第59話 石原莞爾(1)
石原莞爾
史実では、板垣征四郎らと共に、柳条湖事件や満州事変を起こし、満洲国を独立させる。そして、広大で資源のある満洲に日本の経済基盤を移すことを計画し、満蒙を中心とした大東亜秩序の構築を実行しようとした男だ。
また、組閣に必要な陸軍大臣を選任する際の「軍部大臣現役武官制」を悪用し、陸軍の意向を飲まないのであれば、陸軍から大臣を選出させず、組閣をさせないという暴挙にでたのも、この男である。
そして、彼の「世界最終戦争論」では、世界支配する4つのブロック(ヨーロッパ・ソ連・アメリカ・日本)が、その支配権を巡って戦争を起こす。その戦争では、航空機や大量破壊兵器によって殲滅戦が実施され、短期間によって雌雄が決するというものだった。
1928年10月
大日本帝国宇宙軍本部
「宇宙軍大尉の高城蒼龍であります」
「陸軍中佐の石原莞爾だ。今日は時間をとってもらってすまないね」
数日前に陸軍から、参謀の石原中佐が面会したいとの連絡があった。高城蒼龍としては、そろそろ直接会って話をしたいと思っていたところだったし、向こうが階級が上なので、断ることも無い。
「大尉の活躍は陸軍でも、良く話題にのぼってるよ。今や時の人だね」
その口調は、どこか嫌みというかいやらしさを感じるものだ。
「中佐殿。何をおっしゃいますか。小官ごとき非才のものが陸軍で話題になるほどの活躍が出来ようはずもありません。すべて、陛下のご指示によるものです。それに、“話題”とは、君側の奸とかそういった話題でしょうか?」
お互い、まずは腹の探り合いだ。
「ははは、きみも言うねぇ。まあ、ここじゃあ腹の探り合いはやめようじゃ無いか。私は非生産的なことが嫌いなのでね。尼港、ロシア帝国正統政府樹立、九ヵ国条約、南京・漢口事件、そして中国からの撤退と清帝国樹立。全て、きみが脚本を書いているね。それに、関東大震災で国債を大量引き受けしてくれたリチャード・インベストメントも、きみの息のかかった会社だろ?」
するどい。この時代の諜報機関の能力はたかが知れている。どうやってその結論にたどり着いたのか?やはり「軍事の天才・異端児」そういった二つ名はダテでは無かったようだ。
「中佐殿。そんなに買いかぶられても困ります。小官は、陛下に助言を差し上げたまでです。最終的には陛下のご判断とご指示によるものです」
「ふん、そうか、まあそれはそれで良いよ。ところで大尉は、これからの日本をどう思うかね?」
これからの日本をどう思う・・・。それは、高城蒼龍にとってはどう思うかではなく、どうするかと言うことだ。そして、石原はおそらくそれを意図して質問をしてきている。
「中佐殿。どう思うかと言われましても、含意が広すぎます。小官としては、民が豊かになり、だれもが飢えや病や戦争の心配をする事の無い、平和な日本になることを願うとしか、言い様がありません」
「なるほどな。未来の平和な世の中であったら満点の回答なのだろうな。だが、今はそうじゃない。じゃあ、質問を絞ろうか。清帝国をどう運営していくつもりだい?日本からの移民は、実施しないそうじゃないか。それなのに、農業機械の援助や技術指導は積極的に行い、満洲の民を富ませるばかりだ。たしかにソ連との防波堤になるかも知れないが、あまりにも日本に利が少ないように感じるのだがね」
“未来の平和な世の中”どうにも引っかかる言い回しだ。
「中佐殿。清が豊かになることが、日本に利が無いと思われますか?小官はそうは思いません。清が豊かになれば、日本で作った繊維製品や工業製品を売ることが出来ます。また清で生産された農作物を輸入し、食料品価格が下がれば、国民の可処分所得も増えます。国内の農業人口は減少するでしょうが、その労働力を工業分野で活用することができ、日本はよりいっそう発展すると思っております。それに、友邦となり防共協定や相互安全保障条約を結ぶことによって、集団安全保障体制を構築し、抑止力になるのではないですか?」
「ずいぶん遠回りな事をするね。今の日本には、五反以下の農地しか持たない貧農が10万戸もあるんだよ。彼らを満洲開拓に行かせるほうが、貧農を救うことになるし、より早く清の発展になるんじゃないか?それに、保護国にしてしまえば、安全保障条約を結ぶまでも無い。裏切りや離反も防げるしね」
それは史実通りの政策だ。当時の日本は、日本の生産力だけでは全人口を養うことが出来なかった。その為、南米やアメリカ、そして満蒙への移民を積極的に進めていたのだ。詰まるところ、これは移民では無く“棄民”である。また、満洲国の独立といっても、実際には日本の保護国属国扱いだった。
「中佐殿。その貧農の数も、10年前と比べると半分ほどになりました。日本の工業化が進めば、労働力の移動も進み、貧農も少なくなっていきます。それに、満蒙は他人の土地です。満洲人は数千年あの土地に住み続けているのです。例えば、中国人移民団が大量に日本に押し寄せてきて、開発だと言って山々の伐採を始めたら、中佐殿はそれを歓迎できますか?」
「・・・・・たしかに、それは歓迎できないな。しかし、アメリカは移民によって成功している。そういった成功事例があるのだから、満洲を東アジアのアメリカにする事が出来るのでは無いか?」
「中佐殿。アメリカはそれを成すために、先住民であるアメリカンインディアンを皆殺しにしました。1860年頃までは直接的に虐殺し、それ以降はさすがに直接殺すのはまずいと思ったのか、インディアンの主食であるバイソンを殺して彼らを餓死させる方法をとったのです。そのようにして、大地の“浄化”を行って成功したのがアメリカなのですよ。我が栄えある日本がそれを真似よとおっしゃるのですか?」
「そ、そんな事をしていたのか?それは本当か?」
「表向きには、インディアンとアメリカとの“戦争”によって、負けたインディアンが衰退したと発表されていますが、事実は虐殺です。原住民を虐殺し、新しく入ってきたもの達だけなら諍いも少なくて済みましょう。しかし、アメリカの建国から100年が経ち、今新しく入植をしようとしている日本人や中国人に対しては、様々な制限や差別が存在します。イギリス人入植者に対しては、大した制限はありません。私には、満洲への入植がうまくいくとはとても思えないのです。それに、日本の工業化が進めば、日本では必ず労働者不足になります」
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