第97話 情報開示(3)
「へ、陛下。これは、そのぉ・・・」
「ん?どうした?まさか、防諜など一切出来ない料亭で、軍機に関わる事を話したりはしておるまいな?宇宙軍が朕の“おままごと”という話しは、別に軍機ではないので咎めたりはせぬぞ。しかし、清帝国駐留軍やロシア帝国駐留軍に関する軍機については、もし、事実だとすればいただけぬな」
二人の大臣は青ざめる。確かに、料亭でそのような話しをした覚えはある。ちょっと(だいぶ)酒が入ってしまい、お気に入りの芸妓がおだてるので調子に乗って話してしまった。
「陛下。申し訳ありません!臣の不徳の致すところでございます」
「大臣よ。やはり、口が軽い人間には、大事なことを明かすことは出来ぬと思わぬか?スパイを摘発し、防諜の施策について実施を徹底させろ。それが終わったら、責任をとって辞任するが良い」
「はい、陛下。御意にございます!」
陸軍大臣と海軍大臣は、大きな鞄を抱えて大会議室に戻ってきた。
「お、お前達、陛下がご開示していただける情報は、漏らさず頂いて帰るように。それ以上の事は、軍の防諜対策をとってからだ。わかったな!」
会議室にいる将官や将校達にそう伝えると、大臣二人は宇宙軍本部を後にした。
――――
「休憩はもう大丈夫かな?それでは、続けてくれ」
大臣二人が、慌てて退出したことに会場はざわついていたが、天皇の声で静まりかえる。せっかく陛下が用意して下さったこの機会を、無駄にしてはならないのだ。
「ああ、宇垣よ、もう頭を上げて良いぞ」
宇垣大佐は、休憩前から最敬礼をしたまま、微動だにしていなかった。
――――
「それでは、高度10,000mを飛ぶことができる飛行艇は、実在するのでしょうか?」
「はい、実在します。ソ連の飢餓対策の為に建造しました。25機建造予定でしたが、飢餓問題が解決したため、12機の建造で止まっています」
会場からは「おお」「本当だったのか」と言った声が漏れる。
「もしかして、その飛行艇にはレーダーが搭載されているのか?」
艦船に搭載できるとは聞いたが、航空機に搭載できるほど小型軽量化は無理だろうと、ほとんどの者は考えた。しかし、唯一、石原莞爾だけは”当然それもできるんだろう?”といった視線を高城に送っている。
「はい。搭載しています。現状で、航空機なら110km、艦船なら180kmの距離で探知できます」
会場のどよめきはひときわ大きかった。180kmの距離で敵艦を発見できるなら、今までの常識やドクトリンが一切役に立たなくなる。この技術は是非とも欲しい。どうしても欲しい。しかし、大臣は”防諜対策をとってから”と言っていた。天皇陛下の御前でもあるし、無理強いはできない。
「それを、譲ってもらうことは出来ないだろうか?」
参謀本部長と軍令部総長は、意を決して要請をする。
「完成している機体には、高度なレーダーやアビオニクスが搭載されているため無理ですが、建造途中のものなら提供可能です」
一同、「あびおにくす??」と思ったが、誰も質問しないので、自分以外はみんな知っているのかと思ってしまい、恥ずかしくて誰も聞けなかった。
※アビオニクスとは、航空機の航法システム・制御システムの総称
「やはりレーダーは無理か。それでもありがたい。エンジンの提供もしてもらえるのか?」
「はい。電子部品と排気タービンの提供は出来ませんが、機械式燃料噴射装置と二段二速過給器に変更したエンジンを提供できます。試作品に近いので量産には向きませんが、それでも高度10,000mで2,300馬力の出力があります」
可変バルブリフト機能や、ノックセンサーやO2センサーなどを取り外した、モンキーモデルだ。しかし、その現物を手に入れたからと言ってすぐに作れるというわけではない。史実でも日本は、排気タービン装備のB17爆撃を1942年には鹵獲していたが、結局終戦までに排気タービンの実用化には至らなかったのだ。
※モンキーモデルとは、性能を落とした劣化版のこと。
みな、エンジンの提供に色めき立つ。高性能なエンジンが手に入れば、より大型で防御力も高い爆撃機を作ることが出来る。そのままでは大きすぎて戦闘機には向かないが、技術的知見を得ることが出来れば、必ず小型化できる。これで日本の航空技術は大きく進歩すると誰もが思った。
「それでは、陸軍と海軍に提供できる技術の一覧をご用意しました。資料をお配りします」
資料には、以下の技術の提供が記載されていた。
・127mm速射砲の設計図と実物
・成形炸薬弾の設計図と実物
・35mm機関砲の設計図と実物
・建造途中の九十二式大型飛行艇と設計図
・星型18気筒エンジン(二段二速スーパーチャージャー)
・レーダーの基本技術(現時点でのイギリスと同程度)
・鋳造技術(歩留まりを60%程度にまで引き上げる技術)
・高精度な工作機械の設計図と実物
・超々ジュラルミンの製造方法および、プレス技術
・高張力鋼の製造方法および、プレス技術
・その他、いくつかの関連技術
上記のいずれも、高度な電子デバイスは省かれている。万が一情報が漏洩しても、それほど影響のない範囲内だ。ただし、35mm機関砲は銃座を装備し、強力なモーターで上下左右に砲身を動かすことが出来るようにして渡す。日本では、対空銃座は終戦まで、一部を除き人力で動かしていたのだ。35mm機関砲がどんなに優れていても、それを人力で動かしていては、敵機に当てることは非常に難しい。
――――
「それでは、そろそろ解散にさせて頂こうと思うのですが、何かご質問などはありますでしょうか?」
「はい!よろしいでしょうか?」
海軍の源田実大尉が発言を求める。
「海軍航空隊の源田大尉であります。宇宙軍では、小型の練習機を導入していると聞いたことがあるのですが、よろしければ、見学をさせて頂くことは出来るでしょうか?それに、もし可能なら、私も操縦をしてみたいのですが、よろしいでしょうか?」
宇宙軍で使用している練習機はいくつかある。その中で、小型で最も高等なものは、21世紀のエアレースで使われるような、小型高性能なレシプロ単葉機だ。源田は、おそらくその機の事を言っているのだと思った。
「はい、可能です。もしよろしければ、陸軍の方もお越し下さい」
「ありがとうございます。お願いばかりで恐縮なのですが、もし可能なら、宇宙軍のエースパイロットと模擬戦をさせて頂けないでしょうか?ぜひ、高度な操縦技術をご教示頂きたい」
源田は高城の顔を見ながら、不敵な笑みを浮かべる。海軍のエースパイロットと自負する自分が、負けるはずはないという自信だ。
「わかりました。あまり危険のない範囲で模擬戦をお受けいたしましょう」
こうして、海軍からは源田実を筆頭に3名、陸軍からは加藤建夫を筆頭に3名の参加が決まった。
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