第146話 被弾
「あれが日本の新型機か」
ソ連軍航空隊のベズルコフ大尉は、自分たちより高空を飛行する航空機を発見した。この新型のMig-3は高空性能が優れている。しかし、日本軍機はさらに上空を飛んでいるとは驚きだった。
「右上空に日本機だ!全機戦闘開始!」
ベズルコフ大尉は中隊に戦闘開始を告げる。しかし、誰からも返答が無い。無線機からはノイズだけが聞こえていた。
“これは・・・可能性が指摘されていた妨害電波か?”
しかし、妨害電波の可能性を考慮して、無線が使えないときには二小隊一組で敵一小隊に攻撃をかけるように指示をだしていた。18機のMig-3は、三つのグループに分かれて応戦を開始する。
「くそっ!何て速さだ!」
ベズルコフ大尉は二ヶ月前からこのMig-3への機種転換訓練を行っていた。そして、600km/h近い速度と高高度性能に驚き、これならどんな相手でも圧倒できると思っていた。
しかし今相手にしている日本軍機は、自分たちより遙かに高速で旋回性能も高い。武装もおそらく12.7mmを6丁搭載している。一体日本はどのようにしてこんな戦闘機を開発したのだ?
日本軍機は急降下をしながら襲いかかってくる。そして、一度下に抜けてから距離を取り、そしてその勢いのまま上昇をして、もう一度上から襲いかかる。
速度も旋回性能も武装も、何一つ対抗することが出来ない。Mig-3の武装は12.7mm一丁と7.7mmが二丁だ。とてもでは無いが、日本軍機を撃墜できるイメージがわかない。
ソ連軍機は、なんとか逃げるのに精一杯だった。
今日の作戦は、日本の新型機の性能の確認だ。必要以上に戦うことは無い。そして味方のMig-3が5機ほど撃墜され、そろそろ撤退の頃合いかと思っていると、日本軍戦闘機の増援が到着した。
「あれは、旧型機か?」
到着したのは、日本軍九七式戦闘機だ。小回りは効くが速度は遅く、このMig-3にとっては格好の餌食だった。
ベズルコフ大尉は帰りの駄賃に、九七式戦闘機を何機か撃墜することにする。新型機18機で敵を1機も撃墜できないなど、あってはならない。
Mig-3戦闘機6機が九七式戦闘機に襲いかかる。速度を活かした一撃離脱だ。そして、最初の一撃で2機の九七式戦闘機が被弾した。
幸い撃墜は免れたようだったが、Mig-3はさらに九七式戦闘機に襲いかかる。
「ちっ!お前達の相手はこっちだ!」
槇村は九七式戦闘機に襲いかかるMig-3に対して、小隊機を引き連れて攻撃を仕掛ける。そして、1機撃墜することが出来た。しかし、まだ敵は諦めていない。執拗に九七式戦闘機を追い回している。
九七式戦闘機を守ろうと思うと、どうしても高度を下げ、速度も落としてしまう。やはり性能差がありすぎる友軍機は足手まといだ。
「こちら槇村大尉。宇藤大尉、すまない、退却をしてくれ」
宇藤大尉は、自分たちが足手まといになっていることをすぐに理解した。
宇藤大尉は悔しさで唇を噛む。宇宙軍が来てから、我々も触発されて必死に訓練をしてきた。しかし、機体の性能差は圧倒的に超えることの出来ない壁だった。
敵を目の前にして逃げるなど、日本軍の兵士にとって死ぬことよりも辛い。しかも、好意を持っている女の目の前だ。しかし、撤退しないと友軍の足手まといになってしまう。
出撃は航空隊司令の命令だが、その後の戦闘の判断は中隊長である自分に任されている。宇藤大尉は断腸の思いで決断をした。
「こちら宇藤大尉。りょ、了解した。申し訳ない」
「こちら槇村大尉。助か・・キャッ!」
「槇村大尉!どうした!槇村大尉!」
最後に槇村大尉の悲鳴が聞こえ、通信が切れた。宇藤は槇村が被弾したのでは無いかと思い、あたりを見回す。
すると、機首付近から煙を吐きながら降下していく十一試戦闘機が目に入った。
「槇村隊長機が被弾した。全機、隊長機に敵機を近づけさせるな!」
無線から宇宙軍の浅野少尉の声がした。通常陸軍や海軍であれば、僚機の一機が被弾したとしても、全機で守るようなことはないが、十一試戦闘機はできればソ連軍に渡したくはない。高城大佐からは、万が一の時は機体を捨ててかまわないと言われてはいるが、なんとか槇村機を友軍の支配地域まで帰還させたかった。
「くそっ!俺のせいだ!」
宇藤大尉は自分たちを援護するために高度と速度を落としてしまい、被弾したのだと思った。
槇村機はエンジンの出力が上がらないのか、徐々に高度を下げていく。操縦は出来ているので、生きていることは間違いない。
「宇宙軍を無事に帰還させるぞ!秘匿兵器を敵に渡すな!宇藤隊、全機続け!」
宇藤大尉は自分の中隊を引き連れて殿(しんがり)を務める。例えどんな犠牲を払ってでも宇宙軍を基地に無事に返すことを決意する。
ソ連軍機も、無理に十一試戦闘機を追おうとしなかった。新型機であるMig-3にこれ以上損害を出すのはまずい。ならば、旧型機を何機か撃墜して帰投することにした。
――――
「槇村隊長!大丈夫ですか?」
「こちら槇村大尉。無線ではまず自分の官姓名を言え。体は問題ない。エンジンに被弾した。今は滑空状態だ」
現在高度は3,500m、速度も320km/h出ているので、滑空状態でもなんとか基地の近くまでは帰れるだろう。
しかし、体は問題ないと言ったが、右肩に痛みがある。キャノピーにヒビが入っているところを見ると、破片が当たったのかも知れないと思った。
「浅野少尉です!申し訳ありません。基地まで護衛させていただきます!」
「浅野少尉と大島少尉は護衛を頼む。浜村小隊と山名小隊は戦闘に戻れ。九七式だけでは荷が重い」
「し、しかし槇村隊長!」
「これは命令だ。今からの指揮は山名中尉が執ってくれ」
「こちら山名中尉。了解しました!」
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