第5話 お隣は天使様?(1)
天使ときたか・・・。五感が全くないにもかかわらず、なぜか頭痛に襲われたような気がする。
「天使様ですか・・・、その天使様がなぜ地上にいらしたのですか?」
「おっ、やっと信じる気になった?いい子だね!じゃ、今までのことを説明してあげるよ」
いや、全く信じてないのだが、とりあえず話を聞くことにする。
「私はね、人間が面白そうな実験をしてるから見に来てたの。そしたらものすごいエネルギーが集中して加速器ってやつが暴走したのね。で、それをあなたが止めたんだけど、加速器や施設の建築物、それに施設の庭にある植栽とかの形が、時間と空間を操作する魔法陣の形をしてたわけ。その影響で、どうもあなたと、近くに居た私が飛ばされたみたいなの。で、高城梅子のお腹に宿ったのは、おそらく私が受胎と出産を司る天使だからじゃ無いかな?わかんないけど。どう、理解した?」
信じられるわけない。
「ああ、なるほど、良く理解できたよ」
人は嘘つきになれるものである。
「理解は出来たんだけど、なんでお前が実験場にいたの?面白半分?それに、施設の形が魔法陣って、それって偶然?」
「てか、信じてないでしょ。まあいいわ。それはね、きたるアルマゲドンに備えて、天使側の武器になりそうな物を探してたの。そしたらね、変な魔法陣が地上に描いてあるじゃん。近づいてみたら、人間が面白そうな実験をしてて、見てたわけさ。魔法陣は偶然とは思えないなー。解析したら、完全に魔力の流れを制御してたし」
「アルマゲドンって、神と悪魔が戦う最終戦争ってやつ?本当にあるの?」
「あるよー。次のアルマゲドンは2039年にあるの。でね、今の予測だと、このアルマゲドンで天使側は負けて、地球の支配者が悪魔になりそうなのよね」
「へぇ、そうなんだ(棒)。なんで悪魔が勝つってわかるの?」
「それはね、1900年代初頭から1970年頃までの、戦争や失政で2億人もの人が、悲しみや恨み、そして憎しみを抱えたまま死んじゃったの。そいういう負のエネルギーを持った魂は、全部悪魔のエネルギーになるからね。今のままじゃ、悪魔に勝てそうに無いの」
「なるほど。でも悪魔が勝ったからって、人間社会になんか影響あるの?今までも天使を意識すること無かったし、悪魔が支配者になったからって人間社会が変わるとは思えないなー」
「そうねー、原則、天使や悪魔はアルマゲドンの時以外は直接人間に接触することは出来ないのよ。でもね、啓示を与えたり奇跡を起こしたりしてある程度導くことは出来るの。今は天使が人間に対してそうしてるけど、悪魔が支配者になったら、おそらく人間に対して、戦争を起こしたり犯罪を犯したりする啓示や奇跡を起こすんじゃ無いかな。地球は今以上に、常に戦争や飢餓が絶えなくなるわね。負のエネルギーを持った魂は、悪魔の大好物だから。でね、一度でも悪魔が勝って地球の支配者になったら、次のアルマゲドンでも天使は勝てなくなるの。憎しみを持った人間の魂は、普通の魂の100倍以上のエネルギーを持ってるわ。しかも、負(マイナス)のね。そうなると、もう永久に天使側に勝ち目は無いの」
「なるほど。理屈はとおってるな。しかし、今も戦争や飢餓は世界のどこかで起こってるぞ。天使が支配してるんだったら、なんでそれを止めないの?」
「神様や天使も万能じゃ無いわ。いろんな方法で人間を導こうとしてるけど、現状はこれが限界。で、1900年ごろから食料生産を増やして、医学を発展させて人類を発展させることに成功したんだけど、その分、マイナスの歪みが生まれちゃったの。その歪みを突いて、悪魔たちがほんの少し、人間に影響を与えちゃったのよね。影響を受けた人数はほんの数人だったわ。でも、そいつらがね、とんでも無いことをやっちゃったの」
