第12話 愛と勇気と根性と
「高城くん!なぜ殺したんだ!」
いつもは冷静で、感情を表に出すことのない殿下の怒声に、教室の級友達は凍り付いた。しかも、「高城が誰かを殺した」という、にわかには信じられない物騒な発言。
「唯一の親友を、友を、なぜ、なぜキミはジークベルトを殺してしまったんだ!!」
殿下は涙を流しながら詰問してくる。
「で、殿下、落ち着いてください。あれは物語にございます。」
学習院初等科に入学してすぐに蒼龍は、皇孫殿下に自身が執筆(盗作)した小説を渡した。一度に渡すと、万が一侍従などに発見されて、読むことを禁止されては台無しなので、毎週数ページずつ、殿下が無理なく読める分量を渡す。そして、殿下が読み終わった後は、同じクラスや、別のクラスの同級生に回して、皆に読んでもらっている。
題名は、「大銀河英雄奇譚」
舞台は西暦4000年。銀河全域に版図を広げた人類は、ドイツ帝国から発展した「大銀河独逸帝国」と、その支配に反発する、アジア圏(日本を除く)の人々が中心になって立国した「銀河民主主義人民共和国」との宇宙戦争を描いた超大作だ。
大銀河独逸帝国では、「ラインホルト・アーベントロート」が無能な皇帝を廃して自身が皇帝となり、不正を質し、公平な治世を行い国は富んでいく。その過程で、唯一の友であった「ジークベルト・キルヒアイン」を、自らの判断ミスにより死なせてしまう。一方、銀河民主主義人民共和国では、ポピュリズムが蔓延し、民衆に対して心地よい政策や、選挙対策の戦争ばかりするようになり、国力の低下や政治の腐敗が蔓延する。そんな中、共和国の軍人「楊文理」は、シビリアンコントロールと民主主義の機能不全にもがきながらも、全銀河的な民主主義の実現を目指して戦う。
そして、ラインホルトと楊文理との最終決戦において、双方、甚大な被害を出しながらも講和にこぎ着け、現在の大日本帝国のような民主議会のある立憲君主制に移行していくというストーリーだ。
「しかし、民主議会というのは、こんなにも腐敗してしまうものなのか?我が国にも帝国議会があるが、それも腐敗していくのだろうか?また、やはり専制君主制において、皇帝が暗愚だと、どうしようもないものなのだろうな。」
「殿下。民主議会は必ず腐敗するというわけではありません。それを防ぐために、三権を分立させ、それぞれが、不正がないかを見張るのです。今の帝国憲法にも、三権分立がうたわれております。また、普通選挙を行うには、国民の知識水準も高くなければなりません。政治家の言っていることが、良いことなのか、そうではないことなのかを判断する智慧も、国民に求められるのです。それに、日本は帝国憲法によって、お上(天皇)の権限に制限を設けております。例えば、お上には立法の大権がありますが、それは、“議会の協賛をもって”と記載されておりますので、議会を無視した立法は出来ないようになっています。」
「なるほど、高城くんは物知りだな。帝国議会に三権分立が書かれていると言うことは、我が国の政治体制は優秀であると言うことなのだな。」
「はい、殿下。確かに三権分立の記載はありますが、まだ不完全な部分もあると思います。たとえば、内閣総理大臣の決定方法については、帝国憲法には記載がありません。慣例的に、元老が推挙し、お上(天皇)が任命するという形を取っております。」
「そうなのか?それは知らなかった。」
「もしも、お上が任命した総理大臣に反対することが、“お上の意向をないがしろ”にしているといった主張がされた場合、反論できなくなる可能性もあります。また、お上は「五箇条の御誓文」の第一で、「広く会議を興し万機公論に決すべし」と言われました。しかし、「国安を妨害すると認められるものは,内務省においてその発行を禁止または停止すべし」という、政令があり、内務大臣が「国安を妨害する」と判断すれば、新聞の発行を停止させたり、記事を書いた新聞記者を逮捕したり出来るのです。これでは、「万機公論」は望むべくもありません。」
「しかし、国安を妨害するのは、悪いことなのではないのか?」
「はい。もちろん、武力によって政府を転覆したり、皇室を廃したりするような言論は取り締まらなければならないでしょう。しかし、政府の政策や軍の意向に反対したというだけで、取り締まられる事もあります。実際、日露戦争に反対したという理由で、多くの人たちが逮捕され、処刑されました。たしかに、日露戦争はお上の詔勅により開戦いたしましたし、この戦争は必要であったと思います。しかし、反対しただけで逮捕されるのは「万機公論」に反しないでしょうか?このようなことが続けば、「万機公論」は有名無実となってしまいます。また、何が「国安を妨害する」のかの基準も明確ではありません。お上の御心を、踏みにじることのないように、しなければならないと考えます。」
「なるほどな。誰もが自身の考えを、自由に言えるようにならなければならない。それが陛下のお望みと言うことだな。」
「はい、殿下。言論の自由が無ければ、時の為政者が自分に都合の悪い言論を封殺してしまうことが出来ます。それに、このような事を私が言っていることが、先生方や侍従の方々に知られたら、私は逮捕されるかも知れません。今現在は、言論の自由はないのです。このように、五箇条の御誓文に込められた、お上の御心を無視するような事が、決してあってはならないと思います。」
五箇条の御誓文や教育勅語などの、天皇陛下の御心は絶対です!!とアピールしつつ、専制君主制や民主主義のメリット・デメリット、そして、言論の自由や基本的人権の重要性を、説いていく。
そして、蒼龍は次々に小説を書いて(盗作して)、殿下に渡し、愛と勇気と努力と根性を伝えるのであった。
<参考(一部)>
「宇宙戦艦 三笠」
※戦艦三笠を宇宙戦艦に改造して、地球を救うために、遙か銀河の彼方、天女の住む星へ旅をする物語。第二部では、突如地球に攻めてきた、「白色人帝国」と激闘を繰り返し、刀折れ矢尽きた三笠は、最後の武器、「命」を持って、白色人帝国の巨大戦艦に特攻する。
「頂点を目指せ!」
※地球に侵略してくる宇宙怪獣を、二人の少女が巨大合体からくり人形に乗って迎え撃つ物語。最終話では、自らの命も省みず、暗黒洞穴爆弾を爆発させ、1万2千年後に地球に帰還する。
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