第14話 仲間が増えた

1917年4月 東京帝国大学


「大学に入っても、毎週皇太子に呼び出されてるわね。あんたたち、どんだけ仲がいいの?」


 ふくれっ面をしたリリエルが話しかける。


「なに?もしかしてジェラシー?殿下にカミングアウトしてからは遠慮無く、これからの計画を一緒に練ってるんだよ。」


「ちゃっちゃと超兵器作って、世界を統一しちゃいなさいよ!あんたなら出来るでしょ!」


「だぁかぁらぁー、一朝一夕には行かないって説明しただろ。超兵器を一つ作っただけじゃダメなんだよ。それを継続的に生産できる工業力や技術力、組織的に運用できるだけの人材育成、そして、それを支える兵站と、やらなきゃいけないことは山ほどあるんだよ。」


「そんなに悠長なことをしてて大丈夫?今も、ヨーロッパですごい人数、死んでるわよ。」


「そうなんだけど、15才の学生じゃ、どうしようもないね。とりあえず、あと数年で殿下は摂政に就任するから、そうなれば、憲法改正以外の大権が手に入る。で、まず、殿下には殿下直属の「宇宙軍」を作ってもらうことになってる、って、リリエルも一緒に聞いてただろ?」


「そーだっけ?そういや、そんな話をしていたような気がするわね。それでそれで?」


「あのさー、俺の頭の中のマンガとかアニメばっかり見てるから、ちゃんと聞いてないって事になるんだろ?俺と殿下が話してるときくらい、マンガ読むのやめて聞いとけよな。」


「わかったわよ。で、どんな計画になったの?」


「まず、最小規模で良いから、皇太子直属の宇宙軍を設立してもらう。で、もちろん俺はそこに配属になる。周りからは、皇太子の軍隊ごっこ程度に思われておくのが一番良いね。で、アメリカやヨーロッパにダミー会社を設立して、そこでの活動拠点を作るんだよ。情報収集の拠点にもなるしね。それと同時に、人材の発掘や教育を行い、新技術を開発して日本の基礎工業力を、“密かに”底上げしていく。新しい技術があまりにも外国に流出したら、ドイツやアメリカで、史実より早く核兵器を作られてしまう可能性もあるからね。それだけは避けなきゃいけない。技術の流出には慎重にならないと。」


「なるほどねー。ちゃんと考えてたのね。安心したわ。でも、なんで“宇宙軍”?」


「最初は“空軍”にしようと思ったんだけど、空軍だと、常に海軍と陸軍と連携だとか、飛行機はどっちが開発するかだとか、変なしがらみがありそうだからね。宇宙軍だと、あまりにもやってることが理解されなくて、自由に出来るかなって。」


「なるほどねー。」


-------------


「きみが高城くんかい?」


 突然、バンカラをまとった、ちょっとむさ苦しい感じの学生に声をかけられた。


「はい、そうです。あなたは?」


「僕は甲斐 忠一(かい ただいち)、高城くんと同級生だよ。」


「あ、はい、よろしくお願いします。」


 なんか、暑苦しい男だな。


「高城くんは、首席で入学したんだってね。しかも、飛び級で。」


「はい、そのようですね。」


「僕は次席だったんだよ。ぼくはね、生まれてから今まで、勉強では誰にも負けたことはなかったんだ。それなのにね、僕より年下のキミが首席で僕が次席なんて、なにかおかしいとは思わないかい?」


「いえ、べつに。」


 なんだろう?このラノベに良くあるテンプレ展開。ものすごい既視感がある。


「それでね、これは白黒付けないといけないと思うんだ。どうだい?僕と勝負しないか?」


「ええっと、それはいいですけど、何で勝負するんですか?」


「聞くところによると、数学と物理が得意なんだってね。僕も数学と物理では誰にも負けたことがなかったんだよ。だから、数学と物理で勝負をしようじゃないか。東大の中西先生が私の父と旧知でね、今回のために、特別に問題を作ってくれたんだ。」


 ということで、中西先生の研究室に行くことになった。


「やあ、良く来てくれたね。今年の首席と次席が来てくれるなんて、とてもうれしいよ。」


 年の頃合いは50歳前後で、とても気さくな感じの先生だ。


「中西先生、よろしくお願いします。問題はもう出来ているでしょうか?」


「ああ、出来ているよ。大学卒業程度の水準にしているから、事前に相当勉強してないと解けないと思うけど、大丈夫?」


「はい、大丈夫です。私はフーリエ級数もリーマン幾何学も習得しています。高城くんも、それくらい大丈夫だよね?(ニヤリ)」


 勝負なんてどうでもいいと思ってたんだが、なんだか、こいつにだけは負けたく無くなった。


「はい、もちろん大丈夫です。」


「それでは、始め!」


 数学の大問5と、物理学の大問5の試験問題だ。ざっと見た感じでは、優秀な大学生で2時間くらいのボリュームだろう。


 1時間後


「出来ました。」


 俺は手を上げて宣言する。


「えっ!?」


 問題を一所懸命解いている甲斐と、椅子に座って何かの論文を読んでいた中西先生が同時に声を上げる。なんというテンプレ。


「もう出来たのかい?なにか、勘違いとかそんなんじゃないよね?」


「はい。このレベルの問題なら、造作も無いことです。」


 中西先生は早速採点を始める。


 隣の甲斐は、高城の回答が間違っている事を信じて、一心不乱に問題を解いている。


「ぜ、全問正解だよ。この証明問題も、こんなに簡潔に証明するなんて・・・・・」


 バンッ!!


 甲斐が、両手の拳を机にたたきつける。


「なぜだ!なぜ俺は負けたんだ!!」


『坊や、だからじゃないかな?』俺は、心の中でつぶやく。


 甲斐はプルプルと肩をふるわせている。なんだか、ちょっとかわいそうな気がしてきた。


 どーするかなー、と、困っていると、突然、甲斐が土下座をしてくる。


「高城先生!どうか、どうやったら高城先生のような、高みに上れるのか教えてください!」


 暑苦しいんだか、潔いんだか・・・・


「甲斐くん、よしてくれよ。ぼくはね、学習院で東宮殿下と同級生だったんだ。そこでね、将来、殿下の剣となり盾となり、殿下の王道をお支えすると誓ったんだよ。その時から、ぼくは寝食を惜しんで勉強したんだ。それが今のぼくなんだよ。」


 もちろん嘘である。


「今のぼくがあるのは、殿下のお力のおかげなんだ。ぼく一人で出来たことじゃない。だから、そんなに気にしなくて大丈夫だよ。」


「そ、そうなんですね!それでは、私も東宮殿下の王道のお手伝いをさせてください!殿下のお力となれるよう、高城先生、ぜひ、導いてください!」


『優秀な仲間ゲットだぜ!』(性格はちょっとアレだけど・・・)


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