第119話 最終兵器(1)
「これが、現在宇宙軍で開発中の“最終兵器”です」
実写では無く精巧なアニメーション映像が映し出される。
ディスプレイには、森の中の地面に金属製の蓋のような物が見えた。そして、その蓋が横にスライドし、白色のとがった円錐状の物が見えてくる。
すると円錐状の物体の周りから炎と煙がはげしく吹き出し、その物体はゆっくりと浮上していった。
それは巨大なミサイルだ。
そして視点が変わり、地球が映し出される。日本から発射されたミサイルが弾道軌道で大気圏を抜け、そしてアメリカに向かって落下していく。
一同、これが最終兵器かと感嘆の声を出す。ロケット兵器を巨大化し、世界中のどこにでも攻撃をかけることが出来るのであれば、空母も飛行機も必要なくなる。
しかし、疑問もある。一発や二発、いや、数十発を打ち込んだとしても都市機能を止めることは出来ないだろうし、敵国の戦意をくじくことはできまい。それこそ何万発も打ち込めば別だが、これだけのロケットを何万発も用意するのは現実的では無い。それこそ無尽蔵の資源と予算が必要になってくる。
画面に映し出されるミサイルは、みるみるアメリカの東海岸に近づいていく。そして、画面がニューヨークを遠くから見下ろす視点に移り変わると、空から白い尾を引きながら光点が降りてくるのが見えた。先ほどのミサイルだ。そして、そのミサイルは上空1,000mくらいの所で巨大な光の球に変わる。
アニメーション映像からでもその禍々しい迫力が伝わってきた。
光の球はマンハッタン島全てを包み、数キロ離れた場所にある家屋や木々が一瞬にして燃え上がった。人々が熱線によって焼かれていく様子がアニメーションで再現される。続いてすさまじい衝撃波が周りの建物を粉々に粉砕していく。巨大なコンクリート造りのビルも、ひとたまりも無く吹き飛ぶ姿は妙に現実感は無いのだが、えもいわれぬ恐怖心に襲われる。
全員、瞬きもせず画面を凝視していた。
そして光の球が巨大なキノコ雲に変わり、対流圏を越えて成層圏に達する。
画面は宇宙からの視点に切り替わり、アメリカ東海岸でキノコ雲の頭が宇宙空間に達しようとしている映像が流れた。
続いてアメリカ各地からも、さきほど発射されたものと同じようなミサイルが何十発も飛び立つ。それは、日本やロシア・清帝国に降り注ぎキノコ雲を発生させる。そして、さらに生き残った日本軍地下基地から、最後のミサイルが全て発射され、アメリカと、その同盟国の空をめがけて飛んでいった。
キノコ雲の煙によって、灰色に染まった地球をバックにテロップが流れる。
“最終戦争開始より30分 死者 6億5000万人。 大気中に巻き上げられた粉じんは何十年間も太陽光線を閉ざし、寒冷化による食糧不足で人類文明は滅びる”
皆、わなわなと震えている。アニメーションは非常に精巧に作られており、現実と思わせるには十分だった。
これが最終兵器?これが人類最後の戦争の形態だというのか?今現在宇宙軍で開発中と言っていた。すると、数年後にはこのような事が現実になると言うことか?人類は、人類自らを滅ぼす兵器を作ってしまうのか?
「恐ろしい映像だったが、このような兵器を本当に作ることが出来るのか?今の映像だと、TNT火薬の何百万倍もの威力があるように思える。さすがにそれは現実的では無いと思うのだが・・」
山本中将が声を震わせながら質問をする。皆、映像の迫力に唖然としていたが、山本中将の言葉を聞いて、確かにこれは現実的では無いと思う。宇宙軍の技術を表に出したくないが為のブラフなのではないかと。
「いえ、これは現実に起こりうる未来です。このままでも、あと10年以内にはアメリカとドイツで実用化されます。もし、宇宙軍の技術が流出することによってこの開発が早まってしまうとしたら、人類は必ずや凄惨な結末を迎えることでしょう。ヒトラー・スターリン・ルーズベルトは、この力を手にしたなら、敵対する相手に対して躊躇無く使います。決してそのような未来にしてはならないのです」
史実では、1902年にラザフォードによって核分裂(核変換)が予言され、1907年にはアインシュタインがe=mc^2の式を発表し、核分裂によって莫大なエネルギーを取り出せる“可能性”のある事が、一部の科学者の間では既に知られていた。1935年のこの時期は、ドイツ・オーストリア・ポーランドの科学者達によって、核分裂を成功させるための実験が繰り返されている。彼らは、核分裂によって石油や石炭に代わる、全く新しい強力なエネルギー源を手にすることができると、輝ける未来を想像して研究に取り組んでいたのだ。
そして、今世でも、同じ発見がされている。
「詳細な仕組みは明かせませんが、宇宙軍で開発をしている爆弾は、TNT火薬の500万倍の威力があります」
そこにいる全員が顔をこわばらせる。TNT火薬の500万倍の破壊力が本当にあれば、もはや地球上から戦争が無くなるのでは無いか?理性ある指導者であれば、この最終兵器を使用するような愚行は犯さない。この兵器を持っている国へ戦争を仕掛けるようなことも出来なくなる。そして、この爆弾を複数の国が持つようになれば、些細な軍事衝突が最終戦争に発展してしまう恐れが出てくる。もし使ってしまえば、その報復で自分自身も消滅してしまう・・・・・。理性のある指導者であればだが・・・・。
宇宙軍では、プルトニウムと重水素を使用したブースト型原爆と水爆の研究がされていた。これは、少量小型で高威力を出すことが出来ることと、プルトニウムの使用量を最小限に出来るので、放射能汚染が少なくなるためだ。
「まるでソドムとゴモラだな・・・・・。なるほど。アメリカやドイツが開発する前に完成させてしまいたいのか。そして、その最終兵器で脅して、開発を止めさせると?いや、世界征服でもするつもりかい?高城少佐は、ヤハウェ(神)にでもなるつもりか?」
石原莞爾が、いやらしい笑みを浮かべながら問いかけてくる。
「ドイツのヒトラーについては、新型爆弾を見せつけて脅迫したとしても、開発を止めることはしないでしょう。スターリンについても同じ事が言えます。アメリカは、現時点では国民が戦争を望んでいないのでどうなるかは不透明ですが、ドイツやアメリカ・ソ連が新型爆弾を開発したとして、我が国が同じ物を持っていなければ何の抑止にもなりません。我が国と領土問題を抱えるソ連は、躊躇無く我が国に使用するでしょう。一方的に数百万・数千万人の日本国民が殺されてしまいます。新型爆弾によって、日本が、世界が蹂躙されることだけは、何としても止めなければならないのです!この地球上で、新型爆弾が使用されるようなことはあってはならない!もう、あのような悲劇を繰り返しては絶対にならないのです!」
高城蒼龍は転生してから、核の惨禍を回避するためにはどうすれば良いかずっと考えてきた。第二次世界大戦が起こらなくても、ドイツやアメリカでは1945年頃には核兵器を完成させてしまう。ヒトラーがそれを手にしたなら、必ずや使うだろう。だからといって日本が核兵器を持つことが正しいのか?しかし、どうやったらそれを防ぐことが出来る?核兵器を開発される前に攻め滅ぼすのか?そんな無法が許されるのか?
35年間も考え続けたが、それは結論に達することはなかった。
高城蒼龍は、気づかぬうちに涙を流していた。それは21世紀を生きる日本人として、核兵器の惨禍を決して繰り返してはならないという強い誓いがそうさせていた。
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