第6話 お隣は天使様?(2)

「天使の智慧?なんだか、賢者とか大賢者みたいなスキルだな。ラノベと違って、俺、引きこもりでもないし、ちゃんと彼女もいる(いた)リア充なんだけど」


「それ、何よ?わかんないこと言ってんじゃないわよ。天使の智慧ってのはね、見たり聞いたり読んだりしたことを、詳細漏らさず記憶できる能力なの。あんたの場合、これから経験することだけじゃ無くて、過去に経験したことも詳細に思い出せるはずよ。試しに幼稚園の入園式のこと、思い出してみなさいよ」


なんで幼稚園?と思いながら、その当時のことを思い出してみる。思えば、俺の最初の記憶は幼稚園の入園式だった気がする。母親に連れられて幼稚園の門をくぐった記憶がある。式の様子とかは覚えていないが、母親から離されて、子供たちだけで教室に移動したときに、隣の男子が激しく泣き出して、おしっこまで漏らしたのを覚えているな。あれは大変だった。


そんな事を思いながら、当日のことを思い出してみる。


「なっ!?」


幼稚園の門の色、形、母親の姿、周りの人たちの光景が、本当に、びっくりするほど克明に思い出される。母さんを見上げてみると、その髪型、化粧、胸につけてる花飾りの花びらの枚数まで詳細に認識できた。


当時の母さんは28才。今、改めて見るとものすごい美人だった。


そして入園式が終わり、母さんと離れて、担任の先生に連れられ、子供たちだけで教室に移動する。


「ああ、確かこの後だよな。隣の男子が泣き出すのは」


と思っていると。


「わーん!おかあさーん!おかあさんはどこー!いやー!おかあさーん!」


泣き出したのは自分だった・・・。


「キャハハハハハハハハハハーーーー」


リリエルの甲高い笑い声が聞こえてくる。


「あんた、泣き出したのは隣の男子だと思ってたでしょ。でも記憶を紐解くと自分だったのね!面白いわー!都合のいいように記憶を作り変えてたのね!あんた、才能あるわー!」


むちゃくちゃ腹が立つが、そういえば自分自身だったような気がしてきた。都合の悪いことの記憶を改変することが、人間にはあるとは知っていたが、まさか自分もそうだったとは・・・。


「クッ、殺せ・・・」


とりあえず、恥ずかしいので言ってみる。


「あんた、ラノベの読み過ぎよ!」


お前にだけは言われたくなかった。


気を取り直して、そのほかの記憶をひもといてみる。高校受験、大学受験の問題文も正確に思い出せる。それに、読んだ文献や論文、ネットニュースやウィキペディアの記事もだ。


「すごいな、この能力」


「でしょ!でしょ!これが天使の智慧よ!私がすごいって事、わかった?」


「すごいのはわかったけど、なんでお前はそんなに賢そうじゃないの?」


「なんてこと言うのよ!私は生まれてから18,000年の詳細な記憶はあるわよ!」


「なるほど、記憶はあるけど活用できてないんだね。うんうん」


「キーッ!天使に向かってなんてこと言うのよ!」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


「あんた、今、ひどいこと考えたわね。18,000才のロリばばぁってなによ!ばばぁじゃ無いわよ!ピチピチなのよ!天使の中じゃ若い方なんだからね!」


「えっ?心で思っただけのこともわかるの?隠し事出来ないじゃん」


「魂が融合しちゃったんだから、当然よ!」


なんだか、無駄に勝ち誇った姿が目に浮かぶ。


「でも、お前の内心までは読めていないような気がする?なんか不公平じゃね?」


「そうね、人間と融合した天使なんて聞いたことないからわかんないけど、私の魂の方が上位にあるからじゃ無いかしら?」


しかし、これだけ過去の記憶を詳細に思い出せるスキルがあるのであれば、リリエルの言っていることに信憑性が出てくる。


「とりあえず、暗闇から声がするのって違和感あるから、お前の姿とかこっちに送れないの?」


「そうね。これから“一生”つきあっていくことになるかも知れないから、私の姿、見せてあげるわ」


光の粒が集まって、だんだんと光る人間の形に収束していく。頭の上には天使の輪が形成される。


「やっぱり天使の輪ってあるんだ・・。でも、なんか、猫背?」


収束した光は人間の形をしているがディティールは見えない。なんだか猫背で肩が張っていて、ジャミラのような姿に見える。そして、光がだんだん弱くなっていき、ディティールが見えてくる。


「!!!!!????」


脇腹には白い禍々しい肋骨が見えており、肩は白い巨大なフジツボが乗っているようで、その白い陶器の様な顔は・・・・・


「サキエル?」


それは、エヴァ○ゲリオンテレビ版第一話に登場した使徒のサキエルそのものだった・・・・。


「あ、違った。あんたが天使とこんな変な生物をつなげてイメージしてたから影響されちゃったじゃない」


どうやら、違ったようだ。ちょっと安心した。


サキエルみたいな何かが、また光の粒になり、再度収束していく。


そして、そこに現れたのは、腰まである橙色の髪を持ち、ちょっと性格のキツそうな美少女。年齢は15才くらいだろうか。なぜか、白色のブラウスに、薄い紺色のセーラー服っぽいものを着ている。


「そ、それって、アスカ・ラ○グレー??」


「ん?誰、それ。ちょっとあんたのイメージが入っちゃったみたいね。ま、でもだいたいこんなもんよ。この服はいまいちね。ま、いつでも変えられるからいいけど、あんたの趣味ってこんなの?あとで、あんたの深層意識を見ておいてあげるわ」


「人の深層意識、勝手に見るなよ!」


「そう言わないの。人間にはいい言葉があるでしょ。“呉越同舟”よ」


「いや、それは敵同士が仕方なく協力することですけど・・」


「“一蓮托生”だったかしら?細かいことはいいのよ!」


どうも、俺のイメージする天使に影響されているようだ。俺って、アスカ・ラ○グレーのことを天使って思ってるのか?いや、こいつのしゃべり方がアスカに似てる気がするから、そういうイメージになったのかもな。

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