第118話 スーパーキャリア(7)

 その戦車は直線を基調としながらも、砲塔のサイドは先頭から後ろにかけて厚みを増し美しい線を描いている。車体は大きいが全高は低く抑えられていて実に機能美にあふれる姿をしており、そして、長砲身の戦車砲がどんな敵でも粉砕する事を容易に想像させた。


 “かっこいい・・・・”


 そこに居る全ての人間の目は、六試主力戦車に釘付けになった。合理性を追求し、陸上に於いて最強であることだけを目指した姿がそこにある。


 不整地を時速60kmで走ることのできる強力なエンジンとサスペンション。ぬかるみでも埋まることの無い幅広の履帯。敵からの発見を難しくする低く抑えられた車体。駆逐艦の高角砲を思わせる長砲身の戦車砲。全てが完全に調和した、まさに究極の戦車に思えた。


 装甲の厚さが500mmで、実質800mm相当の防御力があるというのであれば、対戦車戦なら無敵だろう。敵歩兵が近づこうと思っても、不整地で60km/hも速度が出るのであれば取り付くことは困難だ。塹壕や機関砲陣地も軽々と蹴散らすことができる。


「これだけ装甲が厚いのは成形炸薬弾対策と言うことかね?しかし、成形炸薬を防御するためには、装甲から少し離して薄い鉄板を備えておけば良いのだろう?もっと装甲を薄くして軽量化は出来なかったのか?」


「はい、石原大佐。この車体を流用しながら装甲を薄くした“高機動戦闘車”や“対空自走砲”“自走榴弾砲”も開発予定です。しかし、ソ連やドイツは、おそらく88mm砲や90mm砲を載せた戦車を開発してきます。これらの砲の貫徹力は200mmを超えるので、十分な防御装甲が必要となります。それに、この六試主力戦車は軍団の先頭で最も危険な突貫などの作戦を想定しております。その為の防御力でもあります」


「なるほどな。納得したよ。ところで、105mm砲の威力はどの程度なんだい?」


「はい。105mm砲の実験映像がありますので、こちらをご覧下さい」


 会議室の大型ディスプレイの画面が変わり、コンクリートの土台に固定された105mm砲が映し出される。そして、遙か先に目標物が見える。画面には“距離2,000m”と表示されていた。


 ドーーン!


 発砲音と共に砲口から激しい火炎が吐かれた。そして、1秒少々で目標に着弾する。


 “なっ?”


 何人かの陸軍幹部はこの映像を見て驚きを隠せなかった。弾速があまりにも速い。2,000mを1秒少々ということは弾速1,500m/sほどになる。


 この当時の100mm前後の砲弾は、初速が500m/s程度が一般的だ。高初速を誇る八八式七糎高射砲でも720m/sなので、実にその2倍の速度が出ていることになる。


 画面が切り替わり、標的物が映し出される。正面から映し出された標的物は、後ろまで貫通している。そして材質は鋼鉄であろう事は映像から判った。続いて標的物を横から見た画面に切り替わる。


 “!?分厚い!”


 画面に標的物の厚みがテロップで表示される。


 “300mm 均質圧延鋼”


「こ、これは合成などではなく、本当の映像なのかね?」


 声を震わせながら、西竹一大尉が質問をする。


 当時、西竹一大尉は陸軍騎兵学校の教官となっていた。


「いや、疑ってすまない。宇宙軍から提供されるバイクや車両によって我が軍もずいぶん進化したが、しかし、これほどの戦車が開発中とは・・・・・・」


 宇宙軍の協力によって、陸軍ではバイク(サイドカーを含む)や全輪駆動のトラック・指揮車の導入が進み、騎兵隊と言っても馬はもう使われていなかった。それでもなお、この六試主力戦車の性能は従来の兵器と隔絶していた。


「この六試主力戦車は、初期作戦能力の獲得を1936年末頃に予定しています。また、この車体を流用したその他の車両も順次開発していきます」


「この戦車砲も、レーダーと連動して百発百中になるのかね?」


 石原大佐が質問をする。


「はい、大佐。目視できる範囲であれば、狙いを外すことはありません。自動装填装置を搭載して、1分間に10発の発射が行えます。また、ある程度の速度であれば走行中でも狙いを付けながら撃つことも出来ます」


 1分間に10発撃つことが出来、しかも百発百中。走行中でも射撃ができるなど、皆にとって想像の埒外だ。みな、この戦車がすぐにでも欲しいと思う。


「高城少佐がこれらの新兵器を秘匿したいのはよくわかったよ。こんな兵器をアメリカやソ連が持つことになったら生きた心地はしないね。技術力が同じになれば、生産能力はアメリカソ連の方が何倍も優れている。そうであれば、日本が勝てる道理が無い」


 石原大佐は、宇宙軍の兵器を秘密にしていたことに理解を示す。


「しかしだ、それにしてもここまで厳重に秘匿しながら開発をしていた事の裏には、まだ何か秘密があるんじゃ無いのかい?これらの秘密兵器自体ではなく、もっと秘匿したかった物があるんじゃ無いかと思えて仕方が無いのだが?」


 さすがは陸軍一の切れ者、石原莞爾だ。どちらにしても、ここに呼ばれた幹部には公開する予定の情報だが、それを切り出す前に指摘が入るとは。


「はい、石原大佐。その通りです。絶対に外に漏れてはならない秘匿事項があります」


 大型ディスプレイの画面が切り替わる。


「これが、現在宇宙軍で開発中の“最終兵器”です」


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