第117話 スーパーキャリア(6)
再度会議室に戻る。
「現在、五試戦闘攻撃機の初期作戦能力獲得は1937年の後半を予定しております」
一同“?”と頭に疑問符が浮かぶ。現在は1935年3月だ。超音速で飛行する機体を目の前で今し方見たばかりだが、それの戦力化にあと2年以上もかかるというのはどういうことだろうか?
「あと2年もかかるのか?しかし、今し方飛行している機体に機銃を積めば戦力になると思うのだが?」
山本中将が質問をする。あれで十分なのではないかと?
「はい。機銃のみで良いのなら可能ですが、各種誘導兵器および、他の機体や艦隊とのデータリンクシステムを開発しており、このハードウェアおよびプログラムの開発に時間がかかります。また、搭載する誘導兵器も完成までに2年から3年かかります」
新しい英単語が出てきたが、海軍の幹部は基本的な英語教育を受けているので、なんとなくイメージはできる。
「なるほど。しかし、アメリカやソ連といえどもあれほどの航空機を作ることは、すぐにはできまい。機銃を載せるだけで、相当の優位性があるのではないか?」
「はい。一対一ならそうですが、五試戦闘攻撃機は大量生産できないので、機銃だけでは多くの敵機を相手にすることはできません。しかし、誘導兵器を実装することができれば、一度の戦闘で五試戦闘攻撃機一機あたり八機の敵機を撃墜できるようになります。その能力の獲得にどうしても時間がかかってしまいます。それに五試戦闘攻撃機を作るには、一機あたり駆逐艦二隻ほどの費用がかかります」
“!?”
一同目を見開いて驚愕の表情をする。一機で八機を撃墜できるだと?いや、先ほど説明のあった誘導兵器を使えば可能なのか?それなら、20機の五試戦闘攻撃機があれば、160機の敵機を相手にできるのか?しかし、いくら高性能とはいえ、戦闘機一機が駆逐艦二隻と同じ費用もするとは。
「ですので、少数の五試戦闘攻撃機で敵の重要拠点の壊滅や浸透戦術を行い、レシプロ戦闘機などでそのサポートを想定しております。これをハイローミックス戦術と呼称します」
一同なるほどと納得する。いくら高性能でも、数を揃えられなければいつかはやられてしまう。“戦争は数だよ”ということかと。
「それでは続いて、陸上兵器の説明をします。こちらのディスプレイをご覧ください」
会議室に設置されている大型ディスプレイを皆が見る。そして、高城蒼龍はテーブルに置いてあった大きめの弁当箱のような箱を“パカッ”と開けてなにやら操作を始めた。
皆、何をやっているのかわからなかったが、何かをやっているのだろうと納得することにした。
しばらくすると、富士山をバックに疾走する無限軌道車両が映し出される。
「こちらが、開発中の六試主力戦車になります」
皆、“おお“と声を上げる。特に陸軍の声は大きかった。
大型の転輪を装備し、起伏のある不整地路を60km/hくらいの速度で走り、そしてジャンプまでしている。現在陸軍で主力の八九式中戦車の最大速度は25km/hだ。不整地であれば10km/hほどしか速力が出ない。今ディスプレイに映っている戦車は圧倒的な機動力を見せつけていた。
やはり戦争の主役は陸だ。いくら航空機で爆撃をしたり、艦隊決戦で敵を打ち負かしても、最終的に敵拠点を占領するには陸上戦力が欠かせない。やっと俺たちの出番か!と思う。
「整地での最大速度は70km/h、前面装甲は最大500mm、主砲は105mm戦車砲を開発中です」
またもや一同の頭に“?”が浮かぶ。
前面装甲の500mmというのは聞き間違いだろうか?しかし、今までも信じられないような事ばかりだったのだから、この500mmという数字も正しいのかも知れない。
しかし、どうしても戦車の装甲が500mmというのは、理解できない。現在陸軍で使用している八九式中戦車の前面装甲は17mmだ。それなのに、この戦車は500mmというのか?30倍もの厚みがあるというのか?確か、戦艦長門の装甲でも300mmほどだったはず。それなのに戦車で500mmとは戦艦とでも戦うのだろうか?
陸軍の面々は明らかにおかしいと思いながら、なかなか聞き出せない。“間違いでは無いのか?”と聞いて“間違いでは無い”と否定されるのが恥ずかしい。しかし、やはり確認せねばと誰もが思っていると、
「装甲が500mmとはすごいね。しかし、それだけの装甲があるとかなり重たくなってしまうのでは無いか?」
石原莞爾が発言した。
“おお!さすが石原大佐!うまく聞いてくれた。これで正確な所を確認できるし陸軍のメンツも保てる!さすが陸軍一の切れ者!”
皆が石原莞爾に感謝する。
「はい、総重量は44トンを計画しております。装甲が500mmと言っても全部鋼鉄でできている訳ではありません。複合装甲と言って、鋼鉄、セラミック、空洞などを積層しているので、軽量に仕上がっています。均質圧延鋼板に換算すると、500mmから800mm以上の防御力になります」
一同またまた絶句する。やはり間違いでは無かったのかと。
「こちらが、完成予想図になります」
大型ディスプレイに六試主力戦車の完成予想図が映し出される。
その戦車は直線を基調としながらも、砲塔のサイドは先頭から後ろにかけて厚みを増し美しい線を描いている。車体は大きいが全高は低く抑えられていて実に機能美にあふれる姿をしている。そして、長砲身の戦車砲がどんな敵でも粉砕する事を容易に想像させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます