第120話 最終兵器(2)

『“もう、あのような悲劇を繰り返しては”・・・か。なるほどなぁ』


石原莞爾は高城蒼龍の発言を聞いて、一人ニヤリと口角を上げる。石原は、以前から推測していた事がおそらく事実なのだろうと確信を得た。


“まるで空想科学小説の主人公”


そう思っていたが、“まるで”ではなく“まさに”だったのかと。


しかし、石原はその事についての質問はしなかった。近いうちに機会はある。こんな大人数の場所ではなく、確実に聞き出せる状況を作ってからだなと思う。


――――


会議室の後ろのドアが開き、別室にいた天皇が入室してきた。


「皆、そのままで」


天皇は会議室の一番奥の椅子に座る


「最終兵器の開発を命じたのは朕だ。人類は遅かれ速かれこの最終兵器を手に入れる。それを使わせないためには、同じ力を持っていなければならない。現実として、最終兵器に対抗できるのは最終兵器だけだ」


全員、固唾を飲んで天皇を見る。


「しかし同時にそれは悪魔の選択でもある。最終兵器を使う者があれば、そのものに対して使う覚悟がなければならない。使う意思がないと思われては、愚行を防ぐことは出来ないからな。この最終兵器の使い方、実際に爆発させるのではなく、持っているという事実をいつ公開し、それをどのような交渉材料に使うかは、朕が決定する」


新型爆弾の威力についてはまだ半信半疑だが、天皇の決意に満ちた表情と言葉は、そこに居る者に対して強く訴えかけた。


“陛下はご覚悟を持たれている”


「そこでだ、皆に伝えたい。宇宙軍の技術で、特に流出してはならないものは半導体技術だ。これを見てくれ」


天皇はポケットから小さな電子部品を取り出す。それは軍服に付ける襟章と同じような大きさ形をした黒いプラスチック部品だ。


「これは半導体演算装置という部品だ。この中には真空管と同じ働きをする部品が700万個入っていて、1秒間に200万回の計算ができる。このような部品は、高城の前に置いてあるコンピューターにも入っていて、その計算力によって新兵器の開発を加速させることが出来た。もちろん、新型爆弾の開発にも使われている。そして、この様な部品は、レーダー・射撃統制装置、エンジン、新型戦車、ミサイルと、あらゆる所に組み込まれている。この技術をアメリカやソ連・ドイツに流出させては絶対にならぬのだ」


一同、天皇の持つ黒いプラスチック部品に注目する。“700万個?”“200万回?”またまた大きい数字が出てきた。皆、真空管は見たことがある。しかし、それと同じ働きをする部品が消しゴム一つより小さい物の中に700万個と言われても、にわかには信じられなかった。


「ヒトラーは再軍備を開始し、着々と戦争の準備を進めておる。今のところ、これを止める有効な手段はない。ソ連に関しては言わずもがなだ。両国は5年以内には必ず暴発するだろう。もちろん、それを止める努力はする。しかし、万が一の時には彼らと対決せねばならぬ。そして、日本は勝たねばならぬのだ。今後、宇宙軍の開発する兵器を戦力化するために、陸海軍から人員を回してもらうことになる。そして、宇宙軍の兵器は国境付近には、朕が許可するまで絶対に配備してはならぬ。万が一にも、他国に鹵獲されるようなことがあってはならぬからな」


大規模集積回路は、万が一鹵獲されても解析に時間がかかるだろうが、各種兵器には解析が比較的簡単なトランジスタや、トランジスタを数個プリントした程度のICが組み込まれている。これらが流出しないために、国境付近への配備は硬く禁止された。


こうして、今後5年間で実用化できる兵器の一覧と、その開発スケジュールが提示された。この資料を基に、用兵や運用を検討していくことになる。


そして、数度にわたる検討会の結果、海軍の艦隊計画については以下のことが決定された。


■大鳳型空母5隻と赤城・加賀による空母打撃群七個戦隊の創設

■空母赤城・加賀の近代改装

■戦艦を全廃し、その要員を空母打撃群に異動させる

■現有の重巡は、20cm単装砲二基を標準とした改装を実施し、後部にヘリコプター格納庫を設置する

■現有の軽巡は、127mm速射単装砲一基もしくは二基に改装し、後部にヘリコプター格納庫を設置する(ヘリコプターに関しては、一部非搭載あり)

■2,000トン以下の駆逐艦および水雷艇は沿岸警備用を除いて原則廃止

■4,000トンクラスの軽巡洋艦の拡充を急ぐ

■現有の重巡および軽巡には、レーダー射撃統制装置や35mm機関砲、ミサイル発射装置・ソナーなどを搭載

■新型潜水艦隊の創設

■その他、補助艦艇の充実


事情を知らない海軍幹部からは、戦艦の全廃に対して猛反発があったが、天皇が“統帥権の発動”を行い強行することができた。


また、ターボプロップエンジンを搭載した地上攻撃機や戦闘機の開発を、陸海軍と共同で行うことになった。


――――


アメリカ ホワイトハウス


「大統領閣下。ロンドン海軍軍縮委員会からの資料について、ご報告がございます」


海軍長官がルーズベルト大統領の執務室を訪れる。


「日本の艦艇保有の申告ですが、不自然な点があります。日本は保有戦艦を全廃して、10万トンの超大型空母2隻の保有を申告してきました」


「なんだと?戦艦の全廃と10万トンの空母だと?あんな黄色い猿に10万トンの空母を建造できるのか?」


「はい、大統領閣下。現在情報部門に調査をさせていますが、どうも船体はアメリカで建造されたようです」


「アメリカでだと?どういうことだ?日本の空母を作るような裏切り者がいるということなのか?」


「いえ、もともとロシアの海運会社が大型貨物船として発注していた物を、進水後日本が買い取り改装したようです。同型艦を含めて五隻が日本に渡っておりますので、今回申告のあった二隻に加えて、あと三隻が空母に改装される可能性があります」


「日本め、一体何を考えている?その大型貨物船を建造した会社を洗え!日本とつながりがあるのではないか?」


日本の空母打撃群は、小さくない波紋を広げていった。

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