第125話 ラヴレンチー・ベリヤ(1)

※ご注意※

ソ連共産党の幹部だったラヴレンチー・ベリヤが実際にやっていたことを下敷きに物語を書きます。本当に胸くその悪い話です。苦手な方は読まない方が良いかも知れません。


1936年6月


 ソビエト連邦コーカサス地方 グルジア(ジョージア)


「同志サアカシュビリ。何か弁明はあるかな?」


 薄暗いNKVD(チェーカー・秘密警察)の取調室で、顔を青紫に腫らした男が椅子に縛り付けられていた。


 ※1934年にチェーカーはNKVD(内務人民委員部)の一部門である国家保安総局と改編された。


「ど、同志ベリヤ。誤解だ。私は反革命勢力と通じてなどいない・・・・・・・」


「ほほう、そうですか。まだ正直にしゃべらないのですね。残念ですねぇ。それではあなたの奥さんも逮捕して聞くしかありませんね」


「なんだと?妻はただの労働者だ!そんなことをするわけがないだろう!」


 ――――


「ご主人が反革命の容疑で逮捕されました。反革命勢力と繋がりがあった様なのですが、何かご存じではないですか?」


「そ、そんな・・・あの人は誠実な共産主義者です。いつも労働者のためを思って働いているんです。そんな事をするはずがありません!」


「そうですか。いずれにしても奥様にも話を聞きたいのでご同行願えますか?」


 いつものベリヤの手口だ。美しい女性を見つけては夫や父親を逮捕して、助けて欲しかったら“言うことを聞け”と脅迫する。


「ほ、本当に夫を助けていただけるのですか・・?」


「もちろんだ、私を誰だと思っている」


 こうしてベリヤは今日も陵辱を楽しむ。


 ベリヤに目を付けられて、帰ってきた者は一人も居ない。ほとんどが処刑され、運が良ければシベリア送りにされる。そして、次の春までには皆死亡するのだ。


 ――――


「ちっ。いくら美人でも中古はいまいちだな。最後まで声を出しやがらなかった。他の女達は夫の為ならもっと腰を振るぞ。しかも、あのゴミを見るような視線。まったくむかつく」


 ベリヤは二人の死刑執行書にサインをして、NKVDの建物を出た。そして、運転手に命令して“街の視察”に行く。


「同志ベリヤ。今日はどちらの“防空陣地”の視察をされますか?」


「そうだな。市場の近くに行ってもらおうか?」


 市場の近くなら若い女が多いはずだ。ベリヤは今日中に“口直し”をしたかった。


 ――――


 しばらく視察をしていると、一人の少女がベリヤの目にとまった。少女はスカーフをかぶり、不安そうに辺りを見回している。


「おい、止めろ。あの不審な動きをする女を尋問する」


 運転手はベリヤの指示に従って、少女の近くで車を止める。


 小柄で細身の少女だった。スカーフをかぶっているので顔はよく見えない。しかし、ちらちらと見えるその鼻筋やあごから頬への輪郭は、とても美しい物のように見えた。


 ベリヤは少女に近づき、少女の頭からつま先までをいやらしくなめ回すように凝視しする。


 実際に近くで顔を見るまでの期待と不安。それはベリヤにとって未知の宝を発見するまでの冒険者のようなときめきの時間だった。


 スカーフで顔がよく見えないと、近づいたときに期待ハズレだった事が多々ある。その時の落胆は一言では言い表せない。しかし、それが素晴らしく美しかったときの喜びは、それはそれはなんとも言えない極上の瞬間なのだ。


 “こ、これは・・・なんと可憐な・・・・”


 少女は16歳くらいだろうか。ブラウンの少しウェーブのかかった髪に、透き通るような白い肌。そして吸い込まれるような碧眼。まるでルノワールの絵画から抜け出してきたような、妖精のような少女だった。


「どうしました、お嬢さん。そんなにキョロキョロして、なにかお困りのことでもありましたか?はぁはぁ」


 ベリヤは胸のときめきを抑えることが出来ない。心拍数がはげしく上がっているのがわかる。それはまるで、初恋をしたときのような純朴なときめきに思えた。


 少女は“はっ”として一歩後ずさりした。そして、ベリヤを不安そうな表情で見上げて、


「いえ、その、何でもないです・・・」


 少女はそういって、肩から下げているポーチを背中側に移動させ、ベリヤから見えないようにする。しかし、その動作はあからさますぎた。


「そんなわけは無いでしょう?そのポーチには何が入っているんですか?」


 そう言って少女の手を掴み、待たせてある車に連れ込む。


「さあ、そのポーチを見せなさい」


 ベリヤは少女の細い手首を強く掴んだ。ちょうど少女が痛みを感じて顔を少し苦悶させるくらいの力だった。


「や、やめて・・ください・・・痛い・・・」


 少女はベリヤから顔を背ける。健気に表情を作っているが、掴まれている痛みを隠す事は出来ていない。


 自動車の後席に並んで座っているベリヤは、顔を背けた少女の首筋から鎖骨にかけて、なめ回すように何度も凝視した。そして、鎖骨の下をのぞき込むが、服に隠れてそこは見えそうで見えない。


 ベリヤの興奮は絶頂に達していた。



※ラヴレンチー・パーヴロヴィチ・ベリヤ

ソビエト連邦閣僚会議副議長・内務大臣などを歴任

史実では、ベリヤが国家反逆罪で逮捕された際、裁判の過程で100人以上の女性に対する強姦と、数十人の女性の殺害が明らかになっている。ソ連において、政治家が失脚し粛正されたとしても、このような破廉恥な犯罪が表に出ることはあまりないが、ベリヤの場合、犠牲者の数があまりにも多かったので、表に出さざるをえなかったとも言われている。


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