第128話 スペイン内戦

1936年7月


<スペイン内戦>


 史実通り、スペインにて内戦が発生した。


 左派色の強いアサーニャ政権に対して、右派のフランコ将軍が反乱を起こしたのだ。


 この内戦に対して政権側をソ連が支援し、フランコ将軍側をドイツとイタリアが支援をした。そして、ソ連とドイツはそれぞれ自国の兵器を投入し、さながら新兵器の実験場といった様相を呈していた。


 今世の日本でも、アサーニャ政権と外交関係を持ち承認していたが、ソ連に対して接近していったため、反共の立場から少し距離を置くようにしている。


「平和的な解決を望む」


 日本は国際連盟を通じてコメントを発表するにとどめ、基本的に静観の立場をとった。


 ――――


「どうだ?メッサーシュミットは確認できたか?」


「ああ、写真に収めることが出来たよ。そっちはどうだった?」


「BT戦車やT26が確認できた。それ以外に、BT戦車を一回り大きくした戦車があった。砲塔も大きく60mmから70mmくらいを積んでいる感じだったな。ソ連の新型かも知れん」


 日本とロシアは、このスペイン内戦にスパイを大量に送り込んでいた。ソ連とドイツが義勇軍という名目で武器と兵士を送り込んでいたので、その情報収集にあたらせるためだ。


 そこで撮影された写真や動画が宇宙軍本部に送られてくる。


 ――――


 宇宙軍本部


「T34に似ているな・・・」


 史実では、ソ連のT34は1934年から構想が始まり、スペイン内戦の戦訓を取り入れて1937年から本格的な開発が開始されている。しかし、どうやら史実よりも兵器の開発が加速されているようだった。


「ドイツも三号戦車に近い戦車を投入してきてる・・・」


<ベルリンオリンピック>


 1936年8月


 高城蒼龍は日本のオリンピック代表団に参加して、ヒトラーの顔を拝んでやろうと思っていたが、リリエルの存在に気づかれてはまずいので同行を断念していた。


「ヒトラーはどんなヤツだった?」


「結局遠くからしか見ることが出来なかったけど、ヨーロッパ諸国の代表選手団とは、楽しそうに談笑していたな。有色人種の代表団とは全くだったけど。レニ・リーフェンシュタールとも話をしたよ。彼女は知的で優秀な人だね。”このオリンピックでは様々な民族が活躍しているがどう思うか?”って聞いたら”素晴らしいことだ”と言ってたよ」


 オリンピックを終えて帰国していた大岬少佐に話を聞く。大岬少佐は、日本代表サッカーチームを率いて、オリンピックを戦ってきた。


 史実でも、ヒトラーは白人のメダリストには月桂樹を授けるなどしたが、有色人種のメダリストには接触をほとんどしなかったとされる。


 今世では、ドイツと日本は外交関係を維持してはいるが、ドイツのユダヤ人迫害を強く非難しているので、両国関係が良好とは言えなかった。


 また、日本とロシアは積極的にドイツに在住しているユダヤ人の海外移住を後押していた。この頃のドイツは、ユダヤ人を迫害してはいたが国外への移動は自由で、むしろドイツから出て行くユダヤ人を歓迎していた。まだこの頃は収容所に送り込むと言った施策は実施しておらず、ドイツからユダヤ人を追放することを優先していたのだ。


 ドイツから脱出したユダヤ人は、ほとんどがアメリカへの移住を希望したのでその手配をおこなった。受け入れる側のアメリカ世論は微妙な反応だったが、国際ユダヤ資本がユダヤ人の保護に乗り出したので、多くの人たちが無事にアメリカに移住することができた。


 その中には、原子物理学を研究している優秀な研究者達も含まれている。


 当時、アメリカでブラックホールや中性子星の研究を行っていたロバート・オッペンハイマーは、ドイツから移住してきた優秀な研究者達の引き抜きを行った。そして、オッペンハイマーの研究は様々な“成果”を出していく。


 ――――


「優秀な科学者をアメリカに送ったら、核兵器の開発とか加速されない?」


 リリエルが“大丈夫なの?”という表情で聞いてくる。


「その可能性は否定できないけど、本人がアメリカ行きを希望しているのに、それを妨害するようなことは出来ないよ。それに、核兵器開発の中心人物のオッペンハイマーはもともとアメリカ生まれだしね。去年にはアインシュタインも既にアメリカに移住してるし、どうしようもないかな?」


「あぶないヤツはみんな暗殺しちゃえばいいのに」


「おまえなぁ、時々過激なこと言うよね。天使にとっては人間一人一人の命は軽いのかもしれないけど、同じ人間同士だとそういうわけには行かないの。殺人鬼や戦争状態にあるとかならともかく、今は平時なんだよ」


「人間には面倒くさいルールがあるのね」


「まだ何もしてない人間を暗殺するなんてダメダメ。犯罪係数が高いってだけじゃだめなんだよ。わかった?」


「あんた、甘いわよ」


「ソドムとゴモラを滅ぼした連中が言うと重みがあるね。女子供もまとめて滅ぼしたんだろ?」


 高城蒼龍は不快感を込めてリリエルに問いかける。


「えっ?何言ってるの?あれは隕石の落下による自然災害よ。私たち、何もしてないから」


「えっ?そうなの?てっきり神様や天使がやったんだと思ってた・・・」



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