第116話 スーパーキャリア(5)
「それでは、新型戦闘攻撃機の説明をします」
全員を飛行甲板に案内する。
どこから新型機が出てくるのかと、皆がきょろきょろ見回していると、右舷第二エレベーターから五試戦闘攻撃機が飛行甲板に上がってくる。そして、トーイングカーによって皆の前まで牽引されてきた。
一同またまた絶句する。いったい今日は何回目の絶句だろうか?
まずプロペラが無い。後ろには噴射口の様な物があるので、ここから空気を噴射して進むのだろうと想像はできる。しかし、そんなことで本当にこの大きさの航空機が空を飛ぶのだろうか?全長は16mくらいで戦闘機としては大きい。そして何よりそのとがった機首だ。とがらせた方が空気抵抗は少なくなるのは解るが、ここまでとがらす必要があるのだろうか?
「これは、噴式エンジンですか?」
山本五十六が質問をする。ジェットエンジンについては、イギリスで1929年に特許が出願されており、一部の国では試作が開始されていた。この時点で最も進んでいたのはイギリスで、その情報を山本は知っていたのだ。
「さすが山本中将、その通りです。一目見て噴式エンジン、宇宙軍ではジェットエンジンと呼称していますが、それと理解されるとはさすがです」
山本は高城少佐に褒められて頬を緩めて腕を組んだ。ちょっと偉そうだ。
蒼龍は続けて説明に入る。
「この五試戦闘攻撃機の性能は、最大速度2,100km/h、実用上昇限度15,000m、高度12,000mまで90秒、最大搭載量8,000kgです」
一同またもや絶句する。単位が間違っているのでは無いか?いくら宇宙軍が最先端の技術を持っていると言っても、この性能は、受け入れることは出来ないと自分の常識が言っている。
「いや、その、なんと言えば良いのか・・・、高城少佐。誇張するにしてももう少しそれらしい数字にした方が良いのではないだろうか?欺瞞情報を流すことはあるが、我々は同じ日本軍同士だ。ここでは本当の性能を明かしてはくれまいか?」
小林大将が苦笑いを浮かべながら高城少佐に問いかける。
「いえ、小林大将。数字に間違いはありません」
高城少佐の大まじめな視線に、一同固唾を飲む。
確かにこの巨大空母もすごいが、これは現状の技術の延長線上にあることがわかる。しかし、この五試戦闘攻撃機はどんな技術でできあがっているのか全く理解が及ばない。宇宙軍の創設から15年、最新の技術の研究のみをしてきていたとしても、本当にこんな性能の航空機を作ることができるのだろうか?
「複座型を二機用意しておりますので、源田大尉と加藤中尉に後席に乗って頂きデモフライトをいたします」
源田と加藤がそれぞれ後席に搭乗した。パイロットは安馬野少尉と高矢曹長が務める。
二機はカタパルトにセットされる。そしてエンジンを全開にしてアフターバーナーを点火する。
すさまじい轟音が参加者を襲う。こんな大きい音を出していれば、すぐに接近していることがばれてしまうのでは無いか?大丈夫なのか?そんな考えがよぎる。
そして皆が見守る中、カタパルトによって射出された。
「今回の五試戦闘攻撃機には着艦フックが装備されておりませんので、デモフライト後には、宇宙軍鹿島基地に着陸します。こちらの無線機で、源田大尉と加藤中尉と通信が出来ます。どうぞご自由にお使い下さい」
早速山本中将がマイクを取って源田大尉に話しかける。
「源田大尉、どうだ?速度はどれくらい出ている?」
「はい、今、時速1,500kmです。も、もう、音速を超えています!」
発艦してまだ一分も経っていない。それにも関わらず既に1,500km/hだと?
遠くで二機が旋回しているのが見える。そして機首をこちらに向けて近づいてきた。
『速い!』
芥子粒のように小さかった機体は、みるみる近づいてきて大きくなってくる。
『近づいてきているのにエンジン音が全く聞こえない?』
音速を超えているのだから何も聞こえないのは当然だ。しかし、超音速で飛ぶ航空機など見たことも無いので、無音で近づいてくる航空機に不思議な感じがする。
二機はマッハ1.2ほどの速度で、空母大鳳から500mくらいの場所を通過した。
そして、通過した後少し遅れてすさまじい衝撃波が襲ってきた。それは全身を振るわせ、甲板にたたきつけられそうになる。
山本五十六は、日本海海戦で巡洋艦日進に乗艦していた時の爆発で左手の指を何本か欠損しているが、その時の衝撃を思い出させる物だった。
そして二機は急上昇を始める。ほぼ垂直に上昇し点の様に小さくなった。
上昇に転じる際、機体には約9Gの遠心加速度がかかっていた。通常なら意識を失ってしまう加速度だが、新開発された耐Gスーツによって脳への血流が確保されている。
「うぐぐぐぅぅぅ・・・」
無線機からは源田と加藤のうめき声が聞こえる。
「大丈夫か?源田?返事をしろ!」
「は、はい、すごい加速です。計器では9Gを超えていました。今は、ほぼ垂直に上昇しています。高度7000、8000、、、10,000mを超えました!まだまだ上昇します!」
「もう10,000mだとっ!本当なのか!?」
五試戦闘攻撃機は高度12,000mで一度水平飛行に入る。そして、最大速度の2,100km/hまで加速をし、急激に機首を上げて最高到達高度を目指す。
「本日は、五試戦闘攻撃機の最高高度到達試験を行います。高度12,000mで最大速まで加速し、その勢いのまま上昇を開始します。予定では、高度26,000mまで上昇します」
高城蒼龍が皆に説明をする。
“はっ?高度26,000mだと?”
もう何があっても驚くまいと覚悟をしている面々にも、さすがに動揺がはしる。陸海軍で運用している航空機の実用上昇限度はせいぜい7,000mだ。宇宙軍からのエンジン提供によって10,000mが見えてきた矢先に26,000mまで到達するという。
遙か上空から、“ゴオオォォォォ”というエンジン音が響いているが、もう機体は見えない。
「高度20,000mを超えました!・・・25,000・・・・26,000です!」
源田の興奮した声が無線機から響く。
「空が真っ黒です。太陽は眩しく輝いていますが、空は真っ黒です。眼下には日本列島が見えます。水平線が丸い・・・・・」
源田からの報告が途切れ、呼吸する音だけが静かに響く。
「どうした、源田!報告をしろ!何が見えるのだ!?」
「・・・・・・地球は・・・青い・・です・・・」
二機は勢いを付けたままほぼ垂直上昇で、26,000mに達していた。当然、この高度で水平飛行は出来ないので、すぐに降下を始めることになる。
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