第115話 スーパーキャリア(4)

 キュオーーーーーン


 皆が入室すると、部屋にある機材の電源が入り、インバーターが唸るような音を上げながらディスプレイが次々と光り始める。


 それは、まるで宇宙戦艦ヤ○トの艦橋の計器類が順番に点灯していくような光景であった。もちろんこれは演出だ。


 蒼龍は、斜めに昇るエレベーターも作りたかったのだが、あまりにも実用性がなさすぎてさすがにそれは諦めていた。


 戦闘指揮所には様々な大型ディスプレイが並び、周辺の海図が表示されている。また、甲板の状況や格納庫の様子を写したモニターがある。


「こ、これは・・・」


 大きいディスプレイの一つには、左側に日本列島が表示されている。中央の点が本艦なのだろうと推測はできるが、ここに表示されている範囲が索敵範囲なのだろうか?


「現在この上空に、九十二式大型飛行艇の哨戒機型を数機飛ばせています。そこからのレーダー情報により、概ね、半径400kmの範囲の航空機と船舶を表示しております。この大きい光点が空母赤城ですね。小さい光点はおそらく漁船です。」


「・・・・・・・」


 一同、言葉が出ない。


「こちらのディスプレイは近距離の水上レーダーです。潜水艦の潜望鏡なども探知できます」


 以前、宇宙軍よりレーダー技術の一部開示を受けて陸海軍共に研究を進めてはいたが、ここまで技術力に差があるとは驚き以外の何物でも無い。確かに、研究することによって知見がたまりレーダーに対する理解も深まった。先日は10km先の巡洋艦を探知できたと技官達は大喜びをしていたが、この現実を見せつけられると彼らがかわいそうに思えてくる。しかし、レーダーについて何の知識も無い状態で、この最新鋭艦を開示されても一切理解できなかっただろう。この艦のすごさが理解できるだけ、レーダーの研究は無駄では無かったと自身に言い聞かせる。


「この画面は、ブラウン管なのか?しかし、こんな大きな物があるとは・・」


 ドイツでは1935年4月から一般向けテレビ放送が開始される予定になっており、この当時は研究施設などではブラウン管が使われ始めていた。しかし、どれも最大12インチほどの大きさで、目の前にある50インチもの映像装置は、映画のスクリーン以外想像が出来なかった。


「はい、ブラウン管とは方式が異なりますが、そのような物です。この画面に様々な情報が表示され、ここから戦闘指揮を行います」


「しかし、レーダー波を出すと言うことは、敵からもこちらの位置が判るということではないのか?」


「はい、その通りですが、こちらがレーダー波を出していなくても、敵もレーダーを使っていればどちらにしても位置はばれます。アメリカやイギリスのレーダー技術はまだ宇宙軍のレベルに達していませんが、おそらく数年で近いレベルに達するでしょう。そうであれば、より遠くの目標を正確に探知する能力を向上させなければならないと考えます。また、電波妨害装置も開発中で、敵のレーダーや通信のみ使えないようにできます」


 400km先の敵を発見し、しかも、敵のレーダーや通信を封じることができる。目隠しと耳栓をした相手と野球をするようなものだ。


 皆、これが逆の立場で無くて良かったと心底思う。


「続いて、誘導兵器の説明を致します」


 戦闘指揮所を出て、会議室に移動する。


 テーブルには、ミサイルや魚雷の模型が置いてある。小さい翼が付いているので、全て魚雷だと皆思った。


「まずこちらが開発中の対艦ミサイルになります。“ミサイル”とは誘導噴式弾の総称です」


 ハープーンに酷似した、長さ30cmほどの模型を手に取る。


 全員、黙って蒼龍が持つ模型を凝視する。


「炸薬量500kg、射程は約220km、速度は1,000km/hほどです。海上すれすれを飛行し、レーダー誘導によってほぼ100%敵艦に命中します」


「・・・・・・・・・・・えっと・・・それには人間が乗っている訳ではないのだよね?まさか兵の命を使い捨てにするようなことはあってはならぬからな」


 “兵の命を使い捨て”


 この頃の海軍では“生還を期さない作戦は邪道”という考え方が主流だった。しかし、史実ではこれから9年後、神風特別攻撃隊や、桜花、回天といった兵の命を使い捨てにする作戦や兵器が現れる。


 そこまでしても守りたい人々が居る。それ以外に方法は無かった。その事は理解できる。しかし、そういう手段を執らざるを得ないほどに追い込まれた状況で、死地に向かった若者達のことを思うと、胸が締め付けられる思いがした。


 今世では、このような悲劇は絶対に防がねばならない。


「もちろん無人です。超小型レーダーと電子計算機によって敵艦を識別し、確実に命中します」


 何というか、一つ一つの新兵器に驚くのがばかばかしくなって来る。


「続いて、対空ミサイルの説明をさせて頂きます」


 蒼龍は、少し小さめの模型を手にする。見た目はスタンダードミサイルに酷似している。


「射程は概ね50kmくらいです。時速3,000km以上で飛行し、レーダー誘導によって敵航空機を撃墜します。命中率は開発中なので何とも言えないのですが、80%以上を目標にしています」


 この発言に源田と加藤は背筋が寒くなる。どんなに技術を磨いても、時速3,000kmで追尾してくるミサイルを躱せるわけがない。


 そして、誘導魚雷やその他の開発中の兵器について説明をする。


「これらの兵器は現在開発中ですが、3年以内には量産化のメドがたっています。皆さんには、これらの兵器があるという前提で、艦隊運用や用兵を検討して頂きたいのです」


 一同、なるほどと思う。


 アメリカやドイツ、ソ連に新技術の情報は漏らしたくない。しかし、こういった新兵器のことを知らずに、日本陸軍海軍が旧兵器の拡充を図っても無駄になってしまう。そこで、一部の幹部に新技術を公開して、この技術を使った用兵を取り入れると言うことかと。

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