第46話 1924年~1925年

<愛新覚羅溥儀>


1924年10月


 北京にてクーデターが発生した。


 1911年から始まった中国の辛亥革命によって、1912年には、愛新覚羅溥儀は清国の皇帝を退位させられていた。しかし、退位にあたり「清室優待条件」が清朝政府と中華民国政府の間で締結され、外国元首として礼遇され、名目上「清国皇帝」の称号を使っていたのだが、1924年のクーデターによって、紫禁城を追われることになる。


 溥儀は、イギリスとオランダに身柄の保護を求めたが、両国共にこれを拒否。そして、日本大使館に保護を求めることにした。


「皇帝陛下、よくぞ我が国を頼ってきて頂きました。摂政殿下からは、皇帝陛下に何かあれば、全力を持って力になるように命令されております。関東大震災でのご恩は、決して忘れてはおりません」


「芳澤大使殿。感謝に堪えぬ。中国全土を支配していた者の末路だ。哀れと思ってくれ」


「何をおっしゃいますか。今は雌伏の時です。皇帝陛下なら、必ずや捲土重来を果たせることでしょう」


 こうして、愛新覚羅溥儀と妻たちは、天津の日本租界で保護されることとなる。


 ――――


 史実では、日本政府も陸軍も、愛新覚羅溥儀の保護に積極的ではなかったとされる。これは、中華民国政府との関係に亀裂が入る可能性を危惧したためだ。


 しかし、1927年に中国国内で国共内戦がはじまり、また、張作霖爆殺事件や柳条湖事件などで、関東軍(日本帝国陸軍の中国東北部派遣軍)が満州の独立と傀儡化を画策し、愛新覚羅溥儀を皇帝に祭り上げることになる。


 この一連の事件は、参謀本部の命令を無視した、関東軍と一部参謀の完全な暴走であった。


 ――――


 高城蒼龍は、しばらくは溥儀を保護しつつ、中国で国共内戦が始まるのを待つことにした。そしてその時に、中華民国政府に対して日中防共協定を締結し、国際社会公認で国共内戦に関与することを計画する。そして、その見返りに満州族の国家の独立を認めさせるのだ。


<ご成婚>


1924年、摂政はご成婚された。


「高城よ。そろそろきみも結婚を考えてはどうだ?高城くらいの美丈夫であれば、見合い話の一つや二つはあるのだろう?」


 摂政が少しからかい気味に、高城に話す。


「はい、殿下。たしかに、あるにはあるのですが・・・」


 高城蒼龍は、前世で32才まで生きて、今世では23才になる。合計すると55才だ。見た目は23才の青年だが、中身はおじさん。どうしても結婚を考えることが出来なかった。


「ねえ、結婚、しないの?」


 リリエルが気色の悪い笑顔で話しかけてくる。


「うーん、なんか、そんな気になれないんだよね」


「でも、結婚したら、あんなことやこんなことができるわよ-。わたし、知ってるのよー」


 リリエルが本当に気色の悪い笑顔で話しかけてくる。


「それ、お前が見たいだけだろ。もし、そんな事になってもちゃんと意識、消しておけよな」


「今更何よー。それにあんた、時々私をおかずにしてるでしょ!わかるんだからね!なんたってあんたとは一心同体少女隊なのよ!」


「くっ・・・、ほんとビッチだな。俺はいいんだよ。生まれてからずっとお前に見られてるんだから。でも、結婚は相手もあるから、相手のプライバシーを尊重したいんだよ。お前の見世物にしたくないの。しかし、天使ってみんなそんな性格なの?」


「えへへー、ミハエルにいっつも怒られてた。はしたないって」


<八五式自動小銃>


1925年5月 陸軍において、八五式自動小銃が制式化された。


 これは、高城蒼龍の父親の、高城龍太郎陸軍大佐が中心になって開発した。といっても、蒼龍が設計した物を、龍太郎が陸軍で製作しただけなのだが。


 弾丸は、5.56mm×45mmを新設計した。三八式歩兵銃の6.5mm弾だと、エネルギーが大きすぎて、機関部に強度を持たせるために重量過多になったためだ。日本人の体格から、出来るだけ小型軽量の自動小銃が求められた。


 構造はプレス板を多用し、出来るだけ簡素に設計した。量産をし易くするためだ。公差も大きめにとって、埃が侵入したとしても故障しにくくしている。銃身の交換も容易だ。弾倉は交換式30発箱形弾倉を備える。


 高城蒼龍は、AK47をベースに、5.56mm弾が使えるように再設計したのだ。


ただし、安全装置だけは、


「ア」―― 安全

「タ」―― 単発

「レ」―― 連射


と、変更して刻印している。


 陸軍は軽量で高性能な自動小銃の完成に歓喜し、すぐに量産にとりかかった。


 しかし、現場の兵士からは不満があげられてきた。


 満州の広大な平原では、射程が足りないと。


 三八式歩兵銃の最大射程は4,000mとも言われる。(※三八式歩兵銃の最大射程は2,400mと言われることが多いが、これは照準器が2,400mまでしか刻んでいないため)ただし、これは頑張れば届くという距離だ。この距離で当たっても、殺傷力はほぼ無い。殺傷力を保てるのは2,500mくらいまでだが、それだけ離れていると、そもそも当たらない。遠くの敵に対しては、全員で仰角をとって一斉射撃し、当たることを期待するというものだ。実際には、ほぼ効果は無い。


 現実的には、有効射程500mくらいである。これは、5.56mm弾とほぼかわらない。それでも、5.56mmだと、2,500m離れた敵を倒せないということらしい。


 ――――


「だいたい、500m以上離れて小銃で撃ち合うって、どんなシチュエーションだよ。平原で歩兵だけの展開って、自殺行為だよね。早く陸軍の機械化も進めて、戦闘ドクトリンを見直したい」


 高城蒼龍は、陸軍向け軽装甲車両と12.7mm機関銃、それに携行迫撃砲の開発を急ぐのだった。


<マジックテープ>


1925年6月


「高城大尉。マジックテープの試作品が出来ました」


 工業高校から宇宙軍に任官された下士官が報告に来る。


「いい感じじゃ無いか。これなら十分実用に耐える」


 史実では、1951年に特許出願されているので、戦後の製品になる。


 21世紀では、マジックテープは生活の様々なシーンで使われる。そして、軍用としても、タクティカルベストなどに多用されているのだ。


 また、この頃から、ポリエステル繊維の量産も開始される。ポリエステル繊維は、吸水性が高く、しかも乾燥も早い。さらに通気性も抜群と、兵士の下着にはうってつけの繊維だ。


 それまでは、下着と言えば綿だったが、これは、軍用には向かない。肌触りは良いが、汗をかくとなかなか乾燥せず、体温を急激に奪ってしまうのだ。


 まずは、軍用下着として製造し、陸軍への普及を図った。ポリエステル下着は、現場兵士から上々の評判を得ることが出来た。


 こうして、様々なものを開発し、来たるべき“その時”に備えるのだった。

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