第13話 欧州大戦勃発
1912年
明治天皇 崩御 皇孫殿下は東宮(皇太子)殿下になられた。
1914年(大正3年)
欧州大戦(後の第一次世界大戦)が勃発
「やっぱり、史実通りになっていくんだね。」
13才の蒼龍はつぶやく。
「そりゃ、そうよ。あんたが何かしないと、歴史が変わるわけないじゃん。学習院の生徒がちょっと入れ替わったくらいじゃ、何のバタフライ効果も期待できないわ。サッカーばっかりやってんじゃないわよ!」
「サッカーはサッカーで、遠大な計画があるんだよ。この前、説明しただろ。」
この年、蒼龍たちは学習院初等科を卒業し、東宮と一緒に「東宮御学問所」に入学していた。
東宮御学問所は、日露戦争で連合艦隊を指揮した東郷平八郎が所長を勤め、殿下に帝王学を学んでもらうために設立された機関である。
「殿下、今般の欧州での戦争が、この後、どのように推移していくかを予測した論文になります。幸いにも、私の父は洋書を購入するために“つて”があり、欧州の最新情報を手に入れることが出来るので、その情報を元に考察しました。」
蒼龍は、欧州大戦がどのように発生し、どのように推移するかを詳細に記載した論文を東宮に渡した。考察したと言ったが、歴史を知っているのだから、詳細に書けるのは当たり前である。
「それでは、ドイツ帝国やロシア帝国は崩壊し、世界新秩序が誕生するということか!なんと、大胆な予測!しかし、ここに書かれている「戦車」や「潜水艦」や「毒ガス」は、本当に戦場で使われるのだろうか?また、飛行機の性能も、短期間でこんなにも向上するものだろうか?」
「はい、殿下。私の予測によれば、間違いなくこのような兵器が戦場に現れます。現代の全面戦争は、国力の全てを注ぎ込んで技術開発をするので、急激に技術が進歩するのです。」
「しかし、この欧州大戦で2,000万人もの無辜の民が死ぬというのか?軍人を入れると3,700万人も死ぬと?信じられぬ。国とは民を守るためにあるのであろう?その民の犠牲を、ここまで顧みずに戦争が出来るものなのか?」
「殿下、一度暴走を始めた機関車は、なかなか止めることが出来ないものなのです。戦争とは、始めることよりも、どう終わらせるかが難しいのです。」
そして、欧州大戦は蒼龍が記したとおりに拡大していく。
1917年(大正6年)3月 蒼龍 15才
蒼龍は、飛び級で東京帝国大学に入学することになった。
「高城くん、私の元を離れて、東京帝国大学に進学してしまうのだね。残念だよ。欧州大戦はきみの予測通りになって、ロシアではニコライ2世が退位し、ソヴィエト会議が権力を握った。きみはどうしてそんなに未来のことがわかるんだね?」
蒼龍はかねてより計画をしていたことを実行する。それは、このタイミングしかなかった。
「はい、殿下。実は、私は殿下に秘密にしていたことがございます。私は、時々夢を見るのです。それは、近い将来に起こる事件の夢です。そして、それはほとんど的中してしまうのです。」
「な、なんと!それはまことか?それでは、未来に起こることが全てわかるというのか?」
「いえ、殿下。その夢は時々しか見ることはありません。全てがわかるというわけではないのです。しかし、大きな事件の前には、必ず見ます。それは、100年後から来た未来人が、私に語りかけるという夢なのです。もしかしたら、未来の超文明の人間が、私に伝言をしているのかもしれません。」
「なるほど。そうだとすれば、高城くんの優秀さがより理解できるような気がするよ。きみは選ばれた人間なのかもしれないね。」
蒼龍は、嘘と真実を織り交ぜながら東宮に話していく。
「そして、これから話すことは非常に重要なことです。絶対に口外してはなりません。殿下が口外してしまえば、それを恐れる勢力によって、私が害される可能性があります。お約束していただけますでしょうか?」
「高城くん、きみとの、ともだちとの約束だ。これは、天地神明に誓って口外しないよ。」
「ありがとうございます。欧州大戦が終わった後、日本は中国大陸に進出し、愛新覚羅溥儀を皇帝に据えて、中国東北部に満州帝国を作ります。これは日本の傀儡政権です。そして、日中戦争へと発展してしまい、さらに、欧州で二度目の大戦が始まり、日本はドイツと同盟を組んで、英米と戦います。この戦いは混迷を極め、ついに、日本の連合艦隊は全滅、東京、大阪、名古屋などの大都市は爆撃機による空襲によって焼かれ、何百万人もの無辜の民が殺されてしまいます。そして最後に、広島と長崎に、アメリカが開発した新型爆弾が一発ずつ落とされます。その新型爆弾は、たったの一発で広島と長崎を灼熱の業火によって“蒸発”させてしまいます。そこに住んでいる20万人の婦女や子供たちとともにです。そしてついに、焼け野原になり、民族存亡の危機に陥った日本は、英米に無条件降伏をするのです。」
蒼龍は“事実”を淡々と話していく。何もしなければ、確実に訪れる悲劇。それを黙って聞いている東宮の顔は、みるみる青ざめていき、かみしめた唇には血が滲んでいる。
「そんな・・・。そんな未来が待っているのか・・・・。そうだ、その時の天皇は誰なのだ?今上か?それとも・・・・。」
蒼龍は固唾を飲み込む。当然伝えなければならない。しかし、この事実に殿下は耐えることができるだろうか?
「はい、殿下。その時の天皇は・・・・・、殿下にございます。」
東宮にとっては、あまりにも衝撃的で残酷な告知。自身の治世において、神武天皇以来初めての国家の敗戦と占領、そして、何百万人もの無辜の民を死なせてしまう。それを自分自身は防ぐことが出来ない。
東宮はうつむき、ぼろぼろと涙を流している。
「なぜ、なぜ私は、そんな無謀な戦争の詔勅を出したのだ・・・・、なぜ、そんなに国民が死んでいるのに、戦争を止めなかったのだ・・・・、なぜだ?教えてくれ!高城くん!」
「はい、殿下。その頃には言論や出版の自由は全く無く、日本軍が負けていることも、空襲で無辜の民が多く死んでいることも正確には伝わらなくなっております。それは、殿下に対しても同じで、殿下の所にも、被害を矮小化した報告しかなされません。残念ですが殿下も、最後の最後まで、正確な事実を知ることが出来なかったのです。時の為政者が、軍部が、自分に都合の良いように、情報をねじ曲げていたのです。“国安を害す”という名目で情報を隠し、彼らは最悪の形で国安を害してしまったのです。」
「そうか・・・、そうなのだな・・・・。本当のことに、最後まで気づくことは出来なかったのだな。何と無能なことよ。これでは、皇祖に顔向けが出来ぬ。私は、高城くんが書いた、ラインホルトの様な英雄にはなれないのだな・・・・・。」
「殿下、悲観してはなりませぬ。諦めてはなりませぬ。高城は、そうならない為に意を決して殿下に告白いたしました。必ず、未来を変えることができます、いえ、変えて見せます!そのために、私は、学習院で仲間を作りました。そして、東京帝国大学でも、未来を変える為の仲間を集めます。そして力を、もっと力をつけます。この大きな歴史の奔流に逆らえるだけの、力を付けとうございます。どうか殿下、この悲劇的な未来を変える為に、私と一緒に、一緒に戦って頂きたく存じます。」
「未来を、未来を変えることができる・・。そうか、そうだな。高城よ。私は、この日本を救うことができるだろうか?」
「・・・・・殿下以外の何者に、それがかないましょう。」
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