第10話 入学
1908年4月
学習院初等科に入学することとなった。
高城家は大名の血筋で有り、望めば学習院に入学することが出来た。1901年に高城家の長男として転生したのは偶然なのか、それとも何かしらの意図があったのかはわからないが、いずれにしても、蒼龍にとっては僥倖であった。
「いよいよね。」
リリエルは胸を張って直立し、後ろ手を組んで蒼龍に話しかける。
「ああ、すべてはこれからだ。」
蒼龍は椅子に座り、両肘を机について手を鼻の前に組んでつぶやいた。
「う・・ぷ・・・・あーはははーーーー。あんた、ほんと面白いわねー!オタクねー!」
「リリエル、笑いすぎだろ!お前が振ったんだろ!」
「なんかね、魂が融合してから、あんたの“ツボ”がわかるようになっちゃったみたい。だんだん自分がダメ人間(天使)になってくのが心地いいわー!しっかし、あんた、ほんとオタクね!どれだけアニメ見てマンガやラノベ読んできたの?あんたの記憶にあるの読んでたら、飽きないわー。」
「まあ、それも今回の為に用意された”神の計画”だったのかもな。これが、入学してすぐに使う秘密兵器だ。」
蒼龍は、30冊以上にも及ぶ、自分自身で書いた本をぽんぽんと叩いてニヤリと笑った。
学習院初等科入学式
蒼龍は、いずれこの国の元首となる皇孫殿下と同じクラスに入ることが出来た。これは、蒼龍の計画にとって必須と言って良かった。
日本でクーデターを起こして実権を握り、21世紀の技術をもって世界から戦争を排除するという計画は断念していた。その代わりに蒼龍が採用したのは、強烈なカリスマを持つ人物に近づき、その影響力をもって日本を導き、世界を変えていくという方法だ。
そのためには、必ず皇孫殿下の信頼を得て、その腹心にならなければならなかった。
そして蒼龍は、父龍太郎に学習院に入りたいという意向を告げた。龍太郎は感激し、旧知の陸軍幹部らに、いかに蒼龍が優秀であり皇孫殿下の学友にふさわしいかをアピールした。
また近年、龍太郎が「四○式自在製図定規」を発明したことにより、軍の設計業務が著しく改善した功績も考慮されたと言える。
「蒼龍よ、殿下となんとしても親しくなり、信じられないくらいかわいらしい妹がいることを、それとなく強烈に宣伝してくるのだぞ!」
まあね、それくらいの事はしても良いよ。でもね、今の時代、殿下のお妃(きさき)候補を決めるのは元老のご老人なんだよね。悲しいけどこれ、現実なのよね・・・。
そしてめでたく、皇孫殿下と学友になれたのである。
入学式は、院長の乃木希典の挨拶から始まった。
乃木希典は、日露戦争において、陸軍第三軍を率い二百三高地を戦い、旅順要塞を攻略した功労者である。乃木はその戦闘で二人の息子を亡くしている。
その実績と人柄を買われて、そして、亡くした子供の代わりにと、明治天皇より学習院院長就任の勅命を受けたのである。
入学式が終わった後、殿下と我々は教室に移動した。そして自己紹介が始まる。殿下は一番最後のようだ。
「高城蒼龍です。勉学と運動に励み、将来殿下をお支えすることの出来る、忠臣になりたいと思います。趣味は、新しい機械を発明することと、蹴球(サッカー)です。」
とりあえず、無難な感じで言ってみる。
その後も、学友たちの自己紹介が進む。皆、自身の実家の爵位や父親や先祖の功績を披露し、殿下の忠臣になることを誓う。
『それって、“自己”紹介じゃないよなぁ・・・』
などと思っていると、
「大岬 太郎(おおみさき たろう)です。世界一の蹴球選手になって、日本男児の力を大英帝国に見せつけたいです!」
『むむむ!「大岬 太郎」!なんと香ばしい名前。まさにサッカーをするために生まれてきたような少年だな!』
大岬くんの父上は、東京高等師範学校の教師をしていて、そこでサッカーチームの監督をしているとのことだ。爵位は子爵。
蒼龍も前世では、サッカーで全国優勝を目指したこともあるほどの上級者。ふつふつと、野望が沸き立ってきたのだ。
『よし!大岬くんとサッカーチームを作って、全国優勝!いや、1930年の第一回ワールドカップで優勝!そして、オリンピックでも優勝を実現して、日本を世界一のサッカー強豪国にするぞ!俺と大岬くんがいればきっと出来る!!』
早速、乃木院長に子供用のサッカーボールの入手を直訴した。
「あんた、当初の目的、忘れてない?」
リリエルはあきれるのであった。
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