派遣するようですね。今のところ、陸軍には派遣の要請は来ていませんが、戦火が拡大すればどうなることやら」
――――
1939年9月6日
ポーランドの首都ワルシャワは既にドイツ軍に包囲されていた。
ドイツの進軍は、史実のスピードより遙かに速かった。スペイン内戦でも、史実では参加していなかった三号戦車や四号戦車が参加していたように、科学技術の進歩が早い。これは宇宙軍によって開発された小型エンジンやトラクター・バイクといった輸出もされている工業製品を、リバースエンジニアリングする事によって得られた知見によるものだった。
宇宙軍の工業製品に使われている、ピストンリングや軸受けの合金技術、アルミ合金の成分分析などによって、ドイツでは様々な開発がスムーズに行われた。また、それはソ連についても同じ事が言えた。
――――
1939年9月7日
「これは、ソ連の新型機か?」
衛星からの写真には、ノモンハンのソ連軍飛行場に液冷エンジンを搭載した戦闘機が写っている。3日前の写真にはない。
おそらくMig-3かYak-1だろう。どちらの戦闘機も運動性能はそれほど良くないが、高空での速度が速いのが特徴だ。油断をしなければ大丈夫だろうが、この情報はすぐにノモンハンの宇宙軍に伝えられた。
――――
1939年9月7日15:00
「宇藤大尉。宇宙軍本部からの情報ですが、ソ連のノモンハン飛行場に新型戦闘機が到着しているようです。速度性能が高いので、十分注意をするようにと連絡がありました。司令には先ほどお伝えしています」
「槇村大尉、ありがとうございます。宇宙軍の情報は早いですね。敵が出撃する前から情報を掴むとは、スパイとかですか?」
「いえ、私も詳しいことは知らないので・・」
人工衛星のことは、宇宙軍の中でも、まだ一部の人間しか知らない。このことはトップシークレットだ。
「そうですか。それでも情報はありがたいですね。我々もこの10日間、今まで以上に訓練を重ねたので、ぜひ腕試しといきたいところです」
宇藤は腕試しとは言ったが、九七式戦闘機の7.7mmでは、I-16の撃墜もままならなかったので、新型機にどこまで通用するか不安でしか無かった。
「ところで槇村大尉。あの、もしこの戦争が終わって内地に戻った時には・・・・、私の出身は奈良なのですが・・・・その・・・・・」
「・・・・?」
「一緒に奈良の大仏様にお参りに行きませんか!国家繁栄の祈願です!べ、べ、別に、ほ、ほ、ほ、他の意味は・・・その・・・・・」
槇村は“ピーン”ときた。宇宙軍幼年学校の生徒達は、ほぼ全員高城蒼龍の書いた小説を何度も読み返している。男性が女性に対してどもりながら故郷に誘うのは“アレ”しかない。
「はい、宇藤大尉。戦争が終わって内地に帰ったときには、是非とも大仏様へご一緒させて下さい」
槇村はニコッと笑顔で返した。
「えっ?ほ、本当によろしいのですか?」
宇藤大尉の顔は真っ赤だった。そして、その表情は喜びで爆発でもしそうな感じだ。
槇村は思う。
“これが高城大佐の小説にあった『フラグ』というやつね”
――――
1939年9月8日午前8時
ウオオォォォーーーーン
フルンボイルにある陸軍航空隊の基地に警報が鳴る。
宇宙軍が到着してすぐに、対空レーダーが設置された。現在では、ソ連軍基地を航空機が飛び立って、高度700m付近に達した頃に発見できるようになっている。
レーダーの反応から、敵はおそらく戦闘機で機数は18機だ。
この日は、ソ連軍は地上部隊も進軍を開始している。陸上部隊と航空部隊の連携作戦の様だ。
迎撃のため、宇宙軍の十一試戦闘機9機と陸軍九七式戦闘機16機が離陸する。そして、少し遅れて宇宙軍の哨戒機が離陸していった。
「こちらチャーリーブラウン。バンディッドは高度7,000mを550km/hで接近中。会敵まで約2分」
今までのソ連軍I-16戦闘機なら、7,000mを550km/hなどあり得ない。明らかに宇宙軍本部から連絡のあった新型機だ。槇村大尉は、隊員達に気を引き締めてかかるように指示を出す。
しかし、万が一混戦になった場合、九七式戦闘機が戦闘の邪魔になってしまう。とはいえ、“お前達は邪魔だから来るな”とも言えない。
「九七式が来る前に出来るだけ片付ける!全機油断するな!」
槇村達は、高度8,500mで敵に接近する。右前方に敵機が見えてきた。今日は雲一つ無い快晴だ。敵も当然こちらに気づいているだろう。
槇村達は1,500mの高度差を活かして急降下しながら攻撃に移った。しかし、ソ連軍機は3機ずつの小隊に分かれて回避運動をする。今までのI-16に比べて遙かに速い。
最初の一撃では、浅野機が一機落としただけだった。敵の練度は高い。
十一試戦闘機は、急降下で900km/h近くまで加速してから反転上昇にはいる。そして一撃離脱を徹底した攻撃を繰り返した。
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