第17話 大日本帝国宇宙軍設立(3)

 イ号計画 電子計算機の開発 担当:森川中尉


「森川中尉、今度、帝国大学を卒業した優秀な人材が来る。彼らとチームを作って、電子計算機開発の指揮を執って欲しい。ちょっと、変なやつも混じってるのだが・・」


 ノイマン型コンピューターの基本的な考え方や、三極真空管を使った簡単な演算回路の設計図は既に渡してある。しかし、さすがの蒼龍も大規模集積回路の設計図を詳細に見たことはない。プログラムを書くことは出来るが、どうやってコンパイルしているかまでは知らない。この分野だけは、こつこつと知見を積み重ねていくしかなかった。


「あんたでも知らないこと、あるのね。」


「コンピューターを使うことはできるけど、CPUの中身を見た事なんて無いし、トランジスタ数が100億もある設計図なんて、目で見えるようにしたらA4の紙がいくらあっても足りないよ。それに、高級言語(プログラミング言語)は使えるけど、機械言語(二進数のバイナリデータ)なんて詳細に見たことない。まあ、世界初のCPUがトランジスタ2300個で作られてたから、うまく設計すれば真空管2300個で代用できるかな。トランジスタの開発も平行して行うから、5年以内に8bit程度のCPU開発にこぎ着けたいね。」


<ヘ号計画>

 材料工学担当:米倉友実

 耐熱素材や、超高張力鋼などの開発


<ホ号計画>

 ロケット開発担当:白次良田人


<ニ号計画>

 サッカー教育担当:大岬太郎


<ト号作成>

 情報全般担当:有馬勝巳


<統括>

 高城蒼龍


 これらの各計画に、蒼龍が帝国大学で発掘してきた優秀な人材が加わることになる。


「なんとかスタートできたわね。こっちに来てから18年かぁ。天使の時は、18年なんてあっという間だったけど、人間と融合してると、けっこう長く感じるわね。」


「そういうものなのか?18,000年も生きてて、苦痛じゃないの?」


「苦痛ってなによ!失礼ね!」


「ほら、永遠の命を手にしてしまった主人公が、自分を殺してくれる人を探すって物語、結構あるじゃん。天使に寿命って無いの?」


「寿命はないわね。基本、霊体だから存在は永遠なの。でも、アルマゲドンの時に、悪魔と戦って消滅することはあるわ。前回のアルマゲドンでも、何人か消滅しちゃったし。」


「消滅することはあるんだ。どういうメカニズムで消滅するの?」


「悪魔からの必殺攻撃をね、ズゴゴーン!!バババーン!って感じでもろに受けちゃうと、希に消えちゃうの。」


「おまえ、ほんと語彙力ないよね。」


 ――――――――――


 蒼龍は、幼年学校の授業風景を見学することにした。


 この当時、日本の初等教育の就学率は96%と非常に高かったのだが、宇宙軍に集まった子供たちは、口減らし対象の子が多く、まったく教育を受けていない子供も多数いた。この子たちは、実の親から“いらない”と言われた子供たちなのだ。


「親が赤ん坊を殺しても、仕方の無かった時代か・・・・。なんとしても、この状況を打開しなきゃな。」


 給食が終わった後の昼休み、子供たちの様子を見ていると、何人かの子供たちが蒼龍の近くに集まってきた。


「・・・・・・・・・・」


 子供たちは、黙って蒼龍を見上げる。


「こんにちは。勉強は楽しいかな?」


「・・・・・・・・・・」


 返答が無い・・・・・


 すると、担任の先生が駆け寄ってきて、


「これは高城中尉殿。申し訳ありません。この子たちは、故郷ではほぼ人との接点が無く、親や兄弟とも言葉を交わすことも希だったようで、あまりしゃべれないのです。」


 担任は子供たちに“こんにちは”と言うように促すが、だれも言えない。ただ、じっと蒼龍を見上げていた。


「大丈夫だよ。みんな、少しずつ慣れていけばいい。焦ることもないし、気に病むことでも無い。君たちは、我々に必要とされてここにいるんだからね。」


 そういって、子供たちの頭をなでる。


「“ひつよう”?」


 一人の子供がつぶやく。


「必要って、むずかしかったかな?お兄さんはね、君たちのことを大切に思ってるから、ここに来てもらったんだよ。だからね、ちゃんと先生の言うことを聞いて、いっぱい勉強しようね。」


「・・・・・・うん。」


 子供たちがうなずく。


「全ての子供たちが、笑顔で生きていける世の中にしなくちゃな。」


 蒼龍は固く誓うのであった。

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