第126話 ラヴレンチー・ベリヤ(2)

※ご注意※

ソ連共産党の幹部だったラヴレンチー・ベリヤが実際にやっていたことを下敷きに物語を書きます。本当に胸くその悪い話です。苦手な方は読まない方が良いかも知れません。



 ベリヤは少女を秘密の尋問室に連れて行く。


 窓も無く、薄暗くなんとも言えない悪臭に香水を振りかけたような匂いのする部屋だった。その部屋の壁は、何カ所か塗り直された跡がある。


 ※史実では、ベリヤの使用していた建物の壁から、多数の人骨が発見されている。そして、2001年にも建物の改装で、少女の物と思われる人骨が発見された。ベリヤは、自分自身で殺害した少女を壁に埋め込むことが趣味だったとも言われる。「デイリー・テレグラフ(UK)スターリンの堕落した死刑執行人より」


 少女のポーチからは、意味を成さない文章が出てきた。軍服を着た30歳くらいの男からお金と一緒に渡され、市場の端にある八百屋でニンニクを買い、店の店主に渡すように言われたらしい。何か暗号での指示書のようだ。ソ連軍が作戦の一部としてやっているのか、それとも、ソ連軍に偽装した反革命勢力がやっているのかはわからないが、八百屋を締め上げれば何か判るだろう。そんなどうでも良いことより、今は目の前の少女で楽しむことが先決だ。


「いやっ!」


 少女は激しく床に転げた。そして半身を起こし、ベリヤから遠ざかるように後ずさりする。


「おっと、これはいけませんね。傷を付けるところでした。私は美しい物が大好きなんですよ。その美しい物が恐怖の表情を浮かべ、私に許しを請いながら私の言うことを聞くのです。ああ、なんと素晴らしい!」


 少女の顔は恐怖に支配されている。ベリヤは、その表情を見てさらに興奮した。


「さあ、全部脱いで下さい。言うことを聞けば痛いことはしませんよ。私は紳士なのですから。あ、靴だけは脱がないで下さいね」


 ※ベリヤは少女を靴だけにして陵辱するのが趣味だったとされる。「デイリー・テレグラフ(UK)スターリンの堕落した死刑執行人より」


 少女はゆっくりと立ち上がり、恐怖の視線をベリヤに向ける。そして、震える手でそのボタンをひとつひとつ外していく。顔は涙と鼻水でくしゃくしゃになっていた。


「ゆるして・・・ください・・・」


 しかしベリヤは当然許さない。早く脱げと促した。


 少女が靴だけを残して全て脱ぐのを、ベリヤは目の前でじっと見ている。


 “ああ、なんと至福の刻”


 ベリヤは靴だけになった少女を抱きかかえ、ベッドに放り投げる。少女はベッドの上で体を小さく丸め、ベリヤに背を向けて横たわった。そして、毛布を引っ張り少しでも自分の体を隠そうとしている。


「さあ、そこで待っていなさい。すぐにかわいがってあげますよ」


 そういってベリヤは服をすべて脱ぎ、ベッドに近づく。そして毛布をはぎ取り、少女の上に覆い被さった。


「うぐっ・・!」


 ベリヤは左の首に痛みを感じて体を起こした。右手を首に当てると、そこからは生暖かい液体が激しく噴き出している。


“そんな・・・武器など、持っていなかったはず・・・”


そしてベリヤは、視界が真っ暗になりベッドの下に転げ落ちた。


 返り血を浴びた少女はゆっくりと体を起こす。その右手には、刃渡り10センチほどの折りたたみナイフが握られていた。


 ベリヤの左首からのど笛にかけて一気に切り裂いてやった。頸動脈も確実に切断したので、ベリヤはほとんど痛みを感じることも無く地獄に落ちただろう。唯一それだけが悔やまれる。


 “もっと苦しませてあげたかったわ”


 少女の名はカティア・アナニアシヴィリ。KGBの中でも暗殺を専門にする部署のエージェントだ。10年前、ベリヤによる粛正で両親と兄を殺された。当時9歳だった自分だけ、脱ソ機関によって逃げることが出来たのだ。


 そしてKGBの調査により、ベリヤが若い女性を陵辱して殺害していることがわかったので、この作戦に志願した。


 何に使うのか判らないが、桶に水が汲んであったのでカティアは薄汚い男の返り血を洗い流す。全て脱がされていたので、服が汚れなくて幸運だった。


 ベリヤは、この尋問室には警護をつけていなかった。ここに連れて来るのはか弱い少女ばかりだったし、それに、自分自身の高尚な趣味を誰にも邪魔されたくなかったからだ。


 カティアは服を着て尋問室を後にした。自分でも気づかないうちに、小さい頃村で聞いたジョージアの民謡を口ずさんでいた。


 ――――


「ベリヤの暗殺に成功したよ。これで、こいつの被害に遭う女性が無くなるね。それに粛清が止まれば何十万人もの人を救うことができるかも」


 ロシアの有馬公爵から高城蒼龍の所に電話が入った。


「すごい!あいつの粛清で多くの人が殺されてたからね。でも、共産党の高官だから警備も厳しかったんじゃ無いの?」


「まあ、そこはKGBの能力の高さかな。しかし、ベリヤがしてきたことをアナスタシアに教えたら、ものすごく憤慨していたよ。すぐに侵攻して虐げられている女性たちを救うって」


「ははは、アナスタシア様らしい。でも、その気持ちはわかるよ。はやくなんとかしたいね」


「ああ、それも、もうすぐだな」


「そう、もうすぐだ」



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