第91話 クレムリン急襲(3)
「スターリンを殺すことはできなかったと思うが、心胆寒からしめただろう。どうだ、安馬野。飢餓を引き起こした張本人の喉元に、剣を突きつけた気分は?」
「はい、高城大尉。心の“つかえ”がとれたような気がします。でも、やっぱり、あんなことをした連中は、殺してやりたいです」
「安馬野。それは違うぞ。俺たちの目的はやつを殺すことじゃない。日本と同盟国を守り、より多くの人々を救って平和な世の中を作ることだ」
「はい!高城大尉!」
――――
「あ、あんな大物が憑依しているなんて・・・・」
リリエルはまだ怯えている。
「前世では、どんな悪魔が憑依してたんだ?」
「それが、わからなかったのよ。アルマゲドンの時以外は、天使は直接人間に対して接触はできないの。だから、人間に憑依している悪魔について、詳しくはわからなかった。一応、4人の悪魔が“人間に影響を与えた”って事は判ったけど、もしかするともっと多くの悪魔が憑依しているのかもしれないわ。今は、私があんたと同化しているから、同じように人間に憑依しているあいつらを、感じることが出来るようね」
「でも、憑依されている人間は不死身じゃないんだろ?なら、正攻法でスターリンを倒せば、大丈夫なんじゃないのか?」
「そ、そうなんだけど、本当にあんな大悪魔が憑依しているヤツを倒せるのかしら・・・・」
「史実では、スターリンは天寿を全うしたけど、ヒトラーは倒せてるし、江青も失脚してるからね。意外と、悪魔より人間の方がこういう場合は強いのかもね」
「人間の方が、悪魔より強いの?もしそうだったら心強いんだけど。憑依されてる人間が死んでも、それくらいじゃ悪魔は死なないと思うのよね。たぶんだけど。精神体にもどって、アルマゲドンの時に牙をむいてくるわ。今回は、気づかれなかったみたいで良かったけど、気づかれたら、おそらく全力であんたを殺しに来ると思うの」
1936年のベルリンオリンピックで、ヒトラーの顔を拝んでやろうと思っていたのだが、これは計画を変更した方が良いかもしれないと、高城蒼龍は思った。
――――
ソ連は、日露からの停戦要求について“謝罪”の部分以外を受諾することで合意に達した。また、国連決議についても、受諾することを通告してきた。
これにより、ウクライナでのホロドモールは終了した。国際社会からの救援物資が大量に届けられることになり、多くの人々が救われることになった。
――――
「この資料に間違いは無いのかね?」
アメリカ陸軍省の一室では、ソ連と日本・ロシアとの紛争に関する会議が行われていた。
「はい。黒海に派遣した調査員が、測距儀によって何回も確認しています。また、モスクワのエージェントからも、10,000mから爆撃されたとの報告があがっています」
「高度10,000mを飛べて、積載量が5トンから最大10トンの飛行艇か。しかも、航続距離は6,000km以上の可能性もあるのだろう。あんな黄色い猿どもに、何故そんな物が開発出来るのだ!」
「何故出来たかについては判りかねますが、技術的には、おそらく、排気タービンを装着したエンジンを使用している物と思われます。我が国でも開発が進んでおり、数年で、高度10,000mを達成見込みです」
「高度10,000mからの爆撃で、クレムリンのカザコフ館のみを破壊したというのも本当なのか?」
「はい。クレムリンの近辺で、非常に長いワイヤーが複数見つかったそうです。おそらく、照準器で目視しながら、有線で誘導したのではないかと思われます」
「有線誘導か・・・。これは、我が国でもすぐに実用化出来そうだな」
「はい。しかし、我が国の爆撃機は高度7,000m程度しか上がれません。この高度だと、ゆっくり照準をつけていると高射砲や敵戦闘機の餌食になるので、高度10,000m上空というのが前提になります」
「それと、30,000m離れた距離にいる戦艦や巡洋艦に、艦砲を命中させたというのも本当なのか?」
「黒海艦隊で生き残った巡洋艦の乗組員から得た情報です。ソ連は、公式には認めていませんが、戦艦1、巡洋艦1、駆逐艦12が撃沈されています。これは、魚雷攻撃ではなく、駆逐艦の127mm砲による攻撃だったようです」
「そんなバカなことがあるか!どうやったら127mmで戦艦を撃沈できるというのだ!」
「おそらくですが、成形炸薬弾を使ったのではないかと思われます。工兵では使用されていますが、これを使った榴弾の可能性があります」
「成形炸薬はそんなに威力があるのか?」
「はい。口径が127mmだと、200mmから最大500mmの鋼板を打ち抜けると報告が上がっております」
「しかし、当たらなければどうということは無いのだろう?日本は、どうやって30,000mも離れた敵に当てたのだ?」
「これも、推測の域を出ないのですが、日本は“レーダー”を実用化している可能性があります。理論的には、海上なら50km程度の範囲で、敵艦との距離や相対速度を割り出すことが出来るそうです。そのデータを元に、計算尺で計算しているのではないかと、技術部は言っております。ただ、“理論的には”ということですので、これも、実用化までには数年以上はかかるとのことです」
「現時点に於いて日本との技術差は、数年以上あるということか。今、日本と戦争になったら苦戦を強いられるな。何としても日本の技術に追いつけ!予算はなんとかする。全力で取り組んでくれ」
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