第94話 査問会?

「杉中将、松山少将、ご足労に感謝します」


「黒海での駆逐艦の件ですね。それについては、艦政本部でも航空本部でも興味を持っておりまして、調査をしているところです。詳しい人間を連れてきました。技術研究所の吉田大尉と空技廠の高橋大尉です。この二人の学生時代の同期が宇宙軍の士官をしておるのです」


「技術研究所の吉田大尉であります」


「航空技術廠の高橋大尉であります」


「早速だが、黒海でソ連艦隊を撃滅したという駆逐艦と飛行艇は、噂の通りの性能なのか?しかも、日本の技術で作られたというのは本当か?」


「はい。127mm砲で航空機を撃墜と言う件については、不可能ではありませんが、ただ、敵機との距離に合った作動時間を信管にセットしないとならないので、まっすぐ向かってくる敵機を落とすのはかなり難しいと思います。こういった場合、通常は機関砲で迎撃するようになります」


「しかし、英国の駐在武官が言うには、127mmで撃ち落としたと言うことだ。しかも20機もの攻撃機を距離3,000mでだ。どうやったらそんなことが出来るのか、考えてもらえないか?」


「はい。実は、部内で事前に検討した結果をお持ちしております。まず、高速で近づいてくる航空機に対して時限信管をセットするのは不可能です。ですので、“近接信管”という物を考えました。これは、敵機に近づくと自動的に信管が作動し爆発するというものです」


「しかし、砲弾にそんな物を詰め込むことが出来るのか?」


「いえ、不可能です。砲弾発射時の加速度は1万Gを遙かに超えます。この加速度に耐えることの出来る真空管はありません。ただし、ロケット弾であれば搭載可能です。」


「なるほど、対空ロケット弾か。それはなかなか良さそうな武器だな」


 山本は、空母の周りを対空ロケット弾装備の駆逐艦で囲んだ、機動艦隊を想像する。これなら、敵の攻撃機を防ぐことができる。しかし、このような防御兵器をアメリカも実用化した場合、日本の攻撃機もアメリカ艦隊に近づけなくなってしまう。そうなると、さらに強力な兵器の開発をしなければならない。まさにイタチごっこだなと思う。


「30,000m先の敵艦に命中させたというのはどうだ?そんなことが出来るのか?」


「はい、駆逐艦の観測所からでは、30,000m先の敵艦を見つけることはできません。普通に考えれば不可能です。ただ、実際に当てているようなので、どうやったらそんなことが出来るか検討してきました。そして、“電波観測器”を使えば可能であるとの結論に達しました」


「“電波観測器”とはなんだね?」


「はい、ラジオ波よりもっと波長の短い電波を使って、水平線より遠くの物体を発見する事ができる装置です」


「そんな事が出来るのか?もし出来るとしたら、戦争の形が一変するぞ!」


「はい、イギリスでは、数年前から電波を使って“電離層”を観測しています。これは、軍事目的ではなく、遠距離通信の改善などの為の、科学的観測なので、特に秘匿はされていないのですが、この技術を使えば、見えない距離の敵艦を発見できると思われます。見えない距離と言っても、水平線の見通しより一割程度なのですが、高さ25mのマストにアンテナを取り付ければ、25,000m先まで、敵艦のマストの高さが40mとすれば、35,000m程度で発見できると思われます。そして、電波を発信してから反射をして帰ってくるまでの時間を計測することで、距離を把握することができます。ただ、現在の技術では、かなり難しいと言わざるを得ません」


「やはり難しいのか。しかし、戦艦のマストに取り付ければ、もっと遠くまで見えると言うことだな。では、高度10,000mを飛行できる飛行艇についてはどうだ?」


「はい、現在日本で使用できるエンジンの出力では難しいのですが、そこを解決できれば、不可能ではありません。一昨年制式化された、中島飛行機の“寿”エンジンは、過給器付きで500馬力あります。これを複列化して、さらに過給器を強化すれば、高空性能が良くなり、高度10,000mも可能であると結論づけました。ただ、これも、解決しないとならない課題はたくさんありますので、やはり、数年はかかると思います」


「なるほど。やはり一朝一夕にはいかぬということか。君たちの帝国大学時代の同期には、宇宙軍に入っている者もいるのだろう?なにか情報は無いのか?」


「はい、山本少将。この件に関して聞いてみたのですが、皆、口が重く“それについては、まだ言えない”と・・・・。やはり、何かを隠していると思われます」


「やはり、宇宙軍は何かを隠しているのだな?同じ皇軍であるのに隠し事とはけしからん!」


「まあ、我が海軍も陸軍に秘匿していることもあるだろう。ここは素直に聞いてみるのが良いのでは?」


 こうして、高城少佐に海軍から呼び出しがかかる。


 ※1933年少佐に昇進


 ――――


「宇宙軍の高城少佐であります」


「うむ、よく来てくれた。まあ、そう硬くならずに。今日は、日本の国防のため腹を割って話したいと思ってな」


 小林中将、山本少将らが挨拶をする。宇宙軍の高城少佐一人に対して、海軍は中将二人に少将二人、そして、技術将校が四人の総勢八人だ。高城は、まるで“査問会”だなと思う。


「まずは、黒海でソ連艦隊を退けた駆逐艦についてだが、あれは、ロシアからの発注で宇宙軍が作ったものだな?兵装も宇宙軍で開発したものなのか?ロシアから提供されたものなのか?」


「はい、小林中将。艦も兵装も宇宙軍で開発したものになります」


「やはりそうか。では、3,000m離れた敵攻撃機20機を、一撃で撃墜したというのは本当か?そんな事ができる兵装を宇宙軍は開発しているのか?」


「はい、中将。申し訳ありませんが、それについては軍機に関わりますので、お答えできません」


 会議室の海軍将官たちは、眉根を寄せてあからさまに不快な表情をする。たかだか少佐ごときが、中将の質問に答えぬなどと、なんと生意気な。


「高城少佐。我々は敵同士ではない。日本の国防を担う仲間じゃないか。有用な技術はお互いに公開して、より高め合っていくのが国家に忠義を尽くす者の筋ではないか?」


 山本五十六少将が、穏やかに高城に話しかける。山本も、内心“この若造が!”と思っているのだが、小林中将の方が先に怒鳴りそうだったので、口を挟んだ。


「はい、山本少将。その通りだとは思いますが、宇宙軍の秘匿事項の公開に関しては、陛下のご裁可が必要になります」


 一同、“ぐぬぬ”という顔をする。陛下のご裁可が必要と言われては、こちらにはどうすることも出来ない。陛下の学友だったことを良いことに、特別扱いとは。


「そ、そうか。それなら仕方があるまい。では、海軍大臣にお願いして、陛下のご裁可を頂くとしよう」

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