「ちなみに、その悪魔の影響を受けた人間って誰?」
なんとなく想像できてしまう。
「アドルフとヨシフとカーチス、それに青(セイ)よ」
「青って、江青のこと?なるほどね。4人目は予想を外したよ。てっきり旦那の方かと思った」
「ああ、毛沢東ね。彼は善人よ。本当に人民を救おうとしてたんだけど、悪魔は江青の方に目を付けたの。で、結局いいように操られて失政を重ねて6,000万人以上殺しちゃったけどね」
「なるほど。しかし、アルマゲドンに備えて武器を探してたリリエルが居なくなったんじゃ、みんな困ってるんじゃ無いの?2030年代の君たちの仲間、大丈夫?」
「うーん、心配してくれる天使は何人かいると思うけど、アルマゲドンに備えて頑張ってるのは全員だし、たいした影響は無いよ。それに、この時代にももちろん天使はたくさん居るし、私自身もどこかにいるはずだよ」
「タイムパラドックスってやつ?SF小説とかだと、過去の自分に出会うとどっちかが消滅してしまうとか、そんな設定もあったりするけど、実際どうなの?」
「どうかなぁ。キミと魂が融合しちゃって、他の天使たちと接触できなくなっちゃってるのよね。それに、私が知る限り、宇宙開闢以来時間を遡ったのは私たちが初めてだと思う」
「えっ?そうなの?神様だったら時間を巻き戻すことは出来そうだけど」
「そんなこと無いわよ。時間を巻き戻すことは、神様にも出来ないって言われてるわ。ミハエルが言ってたからね。でも、時間を巻き戻す研究をしていた天使が居たの。その天使によると、時間を遡っても、もとの世界の歴史を改編することは出来ないそうよ。遡った人だけ昔に飛ばされて、出現した時代のその瞬間に、元々の歴史とは違ったパラレルワールドが形成されるの。新しい歴史の分岐ね。もしそうだとすると、ここは元々の世界とは別の歴史を歩み始めた世界ね。私たちがここでどんな活動をしても、元の世界に影響は無いとおもうの」
「で、その天使様でも時間を遡る研究は失敗したと?」
「そうね。遡ることは出来なかったけど、時間の流れをゆっくりにする事には成功したわ。それが、あなたの施設にあった魔法陣。それに空間に干渉する魔法陣が組み合わされていたわね。二つの魔法陣があんな風に組み合わされてるのは、初めて見たわ。ねぇ、あなたの周りに魔道士とか居たの?」
「魔道士なんて、俺のいた時代にいるわけ無いよ。それと、時間を遡ったからって、元の世界を改変することが出来ないんじゃ、あっちの世界はやっぱり悪魔に支配されちゃうの?」
「このままだと、たぶんそうなるわね。みんなが何か強力な力とかを発見しない限りはね」
「ま、干渉できない世界のことを心配してもどうしようもないな。俺が元の世界に居たって結果は変わらないんだろ?」
「あんた、意外と薄情ね。ま、いいわ。話はこれからよ。この世界も、おそらくこのままだと、第一次第二次世界大戦を経て、冷戦に突入、各国の失政とかによってやっぱり2億人くらいは死ぬと思うのね。これをね、救うことが出来るのは未来を知ってる私たちだけなの!どう?すごいでしょ!“選ばれし者の恍惚と不安、共に我らにあり”なのよ!」
視界は真っ暗だが、頬を赤らめて、にへらと気色の悪い笑みを浮かべた腐女子の姿が見えたような気がした。
「なるほどね。つまり俺はこの時代に召喚された“勇者”ってわけか。とすると、転生時にもらったチートな魔法やスキルとかギフトとかあるの?」
ばかばかしいと思いながら聞いてみる。
「あるよー!神様からじゃなくて、私からだけどね。私と融合したことで、“天使の智慧”が使えるはずよ」
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