第50話 昭和の幕開け(2)
「池田君、そろそろ、例の貨物船をお願いしようと思うんだけど、ドックの確保はできそう?」
「2カ所は確保できたけど、これ以上は難しいな。アメリカにもそんな巨大なドックはあまりないからね」
高城蒼龍は、ロシアの海運会社から、リチャード・インベストメントの所有する造船会社に対して、貨物船の発注をする予定にしていた。
全長330メートル、水線幅41メートルの巨大貨物船だ。これを5隻揃える。アメリカでは船体の組み立てと蒸気タービンの据え付けまでを行い、艤装は日本で実施する予定だ。
もちろん、船体の設計図は蒼龍が提供する。大胆なバルバスバウと大型スタビライザーを装備した、最新の船形だ。スラスターも設計に入れている。
日本に回航された後は、上部構造物を全て撤去し、アングルド・デッキに舷側エレベーターの設置、そして、艦首蒸気カタパルトを設置する。
ただし、懸案事項もある。日本にもこの船が入るサイズのドックを作らないと、喫水線下の修理やメンテナンスが出来ない点だ。
「とりあえず船体が出来れば、防水区画とかの内部構造はどうにでもなる。問題は乗員だね。ある程度は宇宙軍の士官を教育するとしても、多分足りない。海軍の指揮下に入るなんてあり得ないから、陛下に強権を発動してもらって、兵卒と下士官だけを宇宙軍に組み込んでもらうかな?かなり反発がありそうだね・・」
「まあ、大戦が回避されて、こんなデカ物を使わなくても良くなるのが、一番いいんだけどな」
「米倉君、耐熱合金の方はどう?」
「今はニッケル基合金の単結晶製作に取り組んでるよ。これが出来れば、1,000度以上まで安定して耐えられるようになるかな?そうなれば、ガスタービンエンジンも実用化できるね。そうそう、ガスタービンじゃ無いけど、レシプロエンジン用ターボチャージャーの試作機が出来たよ。ジュピターエンジンを一台購入したから、今度取り付けて試運転をする予定」
「そういや、ディーゼルエンジンはどう?三宅君」
「ユニフローに繭型コンプレッサーの組み合わせで開発中だよ。直列6気筒8リッターでデータを取ってるところ。しかし、大きいエンジンになると、鋳造技術が追いついていないね。シリンダーブロックとクランクケースの歩留まりは1割を切ってる。つまり、頑張って鋳型を作って流し込んでも、10個の内9個は不良品。まあ、合格ラインを厳しく設定してるのもあるんだけど、戦争に使うのに、不安材料を抱える訳にはいかないし」
「工業技術の底上げは、まだまだこれからだな」
「そうそう、大型風洞実験室がもうすぐ完成するんだよ。風速900km/hまで出せるから、これで翼型の研究ができる。試作機の試験で空中分解なんて絶対に避けないといけないからね」
※史実では、零戦開発中に空中分解によって2名のテストパイロットが殉職している
「白次君、ロケットはどんな感じだい?」
「固体燃料ロケットは、もう十分に実用的になってきたね。弾道軌道で高度100km、飛行距離400kmを達成できた。まあ、誘導できないからどこに落ちるかわからないけどね」
「おいおい、陸地に向かって発射したんじゃ無いだろうな?」
「まさか。九十九里浜からアメリカに向けての発射だよ!400km先に船が居たら不幸な事故だけど・・。敵艦へ当てる最終誘導は、レーダーの完成待ちだね。レーダーを弾頭に搭載できるサイズにまで小型化できれば、防衛体制は完璧だよ。」
「液体燃料ロケットはどう?」
「あれは、一朝一夕にはいかないね。耐熱合金の完成待ちっていうのもあるんだけど、燃焼温度を抑えての実験でも、安定して燃焼させるのが難しい。発射はしたけど、飛ぶか飛ばないかわからないなんて、まだまだ実用化は先だね。1939年までには、なんとか人工衛星の打ち上げをしたいな。その後は、有人宇宙飛行!俺は世界最初の宇宙飛行士になる!」
「おおっ!いいね!応援するよ!」
「大岬くんは?」
「蹴球ワールドカップに向けて強化中だよ。師範学校や大学からメンバーを集めて練習してる」
「そういや、宇宙軍のチームと大学選抜チームで練習試合したんだろ?どうだった?」
「あ、ああ、あれね。あれは、ひどかった・・」
「ひどかったって・・何があったの?」
「宇宙軍のメンバーって、ほとんどが女子だろ?男子もいるけど、まあ練習試合だし、全員女子で参加したんだよ。そしたら、7対4で宇宙軍が勝っちゃったんだよね。試合が終わった後、大学生達がわんわん泣いて騒いで、腹を切るだの蹴球をやめるだのと大騒ぎ」
「え、スポーツで女子が勝つってことあるの?」
「体力じゃ敵わないから、短いパスとゾーンディフェンスを徹底させたんだよ。でね、宇宙軍のメンバーは、ここぞとばかりにテクニックを披露したんだよね。そりゃ素質のある子に幼少の頃から基礎を徹底的にたたき込んで、エラシコやマルセイユルーレットにクライフターンとシザーズなんかも全員マスターさせてるから、サーカスしてんのかって感じ。それにパスを出すときも、ほとんどノールックでパスを出せるんだよ。大学選抜にとってはカルチャーショックだよね。シャペウで3点連続でゴール決めた時なんか、相手のキーパーが地面に頭を何回も打ち付けて号泣してた」
「そ、そこまで心を折らなくても・・・・」
「まあ、こういうのは徹底的にやっておいた方がね。それからは、定期的に練習試合をしてるよ。宇宙軍のメンバーが大学生に技術を教えてる。でね、その中でもう何人もお付き合いがはじまってるんだよ。若いっていいね」
「そうかぁ・・・(一同)」
「それはそうと、SP要員の教育も出来てきたから、みんなの警護に就かせようと思う。陸軍の中じゃ、俺たちを目の敵にしてる連中も多いみたいだしね」
蒼龍は、体力と運動神経に優れた大岬に対して、学習院時代から蹴球の技術と同時に格闘術も教え込んでいた。蒼龍自体、前世で格闘技をしていたわけでは無いが、見た記憶のある格闘技の技なら、完全に再現することができた。また、マンガで読んだ「陸奥○明流」の技も伝授している。そして宇宙軍発足後、大岬は格闘センスのある学生に、SPとしての訓練をしていたのだ。
「そうか、それはありがたい。陸軍だけじゃ無く、右翼団体からも狙われてるからね」
「SPじゃ無いけど、普通に射撃教練をしている部隊も仕上がってきたし、まあ、歩兵の一等卒程度の練度だけど、万が一の時には展開できるよ」
「高城君、例の最終兵器の開発はどうだい?」
「池田君の会社を通じてウランの買い占めをしてもらってる。数発作るくらいの量は集まったけど、出来るだけ他にまわらないように、買い占めは続けていくよ。実際の開発はこれからだね」
ウラン型の核兵器なら簡単にできるが、プルトニウム型の場合は爆縮レンズの設計など、コンピューターが無いと難しい計算もある。さらに、ミサイルに搭載できるくらいまで小型化しようとすると、ハードルは高くなる。
「いずれにしても、我々の計画は絶対に外に漏れないようにしないとな。アメリカやドイツの技術を加速させるわけにはいかない」
気の置けない仲間達の楽しい時間は過ぎていく。
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