第95話 情報開示(1)
「陛下。奏上の機会を頂き誠にありがとうございます。実は、連合艦隊司令の小林中将から、宇宙軍で開発している新型の駆逐艦と飛行艇の技術について、開示頂けないかと相談がありました。宇宙軍では、非常に高性能な兵器を開発しているとのこと。これを海軍でも導入して、より国防を強固にしたいと考えております」
海軍大臣が天皇に、奏上に上がる。
「その件については、高城少佐より聞いている。宇宙軍で開発をしている新技術は、非常に秘匿性の高い物だ。この技術がアメリカやソ連・ドイツに流出してはならぬ。それに、まだ大量生産をする事は出来ぬのだ」
「はい、陛下。アメリカとソ連は判りますが、ドイツもでしょうか?かの国は欧州大戦の敗戦後、再軍備も制限されておりますが」
「今はな。しかし、今年の1月にアドルフ・ヒトラーが首相に就任したであろう。あの人物は危険だ。ドイツの科学力も侮れない。ドイツが新しい技術を手に入れてしまえば、再度、世界大戦が起こる危険が高まると思っている」
「それでは、情報の流出を懸念されて、海軍には開示できないと言うことでありましょうか?」
「そうだな。しかし、新しい技術があるのに、何も知らされないのでは納得がいくまい。開示できる技術は、朕の判断で開示できるよう取りはからおう。それと、何故ここまで秘匿しなければならないのかも、ある程度説明せねばなるまいな。高城達に準備をさせるので、日を改めて宇宙軍の本部に行くがよい。それと、陸軍にも声をかけてくれ。人選は任せるが、軍人のみの参加で行いたい」
こうして、二週間後に陸海軍の将官や技術将校らが、宇宙軍に押しかけることとなった。
――――
陸軍大臣海軍大臣を始め、参謀本部長・軍令部総長らの将官、技術関連の将校・士官の、あわせて32名が宇宙軍を訪れた。
『まるで遠足だな・・・』
その中には、知った顔があった。石原莞爾(大佐)と阿南惟幾(大佐)だ。それに、直接面識はないが、山口多聞(大佐)、南雲忠一(大佐)小沢治三郎(大佐)源田実(大尉)らの姿もある。
※阿南が侍従武官をしていたときに、高城と面識があった。
事前に人数制限をかけなかったとは言え、ここまでの人数で来るのかと、高城は三宅らと顔を見合わせた。しかし、それだけ陸海軍は宇宙軍の技術に興味を示していると言うことだ。
「宇宙軍 高城少佐であります。定刻になりましたが、宇宙軍の責任者の到着が少し遅れておりますので、もう少々お待ち下さい」
一同“ん??”と考える。はて?宇宙軍の実質トップは高城少佐のはずだが、その上の責任者となると、もしや・・・。
「すまない。待たせたな」
「へ、陛下!」
全員立ち上がり、天皇に向かって最敬礼をする。
将官達は多少の面識はあったが、将校や士官達のほとんどはもちろん初対面である。まさか宇宙軍の大会議室に至高の御方がお見えになるなど、想像していなかった。
陸海軍の将官達は、大人数で宇宙軍をやり込めてやろうと思っていたが、当てが外れてしまった。
高城は、事前に陛下から参加すると言われていたのだが、その時に“私が行くことを皆には黙っておいてくれ”と言われていた。
『結婚式の二次会もそうだったけど、突然現れてみんなを驚かせたいだけなんじゃないの?』
と、高城は苦笑いをする。
「みんな、頭を上げて着席してくれ。三軍の高官達が一堂に会するなど、まるで大本営みたいだな。皆、国防の崇高な想いを持ってここに来てくれたことだろう。今日は奇譚のない意見を交わして欲しい」
――――
「それでは、黒海でのソ連艦隊との戦闘について伺いたい。127mm砲で戦艦を沈めたとの事だが、それは本当かね?」
海軍の山本五十六少将が発言する。
「はい、それは事実です」
「おお・・」「本当なのか?」「そんなの無理だろう」
みな、感嘆の声を出したり、隣の軍人とぼそぼそと会話をする。
「そうか。事実なのだな。では、どうやって戦艦を沈めたのか、その技術を教えてくれないだろうか?」
今回の会議の前に、海軍ではどうやったら127mm砲で戦艦を沈めることが出来るのか検討会を開いていた。そして、そこで“成形炸薬”を使用すれば可能ではないかという答えが出ていた。
「はい、成形炸薬弾を使用しました」
「やはりそうだったか。しかし、成形炸薬弾は、回転していると威力が半減すると聞いたが、その辺りはどうなのかね?」
「はい、おっしゃるとおりです。短距離であれば翼のついた砲弾を使用しますが、敵との距離が20,000mを超えるようだと、風の影響で全く当たりません。そこで、砲弾の外側だけが回転し、中の炸薬部分は回転しない砲弾を開発しました。詳細はこちらの資料になります」
成形炸薬弾の資料が配付される。それを見た技術士官達は“なるほどなぁ”とか“すごい!”と感想を言い合っている。
成形炸薬については、工兵部隊では既に使われている技術でもあるので、開示しても問題ないという判断だ。
「こ、この技術を使えば、戦艦の装甲も無意味と言うことなのか?」
海軍艦政本部の将官達が青ざめる。配付された資料には、250mmから800mmの装甲に穴を空けることが出来ると書いてある。もし本当なら、41cm砲も必要ない。300mmの装甲も無意味になる。
「いえ、穴を空けることは出来ますが、内部で大爆発を起こすには至りません。艦橋の天蓋や、主砲の天蓋をうまく撃ち抜くことが出来れば良いのですが、船体に当たった場合は、それほどの被害を与えることは出来ないのです。それに、後ろのページに記載がありますが、成形炸薬弾は比較的簡単に防御することが出来るのです」
「なるほど。黒海の時は、ソ連がこの防御をしていないことを見越しての成形炸薬弾と言うことか」
「はい、少将。ご賢察の通りです」
山本少将は、高城から褒められて、少しだけ表情を緩める。人間、褒められると嬉しい物だ。
「それでは、30,000m先の敵艦に命中弾を出したと言うことだが、これも本当か?」
「はい、事実であります」
「おお」と会場がざわつく。30,000m先の敵艦に命中させることの出来る技術が目の前にある。是非とも手に入れたいと皆が渇望した。
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