第15話 大日本帝国宇宙軍設立(1)
1918年5月
「寺内首相、昨今の物価高騰で国民は生活には困っていると聞く。どのような対策を講じているのか聞かせてもらいたい。」
この頃になると、天皇は病気療養のため、東宮が公務を代行することが多くなっていた。そして東宮は、国政について積極的に、現状や政府の意向を聞くようにしていた。
「はい、殿下。物価の高騰には注視すべきところがあります。昨年、“暴利取締令”を出しましたが、どうにも効果が薄く、政府もいろいろと追加対策を講じているところであります。」
「そうか。特に、米の価格上昇は庶民にとって困りものではないだろうか?それに、米価の上昇の恩恵を、農家は享受できているのか?」
「はい、殿下。労働者の平均賃金は伸びておりますが、農村において小作料の上昇はそれほど見られず、米問屋や商社のみが価格上昇の恩恵を受けている次第で・・」
「そうか、それにも関わらず、“暴利取締令”は効果が薄いのだな?なれば、緊急措置として、政府買取価格での強制買い入れなどは出来ぬか?」
「はい、殿下。自由経済の現状では、なかなか難しいこともございます。物価高騰対策の予算措置を講じて、なんとか救済をしていきたく存じます。」
当時、欧州大戦による大戦景気と、終結後の復興特需による大正バブルによって、物価は異常な高騰を見せていた。
しかし、政府は十分な対策を取ることは出来ず、史実通り、1918年8月ごろから米騒動が勃発してしまう。しかも、米騒動が収拾を見せないので、結局政府は強制買取のできる「穀類収用令(緊急勅令)」を公布するが、この勅令を警戒した米問屋や商社が米価の値下げに踏み切ったため、勅令は施行されなかった。このように、東宮から懸念が伝えられていたにもかかわらず、政府の対策は後手後手にまわったのである。
この時代の選挙制度は、ある程度の納税者のみに選挙権が与えられていたため、大量の票を動員できる、企業家や豪農の意向を無視することが出来なかったのだ。
「高城よ。きみの助言の通り政府に対策を質してみたが、結局、米騒動を防ぐことは出来なかった。国民は困窮し、私を恨んでいることだろう。」
「いえ、殿下。気に病んではなりません。為政者は、常に批判に晒されるもの。一度思うようにならなかったからと行って立ち止まっていては、何も成すことはできません。」
「そうだな、その通りだ、高城。では、次の計画に移ろう。」
――――――――――
この頃、高城蒼龍は東京帝国大学にて「青雲会」という有志による政治経済軍事の研究会を組織して、将来一緒に活動するための同志を集めていた。
――――――――――
1919年2月
東宮は、史実より2年早く摂政に就任した。これは、史実よりも多くの知識を“高城経由で”習得し、摂政に耐えうると判断された為である。
摂政とは、時の天皇が病気などで公務を行うことが難しくなった際、天皇の大権を代行する者である。帝国憲法下では、憲法と皇室典範の改正以外の、ほぼ全ての大権を行使することが出来た。
「原首相、私からの提案書は読んでいただけただろうか?」
「はい、殿下。殿下がご心配されるとおり、農村部における乳児の“口減らし”や、女子の“身売り”は、政府としても看過できない問題と認識しております。殿下のお考えは、まことに臣民の事を思う至高の施策にございます。早速、内閣にて法律案を作り、帝国議会で可決されるよう、尽力させていただきます。」
※史実においても「芸娼妓解放令」があり、身売りや年季奉公は奴隷と変わらないということで禁止されていたが、有名無実化していた。
こうして、大した反対もなく「大日本帝国宇宙軍」設立の議案が可決されたのである。
法律の要件としては、概ね、以下の内容が記された。
・宇宙軍幼年学校および兵学校を設立し、子女の教育を主たる業務とする。
・新しい技術の研究開発を行うことができる。
・予算は陸海軍予算の概ね200分の一を上限とする。
・天皇が直卒し、大臣は設置しない。
・宇宙軍の傘下に、外郭団体を持つことができる。その外郭団体の予算決算は、特別会計として宇宙軍が管理する。
法律に記載された宇宙軍の主な目的は、「幼年学校と兵学校」を設立して、農村部で口減らしや身売りに出されるはずの子女を引き取り、公的に教育をするということだった。
その為、天皇の赤子(せきし)である子女を、間引いたり、身売りに出すことは不忠であり違法である旨の勅諭を出し、どうしても、困窮して育てることが出来ないのであれば、宇宙軍幼年学校か兵学校に入学させるように促した。
宇宙軍幼年学校および兵学校では、性別の制限は設けなかった。全寮制で、衣食住は全て、宇宙軍の予算と、寄付金によって賄われることになった。
そして、特に実現したかったのが、外郭団体と、その特別会計である。特別会計であれば、議会の審議を必要とせず、宇宙軍で自由に使うことが出来た。しかも、その詳細を明かさなくても良いのだ。蒼龍の今後の活動において、自由に出来る予算があると言うことは必須であった。
そして、幼年学校と兵学校の一期生の受付が始まり、早速2000名以上の生徒が入学することになった。
運営に携わる職員は、とりあえず宮内省からの出向で賄っている。
「結構な人数が集まったわね。乳幼児もいるわよ。この人数が、あんたの下僕になるのね。」
リリエルが、ワクワクがおさまらないという感じで言ってくる。
「下僕ってなんだよ。同志だよ、同志。彼らを教育して、日本を支える優秀な人材に育てるんだよ。そして、この中から忠誠心のあるエリートを選抜して、より強固な組織にしていく。かなり楽しみにしてるんだよ。」
「しっかし偏ったわね。大丈夫なの?」
当時、農村部での口減らしの対象はほぼ女子だった。男子なら将来の労働力になるが、女子では大した労働力にならないためだ。なので、集まった子供たちは、
「男子2%に女子が98%かぁ・・・・。ここまで偏るとは思わなかったね。女子だけの軍隊って、これじゃ、ラノベの設定あるあるだよ。」
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