第93話 第二次ロンドン海軍軍縮条約
1933年1月
日本からの発議により、第二次ロンドン海軍軍縮会議が開催された。これは、3年に一度の見直しができるとの条項によるものだ。
「昨年、ソ連から同盟国への一方的な武力行使があったように、日本を取り巻く安全保障環境は、非常に不安定なものがあります。現状の枠組みでは、日本とその同盟国の安全は保てないと考えます」
日本からの全権大使は、極東におけるソ連の脅威を訴える。イギリスにとっては、日本がソ連と対峙できるだけの戦力を持つことは歓迎であった。また、日本が中国から手を引いている以上、イギリスと直接利害が対立することは考えづらく、軍縮条約の発展的解消に前向きだった。
アメリカは、史実ほどの大恐慌にはなっていないが、公共事業としての造船に注目していた。ただし、アメリカの戦艦を確実に葬ることの出来る日本戦艦の出現は避けたかった為、次の制限をかけることを提案する。
・主砲の最大口径は41cmまでとする。
・41cm砲の門数は最大64門までとする。(1隻あたり、8門とすれば、8隻まで)
・太平洋・大西洋およびフィリピン海では、自国の管理地域から200海里以内での活動とし、200海里を出る場合は、条約締結国に事前通告をする。
・国連委任統治領には、従来通り基地は作らない。
アメリカとしては、戦艦同士の決戦になった場合でも、41cm砲なら、なんとか凌げるという考えがあった。
それに、日露のモスクワ爆撃の戦訓から得た情報によって、アメリカでは新型の対艦誘導弾が開発されつつあった。
敵艦との距離20km程度で母機より切り離され、海面上6mを飛行し、目視による無線誘導で敵艦に命中させるというものだ。
現在は、航続距離の関係でレシプロエンジン搭載だが、ロケットモーターの搭載が出来れば、音速を超える速度で敵艦に向かっていく。これが完成すれば、安全な遠距離から迎撃不可能な攻撃ができる。太平洋も大西洋もアメリカの物だという思惑があった。
これ以外にも、カール・ノルデンの開発した爆撃照準器も実用化されつつあった。目標との距離と相対速度を計測して、自動的に水平爆撃照準を合わすことの出来る装置だ。この時点では、爆撃手と操縦の連動が出来てはいなかったが、爆撃照準器から操縦が行えるように開発している。これが完成すれば、劇的に爆撃精度が上がる。
こうして、第二次ロンドン海軍軍縮条約締結された。最大口径41cmの64門と、200海里制限以外、艦数や総トン数の制限はかけられなかった。
ちょうどその頃、ロシアが発注したことになっている330m級大型貨物船の、のこり3隻がアメリカ東海岸を出航し日本へと向かっていた。
1933年3月
「海軍軍縮条約が緩和されて良かったな」
海軍省の一室で、小林躋造(こばやしせいぞう)中将が、山本五十六少将に声をかける。
「はい、小林中将。これで、空母の増強ができます。航空機も、これから高性能大型化していきます。新しく空母を建造するなら、全長270m、40,000トン程度は必要でしょう」
「山本少将。それは巨大空母だな。きみの主張する空母機動艦隊構想はすばらしいね。これからの海の戦いは航空機と空母が中心になる。きみを一航戦の司令官に推挙した甲斐があるというものだ」
「しかし、昨年の間宮海峡会戦に参加できなかったのは残念でした。4大戦艦の全力艦砲射撃を是非見たかったですな」
「そうか、きみはその時は本部勤務だったな。あれはすごかったぞ。1時間にわたっての砲撃だ。砲塔内は発砲の熱で50度をこえていたそうだよ。あれ以上撃ち続けたら、砲術兵がゆであがっていたと言われたわ!その後のウラジオストクは、包囲するだけだったのは残念だったがな」
「いえいえ。孫子の兵法にもあるように、戦わずして勝つのが良策という物でしょう。それに、ウラジオストクは我が一航戦に、とっておいて頂きたい」
「ははは!確かにな」
「ところで中将。少々お伺いしたいことがあるのですが、昨年の黒海での日露共同作戦で、宇宙軍の作った駆逐艦がロシア軍の所属として参加していたのはご存じでしょうか?」
「ああ、ロシア軍から発注を受けて作った駆逐艦だな。それがどうした?」
「実は、英国大使館の駐在武官から聞いたのですが、黒海でソ連艦隊と戦った際に、日本製駆逐艦の127mm砲は、30,000m離れたソ連艦隊に多数命中させ、戦艦1、重巡1、駆逐艦12を撃沈したというのです。さらに、20機以上の航空機を127mm砲で、一瞬にして撃ち落としたと」
「その噂は聞いたことはあるが、あれはガセネタだろう。ソ連も否定しているし、駆逐艦数隻で、そんな芸当が出来るわけがない」
「私もそう思っていたのですが、その駐在武官が言うには事実らしいのです。その会戦を近くで見ていた英国軍人がいたようでして、複数人が証言しているそうです。英国でも、同じ事が出来ないかと研究しているらしいのですが」
「それは本当なのか?」
「はい。その駐在武官から、日本と英国は準同盟国みたいなものだから、情報を開示して欲しいと言われたのですが、わたしにもさっぱりわからなくて、困ってしまったのです。それに、大型の飛行艇についても質問されました。10トンの積載量があり、高度10,000mを飛行できる飛行艇だそうです」
「そんな高性能な飛行艇が日本で作られたと言うのか?あれは、積載量1,000kgで、最高高度も5,000m位と聞いているぞ。ただの大きいだけの飛行艇ではないのか?」
※当時海軍では九○式飛行艇の飛行試験が行われており、この機体も全幅31mだったため、同程度の飛行艇という認識だった。
「今年から、沿岸用攻撃機(後の九六式陸上攻撃機)の試作が始まるのですが、実用上昇限度8,000m、搭載量1,000kgという目標です。これでも難航が予想されているのに、10トン搭載して10,000mまで上昇できるなど夢物語の様ですが、どうも事実のようなのです」
「もしそんな物があるのなら、宇宙軍で秘匿しているのはけしからんな。しかし、本当にそんな事ができるのか、航空本部長の松山少将と艦政本部長の杉中将に聞いてみるか」
こうして、航空本部長の松山少将と艦政本部長の杉中将に話を聞くことになった。二人は、新進気鋭の若手技術将校を連れて海軍省を訪れる。
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