第11話 おともだち

自己紹介の後の休憩時間


「殿下、お初にお目にかかります。○○伯爵の長男、△△にございます。殿下の忠臣となれるよう、全身全霊をもって努力したいと思います。なにとぞ、お見知りおきを。」


 皆が順番に、殿下に挨拶をする。


 そして、高城蒼龍の番。


「高城蒼龍と申します。殿下にお願いがございます。私を、“ともだち”にしていただきとうございます。」


 そう言って、右手を差し出す。


「これは・・・・?」


「はい、殿下。“シェイクハンド”と言います。英国流の“ともだちの証”にございます。」


 同級生達がざわつく。


「た、高城くん!殿下に不敬であろう!」


「そうだ!ぼくたちは臣下だよ!“ともだち”だなんて、畏れ多い。」


 それぞれに、蒼龍を非難する。しかし、もちろんそんなことで蒼龍は動じない。中身はもう“中年”にさしかかる年齢なのだから、小学生程度の非難など、どこ吹く風だ。


「殿下、何とぞ私を“ともだち”にしてください!」


「ともだち・・・・」


「はい、殿下。“ともだち”であります!」


 殿下は、おそるおそる、蒼龍の差し出している右手を取り、握手をする。その様子はもどかしくぎこちない。


『か、かわいい!!!』


 その仕草は、どうにもかわいくて、蒼龍はきゅんきゅんしていた。


「高城くん、これで、私と高城くんは“ともだち”なんだね!」


「はい、殿下。殿下と私はこれで“ともだち”です!私の“初めてのともだち”になって頂いて、本当にありがとうございます!」


「そうか、初めての友達なんだね。私にとっても、高城くんは“初めてのともだち”だよ。」


「はい、殿下。ありがとうございます。“ともだちの絆”は、永遠なのです。例え、何があろうと、夷狄(いてき)が攻めてきて、どんな危機におちいろうと、その“ともだちの絆”は常に輝き、夷狄を滅ぼす力となります。そして、この教室に居る全員を、殿下の“ともだち”にして頂きとうございます。」


「そうだね!みんな、みんなともだちだよ!」


 殿下は皆の手を取り、“ともだちの証”を交わしていった。


『ものすごく、ほほえましいね。担任の先生になった気分だよ』


 蒼龍も教室のみんなと“ともだちの証”を交わしていく。


 そして、大岬(おおみさき)くんに、


「大岬くん、蹴球が好きなんだね!ぼくも大好きなんだよ!一緒に世界を目指さないか!」


「世界・・・・・。世界って、英国を倒すって事?やろう!やろうよ、高城くん!一緒に英国を倒して、世界一になろう!」


「じゃあ、昼休みに、ちょっとボールを蹴ってみない?遊戯用だけど、ちょうど良い大きさのボールがあるみたいなんだ!」


 大岬くんは「ボール」という単語を知っていたが、他のみんなは「ぼおる?」という感じだった。英語がほぼ普及していない明治期なので、小学生が知らなくても当然だ。


『ついつい、英単語が出ちゃうよね。ま、みんなに慣れてもらえばいいか。』


昼休みの校庭


「じゃあ、パスするね!」


 そう言って、蒼龍は大岬くんにパスを出す。グラウンダーでまっすぐ蹴り出した素直なパスだ。


 大岬くんはそのパスを、右足のインサイドで受けて勢いを止め、ぴたっと足下に収めた。


『すごい!基本がきっちり出来てる!』


 そして、大岬くんから鋭いパスが帰ってくる。蒼龍はそのパスを受けると、そのまま横に走り出し、ドリブルをしながら大岬くんにパスを返す。大岬くんも同じ方向に走り出し、パスを受け、ドリブルをしてパスを返す。言葉を交わす必要は無い。二人は、ボールで会話をしていた。


 そして、校庭の壁が近づいた頃合いに、蒼龍はクロスを入れた。ちょうどボレーシュートが出来るように合わせた、絶妙のクロス。


 大岬くんはその意図を察し、クロスに合わせてボレーシュートを放つ。ボールは見事に、校庭の壁に大きな音をたててぶつかった。


「すごい!すごいよ、岬くん!じゃなかった、大岬くん!」


「高城くんもすごいね!それだけ蹴球が出来る人は、高等師範学校でも少ないよ!」


 大岬くんは、幼少の頃より父親からサッカーの技術を学び、時々、高等師範学校の蹴球部の練習にも参加をしていたそうだ。


『まさに英才教育だな。』


 そしてこの日から、二人のワールドカップへの長い旅が始まる・・・・。



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